久しぶりのブログ更新。
散歩を少しずつ習慣づけて、元気になってきていたんですが、鬱をゴンゴンにぶり返してまた駄目になっていました。
正直なにかポジティブなきっかけがあれば抜け出せると思っていたんですが、これ本当に終わりのない洞窟ですね。
そんななかでも映画や本はちょっとずつですが観たり読んだりしていました。
体力や気力がなくても心を少し満たしてくれるものがあってよかった。
このレビューまとめシリーズも毎月やったり、途絶えてからドサッとダイジェストにしたりとブレブレになってしまっている。
ただ一人で勝手にやっていることなので、一人で勝手に再開できる。ブログっていいですね。
今年の2月から一気に7月までのをまとめていくので長くなります。
書籍『芸術の体系』 著:アラン
タイトルからの期待に反して、始終思弁的な考察が続いてあまり楽しめなかったのだが、どうやらアランが志願兵として兵役中に参考資料などをなしに書き上げた個人的な文書であったという事を後書きで知り納得した。
自分自身の中で芸術や文化をどう咀嚼して整理するかに向き合うために書かれた、言い聞かせのような長い独り言のような本。
けれどここまで整理されている独り言を読めるという贅沢も他にはないかも知れない。

書籍『芸術論20講』 著:アラン
『芸術の体系』に比べると人に聴かせるためにまとめられているなという印象。
身体表現、詩、建築、彫刻、絵画とジャンルごとに議論を展開していくが、やはりアランの思弁的な持論の範疇を越えることがなく、期待していた読み味ではなかった。
あくまで古典として楽しめた。

書籍『ラディカント』 著:ニコラ・ブリオー
ポストモダンの果てに作家が保つべき軸や立ち位置について、力強く大きな旗を立てるような本だった。
“お行儀良く”立ち回る美術や作家の在り方を批判しながら、作家の仕事とされてきた「翻訳」というキーワードを「移動」と再定義する事で、原点的な根を張る事と先を指し示していく事を両立してみせた。

書籍『意味の変容』 著:森敦
展示作家が参考に挙げていたので手に取ったが、読むのに時間がかかってしまった。
タイトルや概要から評論かと思いきや、とりとめなく展開されていく私小説のような文体でカジュアルに話が進んでいく。
けれどその軽さ反面、内容は内部と外部の持つ性質や効果についてぐるぐると堂々巡りするような複雑さがあり、積み上げていった理解を章ごとに積み直しさせられるようなもどかしさがあった。
本書の構成自体が言及されている意味の変容を体現していると言われればそうなのかもしれない。

書籍『いきの構造』 著:九鬼周造
振る舞いや心持ちとしての「いき」から、文化的な評価としての「いき」まで展開されていくのが面白い。
前半ではすごく古い美的感覚のような感触がしたけれど、垢抜けた駆け引き(緊張感と諦め)という形までほぐしてみれば、普遍的な視点であることに納得できた。

映画『パーフェクトブルー』 監督:今敏
今敏作品でこれだけまだ見れていなかったので視聴。
作中作のドラマ撮影からメタトリップ感が強い仕掛けが動き出して、こちらも主人公の混乱に巻き込まれていくのが心地いい。
サイコスリラーとしてシンプルに面白いんだけど、それ以上に各シーンの演出の仕方がかっこいい。
違和感の仕込み方も芸が細かくてもう一度みたくなった。

映画『関心領域』 監督:ジョナサン・グレイザー
徹頭徹尾、綺麗な構図で閑静に見せてくるのが異様に気持ちが悪い。
目を向けない事や目を逸らすといった拒絶的な描き方ではなく、レイヤーが一つ隔てているようなシラフさがより一層気味悪く、清潔な不快感を生んでいて震えた。
音楽の使い方も良かった。

