音楽

一週間、さんぜう通りの『学生の悲しみ』だけを聴く。

2025年3月5日

先日はピロウズ解散の悲しみに暮れながら一週間ピロウズを聞き続けた。

結局好きなバンドなので一週間終わったあとも、あまり最近聴き込んでいなかった新しめのアルバムなども聞いたりして過ごしていた。

前回の記事

今回は京都でできた友人がアルバムを出したというので、それを一週間聞き続けたいと思う。

知り合いや友人の作品や展示に行くことは多いのだけれども、音楽をやっている友人はあまり多くなく、あったもライブに遊びに行くくらいだ。

親しい人がCDを出すというのがこんなに嬉しいとは思わなかった。

せっかくなので一週間こすり倒してしっかりと彼らの作品に向き合っていきたいと思う。

さんぜう通り『学生の悲しみ』

さんぜう通りとは

中口環太を中心に京都で結成されたフォークロックバンド。

メンバーは以下の2人を中心にライブごとにサポートメンバーを入れて活動。

京都での生活の風景や過ぎた青春などをモチーフに、哀愁漂う楽曲が特徴。

80年代歌謡、フォーク、UKロックンロール、カントリーなどの多様なジャンルを包み込みながら歌い上げる。

・中口環太(Vo./Gt.)

・葛飾出身(Ba./Vo.)

『学生の悲しみ』とは

彼らの1stアルバムに当たる作品。

中口環太が過去に組んでいたバンド、和・ケンミンズから引き継いだ楽曲が数曲ありながらも、現メンバーで再構成し、京都で書き下ろされた現メンバーでの新曲をふんだんに入れた完全新作。

作詞作曲は中口環太が基本的に担当しながらも、相方である葛飾出身作曲の楽曲や、カバー曲なども収録。

『学生の悲しみ』収録曲

  1. 自転車どろぼう
  2. むかし
  3. 道端
  4. すごい寝た
  5. 凍える
  6. 中口氏の場合
  7. さんぜう通り静か
  8. 月夜のデルタ
  9. もしも
  10. 元気どす。
  11. 留年

1日目

わかりやすいように一言でフォークロックバンドとは書いたものの、単純なフォーク歌謡のリバイバルではなく、様々なジャンルを横断した仕上がりになっているアルバムで驚いた。

80年代の国内音楽のような懐かしさだけではなく、UKロックンロール的な要素、カントリー的なサウンドが楽曲を彩る。

何よりいいのはそういったバラエティに富んでいながらも、このバンドの方向性がこのアルバム一番でしっかりと掴める安心感だ。

リーダーの中口氏の趣味を一発で理解させられると同時に、彼の持つくだけたユーモアで楽曲が暗くなりすぎずに少しコミカルに受け取れる。

この人懐っこさこそがさんぜう通りの強みなのだと思う。

2日目

最後に収録されている「留年」という曲は中口氏の友人が作った曲のカバーとのことだけれども、これがまた良い。

YouTubeに投稿されている動画からさんぜう通りが他の楽曲をカバーしているものなども聞けるので是非聞いてみてほしいのだけれど、自身のテイストにぐっと引き寄せるのが上手くて聞いていて新鮮で心地良い。

私がこの曲を初めて聞いたのは彼がyugeで行った展示での弾き語りライブだったが、あのときも思わず涙ぐんでしまった。

同様にライブでしびれたのは、このアルバムにも収録されている「むかし」という楽曲だ。

このアルバムの中でも屈指の暗さだけれど、センチメンタルの描き方の塩梅が湿っぽくなりすぎていないのが好きだ。

後悔や失念を描きながらも、妙に悟った諦めが程よく曲をカラッとさせてくれる。これをこの乾いた声で歌い上げるのが良い。

3日目

関西のロックバンドには妙に土着的な空気があったりするが、さんぜう通りも同様にその空気を纏っている。

関東の都市が持つスピード感とはまた違う良さがある。

歌詞にもその要素が組み込まれていてその空気を撹拌してくれる。この懐かしさは中口氏の地元である和歌山の空気なのだろうか。

こういった青春劇のような青臭さや鬱屈、小さな恋沙汰などキャッチーなものをモチーフにしながらも、不意に「むかし」や「もしも」といった楽曲では文学的な側面が強く前に出てきて引き込まれる。

