夏のピークは過ぎたものの、しんどい時期がまだまだ続く。
何も進展しないままに日々が過ぎていくのがものすごく怖いのだけど、ちょっとずつ熱湯に慣れるように外出をしたりしています。
同伴してもらわずに出られるのは近くのコンビニやスーパーくらいだけど、夕食に何を作るか考えながらなら気が紛れるので、そういう時なら外でもしんどくなったりは少なくなってきた気がする。
相変わらず映画を見たり本を読んだりはしています。
前回は本当に映画して見られていないなと実感するレビューになって自分でも過ごし落ち込んだ。
半月で37作品は病的かもしれない。まあ病気なんですが…
この観た読んだまとめも、きっと社会にまた戻っていくについれて少しずつ作品数が減っていくだろう。
そうなることを目指し祈りつつ、少なくとも今触れられる作品たちを喜ぼうと思う。
映画『オクジャ』 監督:ポンジュノ

資本主義、動物愛護、自給自足の生活のどれに対しても、うっすらと影を落とすようなフォーカスの仕方で面白かった。
どれもに強烈な肩入れをする事なく、主人公達も確実に何かを殺して何かを食べて生きているという締め方も綺麗。
展開自体は王道で驚くくらい想像通りの道筋を辿っていくけれど、それにしてはあまり退屈はしなかった。
映画『母なる証明』 監督:ポンジュノ

歪な親子の絆を何とも気持ちの悪い体温で描いたミステリー。
話の筋としては斬新な訳ではないが、そこまでのミスリードの種の巻き方が上手くて、同監督作『パラサイト』での芸の細かさを思い出した。
主人公である母も勿論だけど、息子役を演じるウォンビンの演技がいい余白をこちらに与えてくれてとても良かった。
ラストの見せ方/落とし方も本当に上手くて唸った。
映画『さがす』 監督:片山慎三

父を探す話かと思いきや、語り手が移り変わって其々の探しものの話として展開されいき引き込まれた。
全員すごい演技で震えるくらいだったが、何よりもシリアスに演じ続ける佐藤二郎がこんなにも圧倒的だとは思わなかった。
前半の日和った流れは少し退屈や違和感を感じなくもなかったが、後半からは一気にサイコミステリーとしての側面と、自死についての葛藤の側面をどちらも強く見せつけられた。
ドラマ『地面師たち』 監督:大根仁

何となく見始めたら、緊張感のある怒涛のシーンにやられて一気に観てしまった。
クライムもののチームって、キャラ立ちが良かったり、それぞれの活躍にワクワクする事が多いけれど、本作の豊川悦司だけはそういったアツさから一線を引いてひたすらに冷たく映えていた。
逆にいえば徹底して冷たい豊川悦司に対して、綾野剛の腹の中の分からなさも良かった。
顛末に関しては想像だにしない何かがある訳でも無かったが、それまで中弛みが一切なくハラハラしっぱなしで観ることができたことに感動。
映画『灼熱の魂』 監督:ドゥニヴィルヌーヴ

急死した母の遺言をあてに、存在すら知らなかった父と兄を探す双子…という設定自体は割とよくある範囲だが、母の人生を追うミステリーとしてもどんどん緊張感が増し、人間ドラマとしても見事なラストを迎える映画だった。
ひたすらにじっとりと暗い空気を纏っているので序盤は少し辛抱するような感覚があったが、後半からはそれすらも忘れさせられた。
大仕掛けでショッキングなストーリーをドラマらしく見せるのではなく、じりじりと絶望が沁みてくるような見せ方を徹底しているので、観た後のダメージが大きかった。
子守歌に纏わる最後の手紙の締め方、すごかったな。
映画『手紙は憶えている』 監督:アトムエゴヤン

老人主人公による認知症版メメントだった。
定期的に記憶があやふやになる“信頼できない語り手”が、さらに“信頼できない語り手”からの手紙の指示に従い動いていくという不安定な作戦。
ミステリーとしてのハラハラとは別の、認知症による不安定さと同居する決意や信念の強さに視聴者側がヒヤヒヤさせられる、新鮮な緊張感だった。
オチもしっかりと見せてくれて満足感が高い。
映画『マジカル・ガール』 監督:カルロスベルムト