書籍『メルロ=ポンティ・コレクション』 著:メルロ=ポンティ 訳:中山元
道具としての言語は、人間同士の関係性を構築していく事で次第に、ある種の身体性を持つようになっていく。
ありふれた言語によって内部へ取り込まれた事象が世界の“肉”として存在を自立させていく。
そうした言語が絡め取る諸々を、もう一つの身体として展開されていく。
「触れる」「触れられる」という関係性同様に「語る」「語られる」ことで“我”が存在するというふうに解釈ができ、なんだかしっくり来た。
まだ1割にも理解が届いていない実感があるが、また繰り返し読んでいく本だと思う。

映画『ターミナル』 監督:スティーブン・スピルバーグ
今更ながら視聴。トムハンクスをひたすら味わう映画。王道の展開で安心感あるストーリーだった。
主人公の失恋という要素よりも、ヒロインのどうしようもなさが気になる。

映画『6才のボクが、大人になるまで。』 監督:リチャード・リンクレイター
ただの人生を追っていくだけの、旅をしないロードムービーのような映画。
同じ役者で何年もかけて実際に年を取りながら撮影しているのが何よりもポイントだが、その素朴さに少し退屈してしまったところはある。
最後の会話がとても印象的で、この映画を総括するようないいセリフだった。

映画『イベリン 彼が生きた証』 監督:ベンジャミン・リー
筋ジストロフィーを患った少年が恋も友情も社会への接点も無いまま亡くなった、と思いきや、彼は2万時間以上オンラインゲームで過ごし、恋も友情も社会への接点も得ていたというドキュメンタリー。
ゲームのモデルをそのまま使った再現アニメーションは勿論、彼のブログでの独白が胸を打つ。
身体的な制限が増えても、他者との接点は心を再生し続けるのだということをこれ以上ないくらいに見せつけられた。

映画『まる』 監督:荻上直子
無価値でもやる、それでも続いていくという事を描いているのは分かるのだけれど、前提として“美術は無価値”という事にされているのが釈然としないままだった。
業界を皮肉る割には始終戯画化し続けているし、肝心の主人公が本来何をしたいのか、どうしたいのかの描写が希薄過ぎてカウンターにもならない陳腐さがあった。

映画『ミッキー17』 監督:ポン・ジュノ
『月に囚われた男』を彷彿とさせるSF設定にシニカルなギャグを盛り込んだシリアスコメディだった。
『オクジャ』の時もそうだったが、ヒール役となる富裕層を愚かに描き過ぎてイマイチ緊張感が出なかったりという味気なさがあったり、クリーチャーの描写があまりにナウシカの王蟲だったりと物足りなく感じるところも少なくなかったが、1人2役のロバートパティンソン劇場を観ることが出来たのは満足度が高かった。

映画『ザ・キラー』 監督:デヴィッド・フィンチャー
冒頭の語り、ザスミスの音楽、カメラワークなどの演出が異様にカッコよく、緊張感もあって引き込まれたが、正直そこがピークだったかもしれない。
説明を最小限にして淡々と進んでいくスタイリッシュさが魅力的な映画だったが、それゆえの冗長な感覚も少しあった。

ドラマ『白い巨塔』(2003) 脚本:井上由美子
こういった「合理主義の主人公」「道徳主義の相棒」的な組み合わせはやっぱりアツい。(『亜人』の永井と中野とかも大好き)医療現場の腐敗した院内政治を描きながらも、両サイドに肩入れしたくなる演出がニクい。
財前の歪んだ正しさ、そして里見の狂気的な程実直な正しさ。
単純な対立だけでなく、医師としての各々の軸に回帰する終盤には揺さぶられた。

映画『オッペンハイマー』 監督:クリストファー・ノーラン
監督の演出の引き出しがこれでもかと繰り広げられて、見応えのある映画だった。
日本人として気になるあたりがあまり描写されなかった気もしたが、あくまで彼らは彼らの見方で見える事しか知ることが出来ないリアリティにもなっていたように思える。
法廷劇のエンタメっぷりがグッとこの重い映画を娯楽に引き寄せていた。

映画『レディ・プレイヤー1』 監督:スティーヴン・スピルバーグ
とにかく贅沢な娯楽作の結晶。王道な展開ながらも見たいシーンを全部見せてくれる。
わざわざ悪くいうなら、私にとっては見ても見なくても人生に何も変化はない作品だけれど、誰が見ても絶対に楽しい映画だった。それが何よりも魅力でもある。

