その他

『メトロポリス』りんたろう/『トイレット』荻上直子/『眼と精神』メルロポンティ/『戸惑う窓』堀江敏幸 …etc. -2024年7月後半に読んだ本/観た映画たち37作品について-

2024年8月28日

7月後半もダメな日々が増えるだけかと思いきや、読んだり観たりした作品も増えていました。
よかった。セーフ。

外に出られていない私が言うことでは絶対ないが、今年の夏は暑すぎる。
せめてもの気持ちで家の家事を全面的にしているわけだけど、洗濯物を干すときや乾くスピードで度肝を抜かれる。
こんなものに抜かれたくなかったよ、度肝。

幸い暑さ以外でも観た映画とかでも度肝を抜かれたりもしました。
よかった。ラッキー。

前回の記事

映画『メトロポリス』 監督:りんたろう

メトロポリス

本当に度肝を抜かれた。

衝撃的な作画の良さと、大友克洋のメタファーを感じるシナリオに圧倒され、視聴後に速攻2周した。

徹底したリップシンクや人物の挙動、瓦礫、排煙、全てのシーンの作画に眼を見張る。
音楽の使い方もラストは勿論、他のシーンでもBGM存在感の足し引きが上手い使われ方をしていてたまげた。(エピローグでの選曲と流れるタイミングが粋すぎる)

各キャラクターの印象も、モノローグなどを一切入れずにドライに描き切っている。「これ以上喋らせると説明的になる」というラインで踏み止まり、見せたい表情は描き、隠したい表情は隠す。演技の良さも抜群だけれど、細かな描写で汲み取れたり想像させてくれる余白に強く惹かれた。

バベルの塔とイカロスの翼が象徴的に色濃く出ているが、それに沿って見直す二周目では、徹底的に人間の不安定さとロボットのフラットさを押し出したシナリオに唸った。

この作品は単独でこれについての記事を書きたい。

映画『老人Z』 監督:北久保弘之

老人Z

大友克洋脚本/江口寿史キャラ原案という事で観たけれど、『メトロポリス』でも思ったように大友克洋は画風に脚本を調律するのが上手いなと思う。

話自体はドタバタギャグSFで少し退屈だけれど、これはそういうもんとして見れた。

映画『ダンケルク』 監督:クリストファーノーラン

ダンケルク

戦地からの生還を3つの視点と各時間尺で見せていくという構造にワクワクしたけれど、実際は緊張感を張り続けるための装置のような感じで、ノーランお馴染みの仰々しいトリックではなかった。

本作にそれが必要とも思わないけれど、身構え方としてはシリアスなアトラクションのような感覚で見入るのがいい映画かもしれない。

映画『エレファント・マン』 監督:デヴィットリンチ

エレファント・マン

見られることの憎悪と見つめることの愛情が表裏一体として描かれていて、苦しくなる映画だった。鑑賞後の実話ベースだということも知りやるせなくなる。ただ仰向けに眠ることに辿り着くのに、これほどの距離が必要になってしまうこともあるのだろう。

それぞれが持ち得る摩擦をできうる限り見つめる事が出来たらと思う。

映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』 監督:押井守

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー

ループものの作品が出ると事あるごとに言及される本作。やっと観た。

よくある印象の囚われるループではなく、もし日常アニメ自体のループ機能が壊れてしまったら…といったような仕掛け方には、前評判を聞いていても尚意表をつかれた。
タブーに触れたとしてカルト的な人気がある本作だけれど、それも納得。

けれどこれって本当に一回こっきり且つ既存の人気日常作品が踏み台にならないといけないと荒技だな。

映画『フレンチアルプスで起きたこと』 監督:リューベンオストルンド

フレンチアルプスで起きたこと

坂元裕二のドラマを思わせるようなシニカルな笑いが漂う家庭劇。

全ての会話上で言い回しや含みのある間が互いを気まずく苛立たせる。情けない父だけれど、いざという時の自分というものを自分でも信じることはできないし、往生際悪く言い逃れようとする。それを自身で目の当たりにしても人間そう簡単に変われるもんじゃない。