冒頭の2+2=4のくだりがジョージオーウェルの『1984』からの引用だとすれば、それぞれのパートでの主人公たちが、正しい選択とそれに矛盾する選択を二重思考として抱えていたのかもしれない。
それぞれ理性的な答えはわかってそうなのに、各主人公の矛盾した選択が互いを振り回し最悪の方へ転がっていく。
最初は「何でそうなるねん」という感覚が強かったが、引っ掛かるものが多かったので二周したらちょうど面白さが染み出してくる映画だった。
映画『都会のアリス』 監督:ヴィムヴェンダース

大人になりきれていない青年と、大人のふりして背伸びをしている生意気な少女のロードムービー。
なんてことないんだけど、ただ何となく観ていられる。
「退屈な旅路」を描いて退屈な映画にならないのは監督の手腕だと思う。
映画『エターナルズ』 監督:クロエジャオ

MCUの中でも異色な、もりもりのVFXというよりは壮大な自然の風景で派手さを見せてくる演出がカッコよかった。
宇宙の始まりから存在するエターナルズの能力描写も何だかかっこいい。
けれどもヒーロー映画としての内容自体があまり入ってこず、話がでかくなったがキャラ同士(人数も多い中)での関係性など、処理しないといけない情報が少し多かったのがしんどかったかもしれない。
わかりやすいテンプレヒーローシナリオはなくても映像的に充分だったのではと勘繰ってしまう。
映画『ソー:ラブアンドサンダー』 監督:タイカワイティティ

ソーシリーズがひと段落つく話かと思って観ていたら、思ったよりまた次回作への布石部分があったり、逆にジェーンとの締めくくりは少しついていけなかったりと釈然としないシナリオが全体的に続いた。
アスガルドの子供達と戦うシーンやジェーンとの共闘などのバトルシーンや、武器の嫉妬あたりのコメディは結構楽しめた。
エンタメへの振り切り方が自分にはあまり合わなかったかもしれない。
映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 監督:ライアンクーグラー

亡くなった俳優を作中での弔うという状況自体がすごく特殊なシチュエーションなので、純粋な映画としての評価を咀嚼しきれない気持ちがあるけれど、それを差し引いても素敵な演出だったと思う。
復讐の打ち止めこそか彼をブラックパンサーたらしめていたという事を、キルモンガーとのやりとり、そして決着の付け方で描くのが鮮やかだった。
逆にいえばこれをやるために少しお膳立てが過ぎたストーリーという気も少ししてしまった。
映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』 監督:ペイトンリード

今後の大きな物語の予告っぽいポジションの作品な為、話自体はそんなにパッとしないながらも「カーンとは何者か?」「なぜカーンはこの世界では今まで何もしてこなかったか?」「これからカーンが何をするのか?」をしっかりと出し切った感じがする。
まあカーンは降板してドゥームになったらしいので、本当に今になってみるとこの作品のポジションが危うい。
量子世界の描写のワクワク感や、ピム博士の蟻の王っぷりはカッコよかったりと普通に楽しめた。
ドラマ『ロキ』シーズン2 監督:ジャスティンベンソン/アーロンムーアヘッド

1話でだいぶ設定をぶち込まれるので不安になったが、そこからは怒涛の面白さ。
シーズン1はミステリー要素が強い中で、ロキが自身(ある種の他者)と向き合うという構成だったが、シーズン2ではその果てに手に入れた居場所や仲間をロキが守ろうと奮闘する姿が見れて感動した。
悪者にだってなれるし、神にだってなれる。
そんなポテンシャルのキャラクターをSFらしい大仕掛けで結んでくれたと思う。 TVAの話は時間から切り離されていることもあり、MCUあるあるの他作品への繋ぎ感などもロキシリーズにはあまりなく、あくまでロキがどう成長しどういった選択を選ぶのかを描き続けてくれたのがとてもよかった。
映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』 監督:ジェームズガン

シリーズ集大成として、笑いとバトルとロマンスを爆音BGMで“楽しく”見せまくる快作だった。
「ありのままを許す」をキーワードに、ロケットの過去をはじめ、ガモーラとの0からのやり直し、各メンバーの愛と強みをふんだんに山盛り見せてくれた。
こんなに賑やかで要素も多いけど全てがエンタメとして昇華されているのがすごい。
またこのメンバーたちが見たいと願ってしまう。
映画『マーベルズ』 監督:ニアダコスタ

あまり愛着のないキャラたちのトリプル主人公作品だったが、全編見終わってもあまり愛着が抱けないまま終わってしまった。
都合上動かさないといけない物語と語らねばならない過去、そしてエンタメ的な盛り上げてがぎっしり詰まっているのでギリギリ退屈しないが、決して大きな興奮もないという印象。
運悪くMCUシリーズの良くないところが大きく重なってしまったのかも。
映画『まわり道』 監督:ヴィムヴェンダース