映画『ナミビアの砂漠』 監督:山中揺子
ものすごい高精細な解像度で描かれる日常に潜む狂人。
自身では何も持たず、また持てずに他者を貪る重病患者が如何にして社会に揉まれ、周りを巻き込んで被害を生んで行くのか。
様々なアプローチで多彩な不快感をフィクションとしてこれ以上ないくらいに詰め込んだ快作。
『ファニーゲーム』なんて目じゃない。あれよりもずっと不快さを描き出している。

ドラマ『アドレセンス』 監督:フィリップ・バランティーニ
1エピソード1カットという脅威の撮影方法が功を奏して画面に常にヒリヒリとした緊張感があり、つい見入ってしまう。
1話ではその日のキッチリ1時間しか切り取られずにじっくり描写されるが、物語はどんどん時を加速させていくので、取り戻せない感覚がより強まる。少年犯罪は家庭環境ばかりを強く疑ってしまいそうになるが、現代においてはそればかりではなく、SNS上のエコーチェンバーによる影響も人格や思想を無意識に蝕んでいく。その異様さを見事に怪演した3話は息を呑んだ。

映画『聖なる鹿殺し』 監督:ヨルゴス・ランティモス
心臓外科医とその一家が復讐劇に巻き込まれていくミステリーかと思いきや、宗教的なメタファーがふんだんに盛り込まれたダークファンタジーだった。
音楽やカメラワークで不快さや不穏な空気感を出しまくってくるので、嫌なんだけど目が離せない。やけに疲れる映画だった。

映画『陪審員2番』 監督:クリント・イーストウッド
偶然の事故と裁判の事件が絡み合い、陪審員の男の正義と利害関係が揺れる。
『12人の怒れる男たち』を彷彿とさせる、それぞれの事情による緊張感が節々で見えながらも、最終的にどういった選択をするのかとずっと惹きつけられた。地味ながら良い映画だった。

映画『インビジブル・ゲスト』 監督:オリオル・パウロ
謎解きのミステリーではなく、無罪になるための水平思考を繰り返す異色のミステリー。
変に勘繰らずに視聴したので揺れ動く真実に楽しく翻弄させられた。
大仕掛けの映画なのでは「そんなことあるかい」と思ってしまうところも無くはないが、物語自体は二人の会話だけで展開されていく骨太っぷりが好みだった。

映画『悪なき殺人』 監督:ドミニク・モル
各パートの主人公たちがそれぞれ持つ歪み。それらが作用しあって一つの死体を生み、そしてそれを消した。
ミステリーとしての不穏さと、神の目線で物語が明かされていく痛快さのバランスが良くて楽しめた。
全員がイビツに日常を誤魔化している。
各主人公の話が積み重なる事で物語が見えていくワクワクとダークさは、昔読んだ伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』を思い出した。

映画『ファーストキス』 監督:塚原あゆ子
『バタフライエフェクト』のような舞台装置に、いつもの坂元裕二節満載の会話劇で、目新しさはないのに何故だかこんなにも満足度が高い。
松たか子は勿論だけど松村北斗の演技の良さが光っていた。
今まで坂元裕二が散々描いてきた”別れ話“と、それとの折り合いがエンタメながら眩しい物語として仕上がっていた。

映画『スノーデン』 監督:オリヴァー・ストーン
世界を騒がせた政府の監視の暴露を追ったノンフィクション。
なんとなくしか当時の記憶はなかったが、観ておいて良かった。 映画としては極めてシンプル。

小説『ロビンソン・クルーソー』 作:デフォー
サバイバル小説としての王道な面白さと同時に、キリスト教の宗教観を垣間見ることができて良かった。
都合の良さはありつつも、サバイバル描写の丁寧さがずっと物語に引き込んでくれた。