登場する大人たちは誰一人としてあからさまに悪くもないが、誰もが嫌な歪みを無自覚に抱えている。

会話が重しになって沈黙が揺れるような空気が堪らなく良かった。

映画『パワー・オブ・ドッグ』 監督:ジェーンカンピオン

パワー・オブ・ザ・ドッグ

西部劇かと思いきや、それぞれの思惑が交錯しながら進んでいくのは友情、愛情、憎悪と多くの軸を持ちながら繋がれる物語だった。

この人物にとっては友情/愛情劇、しかしこの人物にとっては復讐劇といった多面的な作り方が魅力的だった。
また人物描写だけではなく、カウボーイの生活や道具などの解像度も高くて、画としても惹きつけてくる。

何度見ても味がする映画。

映画『花束みたいな恋をした』 監督:土井裕泰

花束みたいな恋をした

(二人にとっては)劇的な出会いから、(誰もにとって)なんでもないありきたりな終わりを描く。

恋愛映画でしっかりと集中できたのは初めてかもしれない。

なんといっても作中で登場する本や映画、音楽が全て実在のもので、作中の年数にも完全に合わせている丁寧さ光っていた。
この具体的すぎる固有名詞で思い出を引っ張り出された人も多いだろうし、この解像度の高さによってストリートビューのくだりで「幸せな彼ら(もしかしたらいつかの自分)は確かにここにいた」と鑑賞者に突きつけてくるようだった。

映画『漁港の肉子ちゃん』 監督:渡辺歩

漁港の肉子ちゃん

日常の小さな小さな憂鬱や不安定さ、そして喜びを丁寧に“普通のもの”として描いているように感じて感動した。

こんなにだらしなくコミカルに動く肉子ちゃんが愛おしくてカッコよくて安心する。
それに対比するようにキクコの不安や喜びをリアルに描いているから、ことさら何でもない肉子ちゃんが光って見える。

“変な子”をフラットにフォーカスしたり、大きな舞台装置を小さく使う描き方は西加奈子らしさも強く感じた。
原作も読みたい。

映画『ドニー・ダーコ』 監督:リチャードケリー

ドニー・ダーコ

今で言うセカイ系に当たるのかと思うのだが、視聴者的には物語の仕組みを辿るための手がかりがもっと欲しくなってしまう。
ホラーミステリー色に時間を使いすぎてSF設定の開示を匂わせ程度しかしてくれないので、理解した上でもう一度見ても「そうなん?」という少し冷めた感覚があった。

最初何を描いているかは掴めるものの、何が起きているのかを拾いきれず、頭を抱えながら二周し、諦めて他のレビューを見たりしてとりあえず飲み込むことができた。

けれど主演の若きジェイクギレンホールはどこも魅力的で、この頃から仄暗さと狂気をこれほどに内包した演技ができていたのかと痺れた。

映画『すばらしき世界』 監督:西川美和

すばらしき世界

更生を描くという単純なものではなく、今の社会や環境にチューニングを合わせながら生きていく事とはどういう事なのかが痛い程に描かれていた。

また何より痺れたのは彼を撮ろうとする/書こうとすることについてのジャーナリズムとコミュニケーションを対比させたくだりだった。
ドキュメンタリー出身の西川美和が、人を追いながら“撮る”という行為自体の演劇性を疑いながら、それでもなお撮り続けているのだと実感した。

映画『イヴの時間 劇場版』 監督:吉浦康裕

イヴの時間 劇場版

喫茶店を舞台に、ロボットは心を持ち得るか?というテーマが群像的に描かれるけれど、どうしても“ロボット三原則”の引用元でアイザックアシモフがすでに描いた事を薄めてエンタメにしたような退屈さを拭えなかった。

「ロボットは愛情を抱きえるのか?」というよりは「人はロボットからも愛されていると信じることが出来る」という話かなと納得しかけたけれど、それにしてはヒロインのロボットがアニメ的にデレすぎていてテーマがブレて見えてしまう気がした。