ロードムービーと括られながらも、アンチロードムービー的な“実を結ばない自分探しの旅”を描いていたのに驚いた。
母に工面され、成り行きで寄り添い、成り行きで諍う。何も目的もなく、何も成長できない。
ただそれだけの物語が、見ていられる100分間になっている事もさらに驚かされる。
支離滅裂であやふやな主人公が成長をしようとしない為、成長できない話。
コレをほとんど台詞回しだけでよく映画として成立させているなと畏怖を感じた。
映画『さすらい』 監督:ヴィムヴェンダース

三部作目にして一番ロードムービーらしい大作。
今回ばかりは流石にこっちも気長に構えて、のんびり覗き込むように眺めていないと退屈が顔を出しそうになった。
けれどもスクリーン越しの即興劇と、それを経た二人のやり取りは、この長い長い3時間のご褒美とも思える良いシーンだった。
映画『ベルリン 天使の詩』 監督:ヴィムヴェンダース

ずいぶん昔に見た作品だったが、見直すと以前よりずっと魅力的に感じた。
天使パートでは殆どがただ人々を眺めたり心の盗み聞きしかできずに佇んでいるシーンなのに、散文詩を読んでいるかのような満足感があった。
堕天パートからは主人公がただ”有る”ことを噛み締める描写が眩しい。
人々の全てに干渉できないのならば彼らにとっては存在も無に等しい。
見通す力を失いながらも、他者(物)に干渉し、すり減ったり喜んだりすることを望み、そして掴みとる主人公と、当たり前にその世界を過ごす人間たちの対比が心地いい。
各風景や道中をロードムービーを撮ってきた監督がベルリンという街に舞台を固定して、そこにいる人々に焦点を絞ったというのも感慨深い。
音楽の使い方や絵のかっこよさも極まっていくので発表順に追うのが楽しい。
書籍『贈与の系譜学』 著:湯浅博雄

余剰生産されたエネルギーを(無償で)損失する力、そしてそれを善とするにあたっての宗教観的な前提など、贈与や生贄などがどうやって人類史とともに歩んできたのかが丁寧に分解されていく。
そして余剰をまた”生きられるもの”に変換する贈与のシステムというが、他者を迎え入れ共存する術になっているのだろう。
そう思うとレヴィナスの言っていた「語ること」が持つ自身の内省を普遍化して発露するというリスクも、言わば贈与に等しい行為であって、それこそ他者を迎え入れ共存する術なのだと繋がりさらに腑に落ちた。
映画『夜明けのすべて』 監督:三宅唱

優しい人たちの優しい物語だが、そのすべての優しさに人物たちの道筋があって、その上で互いに少しの救いを与え合っていく自然さが素晴らしかった。
主演の二人の「こういう人いる」感じがもの凄い。
導入時点ではもっと説教くさい話や展開になるかと思いきや、登場人物たちが性格や行動から成長していくのではなく、それぞれの性格のままに症状や抱える痛みと折り合いをつけていく話だった。
二人の症状を理解していくにつれて、彼らの行動や振る舞いはそのままに見ているこちら側が段々と受け止め方を理解していける。
そしてその上で視聴者が過剰に構えそうなところを二人の着実なコミュニケーションが越していく。
細かい行動や会話を丁寧に物語上で拾いながらも、ご都合的な展開はなく、すべて人物の行動原理に文脈を感じられたのも良かった。
映画『パリ、テキサス』 監督:ヴィムヴェンダース

絵のかっこよさだけで見ていられる。モノクロ作品の印象が強い監督だったが、カラーはカラーで無茶苦茶魅力的な絵を見せてくれるのに驚いた。
身勝手で情けない主人公が、せめてもの思いで自分の尻を自分で拭おうとする。
ただそれだけで、何かが都合よく跳ねたりはしない。ただただマイナスを0に戻そうとするだけなのに、なぜか泣きそうになる。
セリフもそこまで多くないが、空っぽの状態から物語が始まったトラヴィスが徐々に家族の感覚を取り戻し、それによって彼の元々持っていた空洞が、ドーナツの穴のように浮き彫りにされていくような心地よさがあった。
『A GHOST STORY』 監督:デヴィッドロウリー

