9月、まじで一瞬でしたね。
8月に自分がやっていたyugeというスペースを閉めて、そのバタバタに追われていたらあっという間でした。
やらないといけないことがドッとへって、やっと腰を下ろせるような気持ちです。
さて、そんななかでも色々読んだり見たりしていました。
漫画『青野くんに触りたいから死にたい』 作:椎名うみ
ホラー要素があるラブコメくらいの認識でいたら度肝を抜かされた。
土着信仰的な呪いと家族/姉妹間の人間関係が生む呪いを並列に描き出しながら、それらの解呪へ歩み寄る。
勿論恋愛面のシナリオもどんどん掘り下げられていき、緊張感のある話の展開に切なさとやるせなさを加速させる。
特にお姉ちゃんとのやり取りのところとかは痺れました。
自分と姉の関係性に似ているなと思いながら読んでいたので、「ああ、自分が受けていた暴力ってこういう仕組みだったんだ」と納得することが出来ました。いつか私も解呪しないといけないなと思う。
どう完結するのかとても楽しみ。

小説『異常【アノマリー】』 作:エルヴェル・テリエ
11人の主人公を軸に話がじっくりと進んでいく思考実験的SF。
語り手によって文体が変わって行く小気味のいい描き方だけでもワクワクしたのだが、そこから一気に緊張感を持たせてくる主題である“異常”事態。SF的な掘り起こしではなく、徹底的に人間にフォーカスを当て続ける地味さがたまらなく良かった。
通して描かれる、「自身を最も受け入れる事ができるのは自身のみで、同時に自身を最も傷つけうるのも自身のみである」という構造が脆くも展開されていくのが好きでした。
超常現象や科学的天変地異が起きようが、そこにいる人々は他でもない自身として生きて行く他ないのだ。

漫画『ラブロマ』 作:とよ田みのる
新装版が出ていたので久々に再読。
『これ描いて死ね』で活躍中のとよ田みのるデビュー作だが、この頃から変わらない賑やかさと暖かさがある。
性格が正反対の高校生二人がしっかりとその都度対話を中心にして互いの距離を縮めていく。
キスやセックスがしたいという気持ちと、ただ好きである気持ちの境界はどうあるのか?なぜ好きな人と共にいたいのか?といった感情と倫理をあくまでコメディとして描き切る異色ながら王道のラブコメディ。
間違いない名作だと思う。

漫画『スキップとローファー』~12巻 作:高松美咲
ストーリーの走り出し自体は無茶苦茶王道少女漫画にも関わらず、主人公の無垢さ、真っ直ぐさでオリジナリティを抜群に出してきて初手から引き込まれた。
進めば進むほど周囲の友人達の掘り下げも広がっていくがそのどれもが良い。
誰一人記号的な役割で動くことはなく、与えられた立場や取り繕う仕草、自衛のための立ち回りなど全てに説得力を持たせてくれる。
それでいて、描かれるのは恋愛主軸ではなく、あくまで学校生活を中心としたあれこれ。
丁寧に人物を書けばそこに自然にドラマが成り立つことを見せつけてくれる。

映画『トランス・ワールド』 監督:ジャック・ヘラー
世にも奇妙な物語的なショートミステリー。
後半に明かされる仕掛けのワンアイデアでのみ成り立っていて、そこの種明かし以降は特に楽しみなく続いていく感覚があって90分の映画ながら体感は2時間くらいの冗長さを感じられた。
SF的な様々な仕掛けがどんどん王道化していく今、その仕組みだけで物語を成立させるのは難しいのだろうなと思う。

映画『ラストマイル』 監督:塚原あゆ子
テレビドラマ的な撮り方や台詞回しが目立つけれどそれはそれでキッチュな作り物として楽しめる良さがあった。
何よりも主演二人の良さがテンポ良く進むストーリーに引きつけてくれる。
最終的な同期やらそれにたどり着いた各人物達のリアクションをもっとじっくり見たかった気もするけれど、映画の尺だとどうにも難しいところなのかもしれない。
良くも悪くも面白いドラマを観れた時の満足感がある映画だった。

映画『来る』 監督:中島哲也
見えない怪異に追われ続ける一家と、それを祓おうとする霊媒師達のレイドバトル。
ホラー映画かと思って身構えていたら痛快オカルトアクションだった。
具体的に描写されない怪異が恐ろしさを物語っていたのは良かったけれど、あまりにもずっと豪快な手だったので、ヒリヒリとした恐怖の緊張感は無かった。
主要人物達のほとんどがどうしようもない人達なので、生き延びる事、解呪を果たす事をあまり応援できない気持ちのままだったのも大きい。
なのでアクション映画を見たのだと思えば諸々納得かもしれない。

アニメ『チェンソーマン 総集編』 制作:MAPPA
1クールが3時間半に凝縮。そしてまさかの全くダイジェスト感がない事に驚く。
漫画のテンポ感に近いサクサク具合で、ギャグシーンはギャグシーンらしく、バトルシーンはバトルシーンらしく音響もガラッと変わっていた。放送版の演出は好みではあったが、この作品にマッチしているのかと言われると決してそうでは無かったので、やっとアニメ版チェンソーマンを観られた感覚。
ただ、放送版の演出を完全否定したいわけではなく、あの演出で是非とも『ファイアパンチ』を劇場アニメ化してほしいと強く願っている。

