音楽

一週間、the pillowsの『LITTLE BUSTERS』だけ聴く。

2025年1月31日。the pillowsが解散した。

ほんとうに切ない。

ずっとあるもんだと思ってた。

けれどもメンバーの不祥事や訃報などで尻切れトンボに終わるなんてことはなく、すべてをやりきって終わりを迎えてくれた気もする。
映画自体の出来はともかく『フリクリ』の続編でも音楽を担当してくれたし、こちらもアニメの出来はともかく『惑星のさみだれ』のアニメでは曲も流れた。3期のリバイバルツアーも終え、そしてそれらの時期をセルフオマージュしたアルバム『REBROADCAST』を出した。

もう充分かもしれない。メンバーだってもうほとんどおじいちゃんみたいなものだ。

こんなにもいい曲を、これほど残してくれたということは変わらずあるのが本当に嬉しい。

そして、ずっとまえに35周年記念日に始めていた一週間リピート視聴の記事を書ききらないままおいていたのを思い出した。

不定期にやっているこの企画は、一週間一枚のアルバムを聴き続けて、そのアルバムをとにかく馴染ませていくというもの。

前回は「全然ちゃんと聞いてこなかったけど何となく勝手に嫌っていたバンド」ことRADWIMPSのアルバムを聴き続けた。

前回の記事

びっくりするくらい好きにならなかった。
しかし「なんとなく嫌いっぽい」という感情は整理されて「こういうところが好みではない」というはっきりした気持ちで向き合えるようになった。

一週間聞き続けたとはいえ、どんな音楽も好きになるわけではないという実感は大きな成果だった。

今回聞くのはthe pillowsの名盤と名高い一枚。そして私が初めて手に取ったthe pillowsのアルバムでもあるこの一枚。

高校時代から擦り切れるほどリピートしてきた青春の抜け殻に今一度向き合ってみたいと思う。

the pillows『LITTLE BUSTERS』

the pillowsとは

the pillowsは1989年結成のロックバンド。

メンバーは以下の3人。

・山中さわお(Vo./Gt.)
・真鍋吉明(Gt.)
・佐藤シンイチロウ(Dr.)

結成時にいたリーダー/ベーシストの上田ケンジが初期に脱退し、その後は移籍などを繰り返しながらも、ボーカルの山中さわおを中心に精力的に活動を続けていた。

アニメ『FLCL(フリクリ)』での音楽担当を皮切りに国内のみならず海外でも多くのファンを獲得し、オルタナティブロックのファン層から熱い支持を持つ。
また楽曲発表から10年以上の時間を経ながらも、ジャンプ漫画『SKET DANCE』にて作中で主人公たちが組んだバンドが『Funny Bunny』が演奏したことで、また若い層からの知名度も再燃するなどもした。

爆発的なヒットこそないものの、根強い人気をもって35年間活動をつづけたため"絶対墜落しない低空飛行バンド"などと言われたりもしていた。

LITTLE BUSTERS』とは

ピロウズの6枚目にあたるアルバム。

前作にあたる『Please Mr.Lostman』は「音楽業界への遺書」として発表されたことが有名だが、同時にその後のピロウズの方向性を強く指し示す一枚でもあった。そのアルバムを経て制作された『LITTLE BUSTERS』は鬱屈とした前作から比較的力強い曲が多く、山中さわお自身の再起への気概を感じさせてくれる。

このアルバムに収録された「ハイブリッドレインボウ」はバンドを象徴する曲として、その後もライブでもよく演奏されることになる。

『LITTLE BUSTERS』収録曲

  1. Hello, Welcome to Bubbletown's Happy Zoo (instant show)
  2. アナザーモーニング
  3. ONE LIFE(album mix)
  4. THAT HOUSE
  5. like a lovesong (back to back)(album version)
  6. Nowhere
  7. ハイブリッド レインボウ
  8. Blues Drive Monster
  9. パトリシア(album version)
  10. Black Sheep
  11. LITTLE BUSTERS
  12. LITTLE BUSTERS(シークレットトラック)

1日目

振り返ってみると90年代のロックからの影響が全面に出始めたのもこのアルバムからかもしれない。

oasisやレディオヘッド(『OK computer』以前)、Pixiesあたりからの引用やオマージュが特に多い。

しかしピロウズのすごいところはリスペクトしている元ネタをバンドサウンドであからさまに出していきながらも、メロディラインや歌詞でしっかりとthe pillowsとしてのオリジナリティを見せてくれるところだ。