自分の死後の家族をひたすら見守り続ける物語…と思いきや、ポルターガイストとして干渉するシーンで結構がっかりしてしまった。
そこ以外は地縛霊としてその場で巡っていく様を静かに描いていくが、パーティでの友人の語りで全てを指してしまう演出もあまり好みではなかった。
ただ映像的な演出はすごく好みで、幽霊の消滅シーンの美しさは記憶に残る物だった。
映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』 監督:サラポーリー

田舎の集落で起き続け揉み消されているレイプ事件に対して、女性たちが蜂起する物語。
『12人の怒れる男たち』を彷彿とするような会議のシーンが続く。
エグみのある前提のなかで女性同士が揉めながら結論を探っていくが、一人だけその会議に参加している男性の青年は発言も求められなければ最終的な行動も選択させてもらえなかったというのがミソだったと思う。
現代社会ではいまだに男性社会がマジョリティとして根強いため、マイノリティの女性たちが割りを食い続けているけれど、こういった小さなコミュニティの中のさらに小さなコミュニティでは男性がマイノリティとして抑圧されることもあり得る。
つまりは男性か女性かというよりも、マジョリティは常にマイノリティを抑圧し、無視して、選択の余地すらも得たえずに世界を進めていくということが最も忘れてはいけないところなんじゃないだろうか。
ドラマ『七夕の国』 監督:瀧悠輔

あの“球体”が映像で見られた感動は大きかった。
物語は現代に置き換えられて、それに同期するように派手な演出も最小限ながら追加しつつも、あくまで原作に順守して展開されていたのもよかった。
正直もっと地味に硬派な映像化を期待してしまったこともあり、原作好きには若干モヤっとはあるものの、そもそも岩明均の漫画が持つ魅力は「淡々と物語は展開し、描写も静かなのに躍動感がある」という極めて映像化が難しいところにあるので、概ね満足できるドラマ化だった。
何より音楽のミニマルさと不穏さが無茶苦茶かっこよくて感動したので、それだけでも嬉しいドラマだった。
映画『アメリカの友人』 監督:ヴィムヴェンダース

ロードムービーから打って変わって、パトリシアハイスミスの原作もの。
思わぬ法外の仕事を紹介して、そしてそれを受けてしまう二人が、後追いで絡みつく友情(のようなもの)に揺れ動く様がありありと描かれていた。
ヴィムベンダースの惹かれている一面とはまた違うストーリーの見せ方だったが、こう言った話でも絵の美しさや沈黙で行間を描く様が決まっていてカッコいい。
ただ好みで言えば静かなロードムービーの方が好きかもしれない。
まとめ [8月前半は25作品]
8月前半は合わせて25作品。
特に気に入った作品か以下の通り。
ドラマ『地面師たち』 監督:大根仁
映画『灼熱の魂』 監督:ドゥニヴィルヌーヴ
映画『ベルリン 天使の詩』 監督:ヴィムヴェンダース
書籍『贈与の系譜学』 著:湯浅博雄
映画『夜明けのすべて』 監督:三宅唱
映画『パリ、テキサス』 監督:ヴィムヴェンダース
ヴィムヴェンダースにハマって彼の作品を見まくっていた。
私はこれまでシナリオの出来の良さみたいなところを評価軸に強く置きがちになるところを、ヴィムヴェンダースのロードムービーはそれをぐっと広げてくれた気がする。
ジムジャームッシュも好きだけれど、彼の作品はシナリオ的展開こそあまりないが、素朴な会話を脚本として充実させるタイプだと思っていて、読み物的な好み方をしていたところがある。なのでヴィムヴェンダースの退屈さを恐れない大胆さとその映像的アプローチにえらく感動させられた。
こんな引きこもりの日々だけれど、こういった旅に出る映画を見ることでワクワクした気持ちを受け取れると思うと、まだ人として大丈夫な気がしてホッとする。映画館にも行きたいなと思えるようになってきた。
書籍は『贈与の系譜学』がとてもおもしろかった。
現在時間をかけながらレヴィナスの『存在の彼方へ』を読んでいるので、彼の書いているコミュニケーションにおける"身代わり"としての贈与というキーワードが消化できた気がする。
レヴィナスのような内在的な問題だけではなく、人類学的な文明の進化や、宗教的な善悪の観念などに合わせて差し出すこと/生贄にすることを考えることができた。
こういった読んでいる本同士がシナジーを生み出す瞬間が嬉しくて本を読んでいると言っても過言ではない。
じっくりと身勝手な治療をしていくような気持ちで来月も映画を見たり本を読んだりすると思う。
それでは来月のまとめで。