ドラマ『トリリオンゲーム』 監督:佐藤雄三

目黒蓮によるハルがずっと原作のイメージ通りの眩しさと強さを感じさせてくれて良かった。

漫画のテンポの良さを維持しながら、下手に恋愛要素を足す訳でもなく、ドラマ尺のオリジナルルートもいい具合にスリルと気持ちよさがある落とし所で面白かった。

起こっている出来事の企業的なリアリティもしっかり出したり、二人の関係性や他のキャラのアフターなども丁寧に処理していて、いいドラマ化だったと思う。

書籍『眼と精神』を読む 著:メルロ=ポンティ

美術の必読書と言われるがハードルが高い『眼と精神』をとんでもなく読みやすくしてくれている。

翻訳は勿論、注釈や補注、図版が充実しているので、文中で前提とされるテクストや作品、人物などに殆どモヤモヤする事なく読み進められる事に感動した。

何かを観ること/認識する視覚と、それを受け取り認識する精神の間に起きていることをセザンヌの作品やデカルトの哲学から解いていく。
物と物、物と人の間にあるもの/おきることに焦点を当ていて、本文ではほとんど絵画の話だが、彫刻についても考える事ができて楽しかった。

漫画『超人X』〜10巻 作:石田スイ

超人X 10 (ヤングジャンプコミックス)

物語の全体の掴みどころのない感じがずっとあるが、キャラと超人能力のかっこよさだけでここまでずっと惹きつけてくれている。
修行も終えたメンバーの大型作戦に突入したのでここからも楽しみ。
窓さんは『ゆめにっき』モチーフのキャラだったのね。

映画『ブラックベリー』 監督:マットジョンソン

iPhoneに敗北したブラックベリーの、成り上がりとその結末までがテンポ良く描かれていくので爽快だった。

ものづくりの信念と企業としての立ち振る舞いの折り合いを付けきれずにいたが、やはりものづくりへの愛に寄戻るラストのマイクにはグッときた。

ヴェルヴェットが流れるヒットシーンあたりは『ウルフオブウォール・ストリート』を彷彿とさせる気持ちよさがあるけれど、本作はあの作品よりずっとドライな印象。

創業の二人の関係性や葛藤を変にドラマにするのではなく、まだ皆の記憶にある少し前に起きていた事実を見送るような見せ方がよかった。

映画『blank13』 監督:齋藤工

感情の処理や発露に時間がかかる息子と、衝動的な優しさで破綻する父。高橋一生のリリーフランキーの演技がとにかく良かった。
想像通りのあらすじが想像通りのレールを辿って括られるけれど、そこまでの文脈をセリフの少ない高橋一生が表情で語り出していた。

けれどその分佐藤二郎の存在が結構ノイズに感じてしまった。変な人たちへの変な優しさが曖昧な思い出として、あの小さな部屋で語られるだけでもシュールなコメディとして成立したのではないだろうか。
コメディであると説明する為に配置され、コメディをわかりやすく振る舞う佐藤二郎が保険のように見えてしまうのが悔しい。

映画『シコふんじゃった。』 監督:周防正行

王道コメディなドタバタ相撲部青春劇。

竹中直人がこんな頃から竹中直人のまんまで笑ってしまった。
宮沢章夫の「竹中直人とは竹中直人である」を思い出した。

本木雅弘の眩しい時期を見れたのも嬉しい。
ここから渋くなって『永い言い訳』の彼になっていくのが感慨深い。

映画『Shall we ダンス?』 監督:周防正行

勤勉な父が社交ダンスの世界の楽しさに触れていく話だが、まだ若い自分はあまりそのロマンに乗っかることが出来ず、冗長に感じてしまった。

コメディ要素も物語上でのアクシデントへの処理や登場人物へのヘイト管理が大雑把なせいか、笑い切れずに不快感やガッカリが勝ってしまうような居心地の悪さを拭い切れなかった。