映画『チェンソーマン レゼ編』 監督:吉原達矢
大満足な作画、演出、音響で見せてくれる酸いも甘いも詰めこんだ100分間だった。
アニメ放送版から監督が変更したことが話題になっているが、たしかにその変化を強く感じさせられる。
ギャグ調のところとシリアスなところでの緩急がしっかりありながらテンポ良く展開されていくので、見ていく上でのストレスがなく、ずっと画面に夢中になれた。
ボムとの戦闘は言わずもがな最高にかっこよく圧倒的に描写した上で、その手前でデンジがレゼに心を奪われていく様子も丁寧に描くので、内面描写的な台詞の少ない戦闘中でも攻めきれずにボコボコにされるデンジの葛藤を感じることができた気がする。
序盤のマキマのミステリアスな魅力も伝わる描写をした上で、デンジが揺さぶられながらも最終的にレゼに惚れきってしまう(全体のシナリオを引いてみれば、デンジの“自立”のチャンスだったとも言える)展開にもしっかり共感できる。
総集編版から入ったバトル中で爆音でホルモンが流れる演出も、見る側のIQをグッと下げてくれて良かった。

漫画『チェンソーマン』既刊22巻 作:藤本タツキ
映画が良かったので1巻から最新22巻まで再読。
1部はデンジと早川家たちが関係性を積み上が行く尊さとその喪失の物語として見事に組み上げられていて改めて唸った。
銃の悪魔が大きな存在感を持って物語を引っ張りながら、悲劇として決定打を打つ最高(最悪)の舞台装置になっていた。そして悪魔の強さの設定を回収しながらの最終戦はまさにラストに相応しいカタルシスがあった。
そして問題の2部。連載で読んでいると各派閥の目的やそれぞれの思惑を追いきれない事があったが、単行本でまとめて読むと印象がグッと良くなった。ずっと面白いままだった。
喪失の物語を終えたヒーローが、ヒーローで居続ける(失い続ける)/辞める(掴み損ねる)事に苦しめられる。
2部も終盤にかかってきたのでここからどう締めくくるのか楽しみで仕方ない。

映画『ひゃくえむ。』 監督:岩井澤健治
大傑作。原作では各所に挟まれるモノローグをバッサリ無くし、あくまで仕草や声色で全てを物語る事に成功していた。
試合外でのただ単に過ごす(飯を食う/街を歩く/電車に乗る)風景をとことん丁寧に描き、対話のシーンではそのセリフひとつひとつを真正面から見せ、競技シーンはモノの数秒。爆音の足音と動き、表情での描写に徹底する。
シリアスな現実的描写に対して登場人物の漫画的なキャラ立ちのバランスが、それぞれの演技も相まって際立っていた。
浮き沈みのあるシナリオが最後の10秒に凝縮され加速する。
ここ最近のアニメーション映画の中で最も興奮した。

漫画『ひゃくえむ。』 作:魚豊
映画に痺れて原作を再読。
映画を観た時は「結構変わっているところや削られた描写もあるな〜」くらいに思っていたけれど、いざ読み返すと中盤の大改装っぷりに驚いた。
映画はあくまでトガシとコミヤの二人にスポットを当てる事、そして競技自体の短さ/儚さを描く事に注力していたんだなと改めて気付かされる。
原作ではニガミや他部員の陸上に対する向き合い方を群像的に見せてくれるので、100mという距離に魅せられた人たちの話として展開されている。
やはり対話は勿論、映画ではほとんど削られた内面描写での台詞回しが魚豊氏はベラボーに上手い。
登場人物たちが戦うフィールドに読者を引き込み震わす演出がとにかくアツい。
ダイレクトな熱量の大きさはやはり原作が好きかもしれないが、それらの描写を取捨選択/改変してなお原作レベルの熱量をあの濃度で出し切った映画には感服あるのみ。

小説『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(上・下) 作:アンディ・ウィアー
やっと読めた。
事前情報がない方が楽しく読める本なのでネタバレなしで感想を書くと、とにかくSFとしての魅力が詰まった傑作だったという一言に尽きる。
科学のみに収まらない様々な人文学の要素が折り重なり、物語が心地よく転がっていく痛快さがたまらなかった。
ドラマも充実した物語展開で読ませてくれるし、ただのエンタメSFでは終わらない情報としての快楽も味わえる、楽しい読書ができた。
映画が楽しみです。


まとめ
9月はなんだか楽しくいろいろなコンテンツに触れることが出来た気がする。
ずっと気になっていた『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読み切ることが出来たし、楽しみに構えていた映画もまとめて公開日に見に行ったりすることが出来た。
逆に、友達に進められることで初めてちゃんと読んだ『青野くん』とかは全くチェックしていない作品だったので、おすすめされてよかった。
なんなら正直ちょっと舐めていたところもあったので猛省した。こんなにおもしろいとは。
信頼できる友人からのおすすめは速攻手に取るが吉ですね、本当に。
今月もこんなに面白い作品があって、そしてそれを私に教えてくれる友達がいて本当によかった。
これって無茶苦茶しあわせですね。