書籍『哲学史入門Ⅰ : 古代ギリシャからルネサンスまで』 編:斎藤哲也 出版:NHK出版新書
興味のある部分部分をつまみ食いするような形でしか知らない為、哲学の系譜を把握したく手に取ったが、各研究者のインタビュー形式で進むので、無茶苦茶読み易い。
それぞれの哲学者を掘り下げるのではなく、同時代性や流れとして各時代をざっくり見通せる。
インタビュー形式故の「わからないところがわからないまま進んでいく」というところはあったが、推薦書なども各章ごとに充実しているので、さらに知りたい所へ枝を伸ばしやすい良い本だった。

映画『正体』 監督:藤井直人
演技の良さが魅力的だったが、物語自体にはあまり乗り切れずに進んでしまった。
横浜流星と山田孝之の良さで楽しむ映画。

アニメ『メダリスト』 監督:山本靖貴
ギャグの煩さが邪魔な事以外はひたすらに揺さぶられるいいアニメだった。
演技シーンがいい反面、漫画的なキャラデザのプロポーションへの違和感や、声優の声がいわゆる“ロリ声”過ぎて嫌になりかけたが、ストーリーのアツさで心を掴まれた。

ドラマ『初恋の悪魔』 脚本:坂元裕二
警察署の脇役達のおせっかい劇場から段々とシリアスな要素が増えミステリーとしても展開していく…けれどもやっぱり坂元裕二はコミュニケーションの不和を描き続ける。
松岡茉優がずっと魅力的なドラマだった。安田顕も改めて好きになる。

映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』 監督:エマ・タミ
雰囲気作りが異様に上手かったホラゲー原作に応えようという美術の作り込みに気概を感じた。
けれどもやはり原作にあった緊張感や、謎が謎を呼びながらもジワジワと真相が炙り出されていく高揚とは程遠いエンタメ作になっているので少し寂しくある。

映画『サンダーボルツ*』 監督:ジェイク・シュライアー
最近のMCUにはあまり期待をしていなかったが、そんな中では結構ノリノリで楽しめた。
戦闘シーンや救助シーンが良かっただけに、もっと各キャラの戦闘での見せ場が欲しかった。
好きなトーンの作品だっただけにポジティブな物足りな差を感じた。
もっとゴーストの能力バトルや親子の連携、バッキーの頼もしさを1.5倍増しで楽しみたかった。

ドラマ『アガサ・オール・アロング』 総指揮:ジャック・シェイファー
後半の物語の動かし方、畳み方がとても良かった。けれど前半がとてつもなく退屈に感じてしまい、評判の良さを聞いていなければ途中で見るのを諦めていたかもしれないレベル。
アガサのヴィランらしさに人間味が垣間見える作品だったが、もっと卑怯に、卑劣に場を掻き回していく姿も見たかったかもしれない。
セカンドシーズンもありそうなのでその軸の話はとても楽しみ。

映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』 監督:渡辺一貴
原作のシナリオの良さをそのままに、原作以上のロケーションの強みを出してきて引き込まれる。
シリーズ屈指の些細な不気味エピソードだが、後半のオリジナルパートでも露伴のキャラクターを生かしていくシーンが多くて嬉しくなった。

映画『サブスタンス』 監督:コラリー・ファルジャ
美醜への執着をこれ以上ないくらい露骨に、かつ露悪的に炙り出し続けるので結構胸焼けする映画だった。
不気味なSFのシリアストーンから、キューブリックを思わせるスタイリッシュなカット、しまいにはB級ホラースプラッタまでと振れ幅の広い演出で常に惹きつけられた。
えぐみの強い作品なのに笑っちゃったりもしてしまう緩急があったのがニクい。

映画『教皇選挙』 監督:エドワード・ベルガー
絵面は地味な密室での会話や投票シーンばかりなのだけれども、物語を動かす出来事が次々と起こっていく痛快さも持ち合わせていた。
内情と票の動き方とかを整理しながらもう一度観たくなる。
シナリオ展開以外にも音響がとても効果的だったのも印象に残る。
教会内のざわついた緊張感や、それを打ち破る爆発音、かと思えば静かに通り抜ける風の音。ラストの情報の多さは混乱もしたが、誰もがスキャンダルの種を抱えていたという事なのだろうか。