4日目

このアルバムでは2曲、中口氏ではなく相方の葛飾出身がボーカルを務める曲がある。

その一曲である「凍える」は、初期のビートルズのような硬質なギターの響きと軽快なベースのフレーズが心地良い。

中口氏とはまた違う飄々とした声質のお陰で、"昨日と同じならば楽しいよ 君と住んでいるなら"といったような少しキザな言い回しもクサさが中和されてスッと入ってくる。

気の抜けたコーラスのテイストもこのバンドがもつコミカルさとの親和性が高くて聞いていて楽しい。

もうひとつの「月夜のデルタ」では、知久寿焼を彷彿とさせる無邪気なテイストといっしょにへべれけな歌詞を歌い上げる。

彼の声とチープなギターサウンドとの親和性が高くて聞いていて心地いい。

アルバムとしてはすごくいい音なのだけれど、こういった曲はやすっぽいラジカセで再生したくなるワクワク感もくれる。

カセット版とか出してくれないかしら。

5日目

基本的には古風なワードセンスで歌詞を書き上げるこのバンドだが、時たま今っぽい要素が顔を出す。

「中口氏の場合」ではテレビを見ない世代感や、"エレカシ"というバンドの略称。
「元気どす。」では"あんまりいい線いかない気がする"といったくだけた口調。

けれども歌詞カードを開いてみるとあくまで表記は古風に仕上げている。
意地のように「じゃない」を「ぢゃない」としたり、「煙草」を「烟草」と表記したりと芸が細かい。

アルバム自体の内容からそれるかもしれないが、ジャケットイラストを中口氏自身が手掛けていたり、歌詞カードの文字を葛飾氏が手書きしていたりというセルププロデュースもこのバンドの味をより引き出してくれている。

いらぬ悪口を挟むことになるけれど、いわゆる「バンドメンバーがデザインを手掛けています!」とアピールしているインディーズバンドは肝心のデザインが割と普通に素人仕事でダサかったりとかするのを散見する。
そういう面で見ても中口氏は漫画家としてデビューをしているし、葛飾氏は映像作家として食っているわけで、多才なメンツで組んでいる甲斐のあるバンドだなと感動する。

6日目

曲ごとにしっかりと「よくこのフレーズが出てきたな」という普段の言葉選びからは出てこなさそうな言い回しが登場する。

実際に中口氏と会話をしてみると仰々しいくらいに礼儀の正しく、普段からこういった言い回しで言葉を話す人間だったりするので、ある種納得はさせられるのだけれど、それにしても彼の年齢から考えると不思議なものがある。

上記のポストで上げているもの以外にも、歌い出しから心をぐっと掴まれたものがある。

乾いた日々と 気味の悪い日の入り

「凍える」作詞:中口環太

これはしびれた。

「気味の悪い日の入り」なんて出てくるか?
他の文学や音楽からの影響を惜しげなくも出しながらも、こういったオリジナリティのある作詞がどんどん出てくるのがこのバンドの何よりの魅力かもしれない。

ここから繋がる、"ひそやかに凍み出した日から おおお 地獄がよぎる"という歌詞も良い。

他の歌詞でも散見する、街の風景と一緒に走馬灯の如し過去の後悔や痛ましい思い出に苦しむ描写が中口氏には多い。

ある種の「悲しみたがり」なところはあるのかもしれないが、それをこういった歌詞にしっかりとアウトプットしているのが本当に格好いい。

7日目

メロディの懐かしさ、バンドサウンドが持つ柔軟さ、そして離れた世代をつなぐような歌詞の射程の広さ。

さんぜう通りには自立したパワーがありながらも、影響を受けたであろう諸々へのリスペクトを惜しみなく出していく。その潔さと早熟っぷりが今後の作品をより楽しみにさせてくれる。

ライブにも行きたいね。個人的にはライブでアドレナリンが出まくって饒舌になっている中口氏が好きなので。

まとめ/全曲レビュー

中口環太率いるバンドとして、和・ケンミンズからさんぜう通りへと生まれ変わって仕上がった本作『学生の悲しみ』は、青春の跡地のようなアルバムである。

中口氏の歌詞は関西のバンドらしい土着の空気と共に、そこに染み付いた後悔や痛み、そしてそこから動けない閉塞感やその場に居座る諦めなどが描き出される。この引きこもり文学的な湿っぽさは梶井基次郎の文学を思わせる味があるが、このバンドの魅力はそこに着地しないところにある。さんぜう通りはそういった哀愁を捕まえながらも、コミカルにヤケを起こす。それがこの湿っぽさを吹き飛ばし、程よくカラッとした軽快さを生んでいるのだ。
また口馴染の良い、懐かしいフォーク的なメロディはもちろん、ロックンロールなチープなギター、マンドリンやフィドル、バンジョーを交えたカントリーなサウンドなどの多様な作りが楽曲の射程を広く伸ばしてみせる。
このサウンドはいかにも京都の左京区的な文化のイメージに馴染む。

シンプルな曲構成の上で小躍りをするようなベースの軽快さも、ビートルズ好きの葛飾出身がメンバーとして輝いている。彼がボーカルを担当する2曲は、たまの知久寿焼を彷彿とさせるような気の抜けた無邪気さを持った声質のおかげか、メインボーカルを務める中口氏の気怠さとはちがう飄々とした遊びをアルバムに吹き込んでいるのも印象的だ。