小説『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』 作:安部公房

安部公房の初期作や未完の短編集。文庫化してくれて本当にありがとう新潮文庫。

他作品より読みづらく感じるところが多かったが、それも初期作の醍醐味なのかもしれない。
のちの作品よりロマンス要素が多く、けれども思弁に溺れて現実を歪めていくような所はこの頃からしっかりとあり興奮した。

人が存在をする為には愛そうとする意思が必要だと語る臭さは安部公房らしくもあるが初期ならではの希少な臭さかも。

映画『ハッピーデスデイ』 監督:クリストファーランドン

ループものあるあるを繰り返しながら、自分を殺す犯人を探していく。
パロディエンタメなので流し見がちょうど楽しい映画だった。お前はそれでええんかい、いやほんまにええのかよ、という感じで進んでいくので、雑と言えば雑だけど、そのテンポ感が痛快な人もいるかもしれない。

演出が派手でジャンクフードみたいな感じで楽しめる。
たまにはこういう映画も見たほうがいいなと思えたので良かった。

映画『ハッピーデスデイ2U』 監督:クリストファーランドン

前作の直後から始まり次のループへ。繰り返すほどダメージが身体に蓄積されてしまうという設定はどこに行ったのかと思っていたら、普通にその設定は生きていて主人公が無茶苦茶頑張ってるから耐えてるようで笑った。
ホラー/コメディ/SFをちょっとずつ齧れるけれど、どの要素もあまり自分にはグッとこないエンタメ作だった。

映画『こちらあみ子』 監督:森井勇佑

ただただ分かるようにしか分からない、子供の頃の感覚が鮮明に映し出されていた。

あみ子は大人からも終始“子供”としてではなく“あみ子”として手を焼かれていた。
周りに強い摩擦を生み、大人たちの消耗が目に見えるけれど、当然子供のあみ子も目に見えない消耗がある。

劇伴を担当した青葉市子も無茶苦茶良くて、作中のじゅくじゅくと胸を締めてくる展開に調和するように優しい音が鳴らされるのが救いだった。

通してみればあっけないけれど、だとしても彼女はどうすれば良かったのだろうか。

映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』 監督:ロジャーミッシェル

お父ちゃんの魅力で丸々引き込んでくれる作品だった。

息子は何をしてんねんとよぎりはするが、そんなことよりこの老夫婦がチャーミングで見守りたくなってしまう。
誤魔化そうとして朝食の邪魔をしてのダンスをするシーン。妻もあしらいつつ笑っていて、彼はずっとこんな楽しいし人なんだろうなと思う。

そんな陽気で温情なキャラクターだからこそ、彼の書いた戯曲が悲劇だというのが人間味をまた強く感じさせてくれた。

映画『SABAKAN』 監督:金沢知樹

懐かしい時代の雰囲気を纏った一夏の青春劇だが、やっぱりこういう作品は強みである時代の雰囲気というものを世代的に知らないので、真っ直ぐに受け止め切れていないような居心地の悪さがある。

子役も尾野真千子も竹原ピストルもすごく良かったので、完全にこっちの問題。

映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』 監督:ジャックドワイヨン

ブリブリに活躍するロダンが、カミーユを弟子にとってからのプレイボーイっぷりと彫刻家っぷりをぶん回すロマンス。

彼の元で腕を磨いても“ロダンの弟子”として見てもらうどころか、女流作家は黙殺されるというところが意外とあっさり描かれていたなという印象。二人の関係が同職カップルのメランコリックなもののように見えてしまった。

けれどバルザック像が見たくなる。箱根に行きたい。

映画『ジャコメッティ 最後の肖像』 監督:スタンリートゥッチ

肖像画のモデルを務めたジェイムズとジャコメッティによる18日間を追う物静かな映画。

ハイテンポな演出などは一切なく、ひたすら書いては消してを繰り返す。ジェイムズの輪郭を確かめるようなカットや、アトリエを再現した美術なども丁寧に作られていて、全体的におとなしい作品なのに惹かれる。