映画『キャプテン・アメリカ ブレイブニューワールド』 監督:ジュリアス・オナー
ドラマを経てキャプテンとしての責任を負う事に腹を括ったサムの活躍が見られて嬉しい。
空中戦での翼と盾のアクションは圧巻。逆に説得シーンが呆気なかったので、もっとサムのカウンセラーとしての一面もみたくなった。パンチラインは完全にバッキーに持ってかれている。
久々にヒーロー映画らしいエンタメを見られた気がする

映画『神が描くは曲線で』 監督:オリオル・パウロ
信頼できない語り手方式で観客を揺さぶる軸と、精神病院内での事件を語っていく時系列のミスリードが上手く退屈しなかった。
ただどちらともある種ベタな仕掛けとオチだったりするので他作品を思い出してしまうところが多くて少し消化不良。

映画『ロブスター』 監督:ヨルゴス・ランティモス
時間切れで動物に変えられる婚活サバイバル。かと思いきや、共同体と孤独についての揺さぶりを見せてくる展開が広がっていって面白かった。ディストピアではあるんだろうけど、そこのブラックさをいかにさりげなく見せるかというアプローチが目立つ丁寧な作品だった。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』 監督:井上雄彦
バスケに興味なし、原作もアニメも未読未視聴にも関わらず、各キャラへの愛着を沸かして試合に夢中になっている自分がいた。
あれがあのシーンか!とはしゃげるキャッチーなサービスもありつつ、原作も全て読みたくなるくらいの熱がものすごい密度で詰まった映画だった。
スラムダンク、絶対全部読みます。

映画『哀れなるものたち』 監督:ヨルゴス・ランティモス
寓話的な設定と画面作りの割に結構骨太なリベラルと美術をやるので、観るのに体力が必要だった。
その分満足感も高い手の込んだ作品だったけれど、逆にこういった不条理者の映画でこれほどの満足感を得られるのは凄いことだなと同時期に公開されていた『ボーはおそれている』とかを思い出したりした。

映画『キングスマン』 監督:マシュー・ヴォーン
スパイ映画とギャグ漫画のハイテンポな合わせ技であっという間に見終わった。
こういう映画を楽しむ気持ちも忘れちゃいけないよねと思い出させられた気がする。「そうはならんやろ」「そうなるんかい」を繰り返して場面が変わりまくる。とんでもアクションもざっくりしていて楽しい。

映画『キングスマン ゴールデンサークル』 監督:マシュー・ヴォーン
トンデモスパイアクションとして楽しい映画だったけれど、一作目の試験やらのワクワク感の方が好みではあった。
コリンファースが魅力的すぎて主人公にあまりハマれなかったのがデカいかもしれない。

映画『国宝』 監督:李相日
予告からてっきり松本大洋の『ピンポン』のような、すれ違いながらも高め合うバディものを期待していたが、実際はグロテスクなほどに芸に執着した揺れる人生を冷たく描いていく物語だった。
吉沢亮の演技の良さが、素顔の時も女形の時もそれぞれ抜群に光っていて、それが圧倒的な説得力を持ってグングン引っ張ってくれるのは圧巻。
けれどもおそらく元の小説のボリュームが多すぎるのか、淡々とと展開される物事にもっと細かな描写が欲しくなってしまうところは多々あった。
逆にシーンを思い切りよく取捨選択し、歌舞伎シーンにがっつり尺を取り、それが成功しているのは英断だとおもう。

ドラマ『アイアンハート』 監督:ライアン・クーグラー
ヒーローのオリジンものとしては中々の変化球だったので、それはそれでぼちぼち楽しく見れた。
けれども魔法と科学の融合がだいぶ後半だったり、戦闘シーンでもイマイチ魔法の恩恵を感じられなかったりと肩透かしを食らった印象は強い。
今後の作品への布石としてメフィスト登場はワクワクするが、この作品自体の面白さに貢献していたかはなんとも微妙。