この2人による街の風景やセンチメンタルの描写は京都もモデルにしながらも、いわゆる"地元の風景"としての普遍性を持つ。
いつかどこかで見た風景に地縛霊のように染み込んだ負の感情を掘り起こし、それを酒と煙草と歌声であしらいながら生き続けていく。
そんな弱さと図太さが優しく渦巻くこのアルバムは、青春の跡地に息を吹き込みながらも今立つ自身の足元を静かに揺らしてくれるのだ。

  • 自転車どろぼう

京都に住めばすぐに被害に合うことができる市営窃盗団についての曲。

自転車撤去の鬱憤から、その無力感が日々の後悔にまで伝播していく歌詞が楽しい。

こんな頼りない弱さを書きながらも、"君に褒められた"という一行で裏返していく現金さも中口氏らしい。

脳天気なバンジョーの音と、ラストに入るセリフがポイント。

  • むかし

さりげない逆巻きのギターイントロがミソ。
…と思って聞いていたのだが、後日このイントロはエレキマンドリンだということを中口氏から聞いた。
エレマンかい。エレマンて。

さておき、部屋の中と窓からの風景のみに閉ざされた歌詞世界の狭さがたまらない。

「悲しい薄暮れは古い歌をつれてくる」
「こころはふらふらで 想い出をたどれない」
「いじけたこの胸は 五月雨にやられる」
「ひとり話し疲れて息絶えそう」

いい歌詞がこれでもかと出てくる名曲。

「どこで間違えたのか さびしい」というフレーズでの「さみしい」のメロディの入れ方が渋くて好きだ。
奥田民生のような肝の座った間延びっぷりで痺れる。

  • 道端

片田舎の退屈な1ページをのびのびと描く青春劇。

この曲でも印象的だが、中口氏の歌詞の着地のさせ方の曖昧さの妙が見られる。

「あー 道端でずっと寝転んでいたい 気がした」と締めるのが粋。

ふわりとした焦燥と気怠さを描く力加減が絶妙な一曲。

  • すごい寝た

ジャジーな曲調のカッコ良さ反面、なんでもない情けなさが渋く光る曲。

憂鬱が連鎖していく曲が多い中で、あっけらかんと開き直った歌詞の展開が見られて、このアルバムの中では比較的陽気。

ピアニカがこうも馴染むのも心地良い。

  • 凍える

葛飾出身による作曲。ビートルズを彷彿とさせるサウンドと歌謡曲的なメロディの共生が懐かしくなる。

彼の声の緊張感の無さは中口氏とはまた違う方面でこっちを油断させてくる。

コンパクトながら小粋なドライブ感のある疾走感で満足度が高い一曲。

このテンポ感で中口氏の歌詞が詰め込まれていく曲調も新鮮で良い。

  • 中口氏の場合

中口氏の名刺代わりとも言える一曲。

「センチメンタル通り」や「エレカシ」といった固有名詞を出していくリスペクトの潔さが彼らしくもある。

「金を集めてもたまらない」というフレーズで彼の過去の楽曲「金をあつめて」を自己言及しているのも微笑ましい。

  • さんぜう通り静か

アンビエントなインスト。

このアルバムにこういった曲が入り込んでくることに初見では驚いたが、聞けば聞くほどに馴染んでくる。

  • 月夜のデルタ

葛飾出身によるもう一つのボーカル曲。

この飄々とした歌声は、たまの知久寿焼を彷彿とさせる。へべれけな歌詞を体現したかのような歌声が心地良い。

「煙草のけむりが木々を駆けぬけて 夜空をはしゃぐとき」という歌詞もこのアルバム屈指のいい歌詞だ。

  • もしも

わらべうたのような民謡感で抽象的な歌詞が展開される。

この不穏さと仄暗さに、つげ義春的な世界観を感じさせられる。

  • 元気どす

さんぜう通りのキラーチューン。

古風な言い回しと今っぽい口調の合わせ技と、バンドサウンドとしての結束感が光る。

「あんまりいい線いかない気がする」という歌詞のオチも、前述した中口氏らしい曖昧な着地のさせ方だ。

歌詞に!をつけるラストなんかも彼好みの古臭さを感じさせてくれて良い。

曲調としてはずんずんと突き進んでいくような軽快さがあるが、反面よくよく聞いてみれば歌詞は足踏みというのも、さんぜう通りが描く恋愛観として微笑ましい。

  • 留年

このアルバムでは唯一の中口氏が作詞も作曲も手掛けないカバー曲。

他の曲にはみえない口調のくだけっぷりも違和感なく自分のものにして歌い上げる中口氏に感服。

後回し後回しでやり過ごしていくだらしなさを手前に出してきながらも、どこまでも優しい一曲。

やり過ごし続けて生き続けていくのも、しぶとく生き続けるための戦略なのかもしれない。ただ、誰かしらに叱られ続けるね。

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