陰鬱な曲が多い時期の作品ではあるが、とくに「funny bunny」のように奮起させる曲のイメージを持っていると、とんでもなく落ち込むことになる。

「Nowhere」や「アナザーモーニング」が持つノスタルジーと不安、失望、寂しさはいつ聞いても胸が痛む。

今もまだ同じよく似た不安がつきまとう
耐えきれないような出来事は確かにあるけれど

どんなにさみしくても 誰も迎えに来ないよ
迷子の知らせ アナウンスはかからない

扉の向こうには約束なんてない
でも行こう 生まれ変わる朝が来た

「アナザーモーニング」作詞:山中さわお

こういった漠然とした不安や焦燥を書きながらも、己を奮い立たせようとする残り火のようなものまで描いてくれるのがピロウズは本当に頼もしい。

2日目

歌詞とメロディが身体に沁みついていることを聞けば聞くほど実感した。

高校時代の多感な時期の波を音楽でなだめていた人はきっとたくさんいるんじゃないだろうか。
私にとってはそれがthe pillowsだった。

自分でも名前を付けられない感情にぶつかって狼狽していた時でさえ、ピロウズは自身と向き合う為の手段をそっと教えてくれたし、奥歯が砕けそうなくらい悔しい時には寄り添い、涙を流して吐き出すきっかけをくれたりもした。

この親しみやすいメロディが、優しくも逞しい歌詞と骨太なオルタナと一緒にやってくる。
妙にカッコつけた言葉選びだったりすることもあるが、決して気取ったりはしないような不格好さが逆に頼もしい。
そんな心地いいバランス感覚がピロウズにはある。

そんなこんなで繰り返し口ずさんできた曲は、なんだか自分の身体の延長のような親しみがある。
きっと爪先よりも小さな小さなパーツでしかないのだろうけれど、それでも見えない身体としてずっとここに沁みついている音楽があるということを嬉しいなと思えた。

3日目

シューゲイザーなイントロからoasis的なバラードが切り開かれていく「Nowhere」。

ピロウズのベースは長いことサポートメンバーの鈴木淳がほぼ固定で入っていた。
ロック色の強いダウンピッキングのベースをダダダダダと入れていくのが気持ちよくて私は大好きなのだけれど、このアルバムの時期にはまだ加入していないため、鹿島達也がベースを担当している。

今でこそなじみ深い鈴木淳のベースだが、この時期に入っている鹿島達也のベースは指弾きもこなす、もっと柔軟で軽やかなイメージだ。

そしてギターも機材の変化はもちろん音の質感が2000年初期ごろとはだいぶ違う。
もちろん真鍋吉明らしい音は変わらずあるのだけれど、エイベックス移籍以降のパキッと、ブリッとした輪郭が強く粘りのある音やフレーズの入れ方よりか、バッキングやアルペジオを柔らかく馴染ませる繊細さを強く感じられる気がする。

4日目

ロードムービーのように退屈でささやかな幸せを描写するのがピロウズは本当に上手い。
物語の中で描かれる”君と僕”の世界の範囲の狭さがほほえましい。
そしてその狭い世界の中で二人が起こせる範囲の非日常をはしゃぎまわるような、そんな眩しさは山中さわおが節々で語っているヴィムヴェンダースが好きだという発言からも影響が見て取れる。

以前ポッドキャストでも「メールの時代になっても手紙という言い方をしたい」と歌詞に登場するアイテムへの意識について話していたのを思い出す。
きっとこういった小さなこだわりが、歌詞の中で描かれる物語にノスタルジーなショートムービー感を持たせているのかもしれない。