ひたすらに形を追いながらも、描くこと自体を探り続ける彼の不安定な弱さがだんだんチャーミングに感じられてくる。

彫刻は見たことがあるが、彼の絵もいつか生で観たい。

随筆『戸惑う窓』 著:堀江敏幸

窓にまつわるエッセイだが、絵画や彫刻、建築、小説、詩…と多くの作品から“窓”をピックアップして、展開されていくので読んでいくのが楽しかった。

引用された数々の作品を実際に見たり読んだりしたくなる。

窓は境界線上で向こう側を拒絶し切ることなく、曖昧で相互的な関係の架け橋になる。
けれどそこに必ずしも何かの行き来がある訳でもなく、ただ眺める事しかできないこともある。

安部公房の『箱男』についての言及が読めたのもよかった。

映画『かもめ食堂』 監督:荻上直子

少し辺鄙な空間での、本当になんでもない様子達を「なんかこういうの良いよね」という空気で満たしていた。

“なんか良い”を再現しようとするとヤラしくなりそうなんだけど、軽いコメディ感とのバランスがいいのか、心地いい。本当におにぎりのような映画だった。

映画『めがね』 監督:荻上直子

『かもめ食堂』より辺鄙な場所で、より何も起きない。けれどやっぱりなんか心地いい。

前作は訪れる場所としての描かれた舞台だったが、今回は居座る場所が舞台なので、食べたりのんびりしたりするだけなのに映画としての時間の長さを忘れそうになる。

もたいまさこって居るだけで良いからすごい。

映画『トイレット』 監督:荻上直子

“なんでもなさ”を突き詰めた結果辿り着いた最高のコメディ。しっかりしんみりしながらも声を出して笑った。

『かもめ食堂』で訪れる場所、『めがね』では居座る場所を舞台にして「なんか落ち着く」を描いてきた荻上直子が打ち出したのは場所ではなく「なんか落ち着く人」だった。もたいまさこの独壇場。

だけど次第に兄弟達も愛おしくなっていく。 大きなことは何もしないけど、なんかいて欲しい人。なんかわかってくれる感じがする人。そんな人たちは見て欲しいものを見ていてくれる人なのかもしれないなと思った。

映画『彼らが本気で編むときは、』 監督:荻上直子

トランスジェンダーであるリンコをも含めた、それぞれが母達が抱える母性が書き出されていた。
それはそれぞれの形で優しかったり呪いのような歪みを持っていたりするということをいい意味で淡白に見せているのが一貫していた。

自分で選択できる事と選択できない事。そしてその選択に連動する他人の選択や意思はどうすることも出来ない。
母性による子供への強制力は、想像以上にその選択肢を揺さぶってしまうのかもしれない。

映画『川っぺりムコリッタ』 監督:荻上直子

ただ当たり前に働いて食べること、そしていつか自分も他の誰かも死んでしまうこと。
それらを並列して描きながら、なんでもない幸せをかき集めてしっかりと掴もうとする意志が生き事だと、じんわりと語りかけてくる。

ムロツヨシ演じる島田の健気さと弱さが痛く眩しかった。
他の登場人物達も皆どうにも出来ない痛みを抱えながら、誰かと食事をして幸せを紡いでいるのだと思う。

映画『AKIRA』 監督:大友克洋

昔なんとなく観たっきりだったので十数年ぶりに再視聴した。

こんなんだったなと確認するように観ながら映像のかっこよさを以前よりも感じられた。
『メトロポリス』を先日見たので、大友克洋はこの玉座みたいなヤツ好きだなと終盤のシーンを思い出した。

大きな力を手に入れた少年のジュブナイル的要素、上位存在的な力の空洞な正体、無(もしくは無限)に回帰する大きな力…etc. SFの“見た事ある”が大体詰め込まれていて、本作の影響の大きさを改めて噛み締めた。