ドラマ『デアデビル ボーンアゲイン』 監督:ジャスティン・ベンソン/アーロン・ムーアヘッド
デアデビルとキングピンのリオリジン。
社会の裏で力を振るう姿に舞い戻る二人の確執を改めて(更に深く)描き、アクションもたっぷり、リーガルドラマも見せてくれた。
戦う事の善し悪しや社会との折り合いで葛藤するヒーロー像はいまのMCUには中々無い要素なので久しぶりにこういった成分を摂れた気がする。

映画『スーパーマン』 監督:ジェームズ・ガン
既に有名かつ多数作品があるスーパーマンというポジションを改めて描き出す事に大成功していると思う。
すっかりヒーロー映画慣れした視聴者にも、しっかりと彼の完全無欠の強さに納得させてくれたし、その強さをご都合的に貶める事なく“人間”として見せてくれた事にも感動した。
キャラクターの多さもあって、各人物への語られない前提情報が多かった気もするが、そんな説明足らずのストーリーテリングでも、見せ方の妙で違和感を限りなく薄めているので気にせず見入ってしまった。

映画『ネムルバカ』 監督:阪元裕吾
石黒正数の描く絵柄と空気感のイメージと、監督の過去作のイメージが自分の頭の中で(それぞれ好きなだけ)互いに喧嘩してしまい、あまりハマれなかった。
原作のちょっとクサい感じが映画ではわざとらしく感じてしまい、期待と諦めの浮遊感を味わいきれなかった気がする。
作中音楽の絶妙なインディーズ感がすごくいいなと思っていたらネクライトーキーの朝日さんで納得。
ラストのソロライブシーンは映像ならではの良さがあって痺れた。

映画『ファンタスティックフォー:ファーストステップ』 監督:マット・シャクマン
ヒーローファミリーとしてのコメディトーンと、迫る危機の規模の大きさのメリハリがあって楽しめた。
MCUとして他作品と繋がる期待を良くも悪くも振り切って物語を締め括ったのは英断。
ただインテリチームの割にはメンバー間の連携の物足りなさや、作戦がゴリ押しばかりなのが少し気になった。
映画単品での楽しさはしっかり満たしながら、プラスアルファの面白さは原作好きの為のサービスなのかなというまずまずの感触。

ゲーム『メタファー:リファンタジオ』 制作:アトラス
ペルソナシリーズのシステムを踏まえながらも、あくまで冒険RPGを軸にアップデートされた快作。
FF9を彷彿とさせる種族間の話や世界の探索、パーティの多様さがワクワクした。
支援者との関係性もゲーム進行に対してストレスなく並行して進めていけるので、ペルソナシリーズで陥りがちな忙しさを感じる事なく充実した状態でエンディングまで走れた。
ただ終盤での世界観のちゃぶ台返しは、全くと言っていいほどやる意味が感じられず、大きなノイズになっていた気がする。

アニメ『サマータイムレンダ』 監督:渡辺歩
ループ物は終盤になるにつれて消化試合的な展開が増えたり、ウイニングランに入ってからは退屈してしまったりする事が多かったけれど、今作は情報の開示と敵勢力との均衡の進め方が上手く、終盤まで緊張感を持って楽しめた。
アニメアニメしたキャラデザや最序盤のお色気演出から当初手を付けずにいたけれど、最後まで見てよかった。
SFミステリー/SFアクションとして満足。

まとめ
何もしているわけでもないのに何かに疲弊している状態から抜け出せず、この半年は全体的に元気がなかったのだけれども、こうやって振り返ると、いろんな作品を見れていて充実しているなと思える。
映画を見るのがしんどいときは本を読んで、本を読むのがしんどいときはゲームをして、ゲームをするのがしんどいときはアニメやドラマを観て、バトンを回すように現実からなんとか逃れている。
それでも現実が目まぐるしく進み続けることが恐ろしくて仕方がないけれど、それはさておき面白い作品が世の中にはたくさんある。
これはなんて嬉しいことなんだろうか。