原作の漫画も随分と読み返していないので、また読まなければ。

映画『ブレードランナー2049』 監督:デュニヴィルヌーヴ

前作は前提としてフィリップKディックの原作があまりに面白かったため、映画ではビックリするくらいシナリオがつまらなくなっていて大いにがっかりしたけれど、本作はあくまで『ブレードランナー』の続編としてよく出来ていた。

その上で前作の設定をスポイルせずに引っ張りながら、主人公の内面的な“自身はレプリカントなのか?/何が人を人たらしめるのか?”という鏡合わせの葛藤を展開していて引き込まれた。

前作では映像的な興奮以外は落胆することばかりだったが、本作で回収されたことによってシナリオ的な価値をやっと見出せた気がする。
続編でこういった前作の受け止め方や評価の変化が自分の中であるのは初めてだったのでいい体験でもあった。

映画『アメリカンフィクション』 監督:コードジェファーソン

ステレオタイプな“黒人”文学を求められ、書き上げた作品がどんどん一人歩きしていく様がコメディタッチで描かれながら、主人公の周りのささやかで何でもない出来事達が静かに並列して進んでいく。

兄のようなマイノリティの存在を確かに見せながらも、劇的じゃない生活を送るマジョリティとしてのモンクの存在も確かにそこに在る。
エンタメに内包されるはずのポリコレだが、ポリコレがエンタメを飲んでいく構図になってしまうラストが何ともシニカルだった。

映画『俺たちに明日はない』 監督:アーサーベン

金・暴力・セックスをありありに描いた映画として先駆的だったらしいが、それにもかかわらずボニーとクライドに愛嬌を感じてしまうのがなんだか不思議で見ていて痛快だった。

逃走シーンの軽快な音楽と、爆音の銃撃、として離せない二人。多くのミュージシャンが引用したくなるのも分かるような、二人だけの関係性を一味の中に居る時でも感じさせられる。

悪党なんだけど、クライドのかっこよさ/ボニーの愛らしさが血みどろの中でもずっと光っていた。

まとめ

7月後半は合わせて37作品。

おもったより映画を観ていた。
私は視聴するにあたって倍速にしたりは絶対にしないタイプなのだが、半月で37作品となると流石にどんだけモニター前から動けていないんだと自分でもゾッとする。

この半月で特に印象に残っている作品はこの辺り

映画『メトロポリス』
映画『フレンチアルプスで起きたこと』
映画『トイレット』
映画『こちらあみ子』
書籍『眼と精神』を読む
随筆『戸惑う窓』

このあたりは一つ一つ取り上げた記事を書きたい。

『メトロポリス』はAmazonプライムで見ることができるが、8月いっぱいで配信が終了してしまうようなので、ぜひ皆さん見て欲しいです。
今まで見てきたアニメ映画の中で最も感動的な体験でした。制作コストどうなってんだよ。
同年に評価されたのが『千と千尋の神隠し』で、もしそれとダブっていなかったら確実にもっと有名な作品だったと思う。

『フレンチアルプスで起きたこと』『トイレット』『こちらあみ子』は自分の映画の好みがはっきりわかって良い鑑賞体験だった。
こういったシリアスゆえのコメディ要素って好きなんだなと実感できた。
『blank13』でコメディコメディしすぎてちょっと萎えてしまう自分も確認できたので、やっぱりこうやって自分にとって百点の映画ばかりを見るのではなく、そうでもない作品も色々見るって良いことだなと思える。

『こちらあみ子』は音楽を担当している青葉市子のサウンドトラックをリピートして聴いてしまう。
無茶苦茶良いです。
この物語を通した上で、エンディング曲が優しく掬い上げてくれるのが本当に心に沁みる。
青葉市子の「もしもし」という優しい声に泣きそうになった。応答してあげたかったんだね。

『眼と精神』を読む、『戸惑う窓』あたりではさらに見たい美術作品や、読みたい本が増えたのがよかった。
すでに知っている作品もこうやって取り上げられているとまたさらに見返したくなりますね。

ではまた8月前半のまとめ記事で。

次の記事

-その他
-