キミの誕生日 今年はどこ行こう
はりきってる僕のこと 無視して
モノマネみたいな真剣な顔で
"年をとるのはもうやめる"といった

髪の毛を切りすぎた時も
”パトリシアみたいでしょ”なんて
くじけないその図々しさで
二人の星はまわってる

「パトリシア」作詞:山中さわお

この二人の関係性や、”キミ”の映画的なヒロイン性がやはり魅力。

5日目

屈指の名曲、ハイブリッドレインボウ。いいですよね。大好き。

ここでもピロウズのわかりやすいオマージュのきいた曲構成とオリジナリティが光っている。

レディオヘッドの「creep」を元ネタにしたような構成ながらも、あのずっと鬱々とクネクネしている本家とは違い、サビではブッチブチのギターが唸り、ボーカルもがなりながら歌い上げる気持ちよさの緩急がすごく気持ちいい。
そしてここまでギターの繊細さが色っぽく目立っていた真鍋吉明のギターソロが、ここではオクターブフレーズでかき回すように響くのも衝撃的だ。

昨日まで選ばれなかった僕らでも

明日を持ってる

「ハイブリッドレインボウ」作詞:山中さわお

1番ではただ「明日を待ってる」と立ち尽くしていたが、ラストのサビでは「明日を持っている」という確信に変わる。

歌詞としては報われる兆しのようなものは描かれない。前述した「アナザーモーニング」同様、何かが迎えに来てくれることはない。
けれどもやってくるものを待つのではなく、すでにこの手にあるのだという確信に変わっていくというこの歌詞の展開が痺れる。

そしてその「ハイブリッドレインボウ」から続く「Blues Drive Monster」がまた爆裂にかっこいい。

切なさを握りしめるような感覚の曲から、この曲は爽快感で鬱屈をぶち抜いてくれる。

イントロの風を切る音が「ハイブリッドレインボウ」で固めた意思に答えるように心に爆風を起こしてくれる気がする。

高校生時代しんどい時に一番聞いていたのはこの曲だった。

6日目

山中さわおが抱える疎外感や孤独が一番飾り気無く出ている曲がこの「Black Sheep」ではないだろうか。

ピロウズは暗い曲もたくさんあるが、あくまでセンチメンタルとして演出が聞いている感じがあるのだけれど、この曲とはもうほとんど「犯人の供述」だ。

ただピロウズの曲でとびきりに明るいエールソングはほぼ無い。あの「Funny Bunny」でさえもひとかけの諦めを握り立ち上がるような哀愁がある。
どの曲にもなにかしらのネガティブな感情があるが、けっしてクネクネナヨナヨしたままにせずイカれた覚悟があったりする。

しかしこの曲の前には「パトリシア」であんなに多幸感を振りまいていたというのに一体何があったのか。

けれどもここで弾き語り調のこの曲が入ってくることで、この次に控える「Little Busters」の輝きが一層強く映る。

7日目

高校自体にハマってからずいぶん時間がたって、ピロウズ以外の魅力的な音楽もたくさんしって、当時に比べればピロウズに対する熱量は少し下がってしまったかのような気がしていたけれども、音楽のいいところはいつでも楽曲がその時へ立ち戻らせてくれるところだ。

自分はピロウズの1997年~2004年頃の楽曲や歌詞が一番好きで、2006年~2012年頃はまた雰囲気が変わりつつもそれはそれで魅力的だった。
2014年~2018年はだんだんとバンド自体への自己言及の歌詞が増え、バンドサウンドもシンプルな展開が増えていった。しかしそれもピロウズの歴史の一つとして眩しいものだった。

単純な歌詞の好き嫌いだけで言うのならば、最近の曲の満たされている感じよりも、2000年前後の渇いたハングリーさのある歌詞のほうが好きではある。
けれどもどの時期の楽曲を聞いても「ああ、ピロウズの曲だな」とすぐに感じさせてくれる安心感がしっかりと積み上げられている。

無駄に凝った比喩や言い回しを振り回す歌詞でもなく、楽器のテクニックを見せつけるわけでもないのに頭に残る一癖あるフレーズで楽しませてくれる。

90年代国内外のオルタナティブロックと、佐野元春などの歌謡ポップスの要素を"ピロウズとして"昇華した結晶がこの22枚のアルバムとしてこれからもずっと僕らにはある。

まとめ/全曲レビュー

この記事をゆっくりと書いている間にピロウズが解散してしまったのが本当に本当に惜しい。

新しい曲を出さなくなっても、ピロウズはずっと存在すると思っていた。心底びっくりした。

いつまでも自分のバンドが続くと思っていたらあかんですねほんまに。

チバユウスケの訃報にも動けなくなったりしたので、好きな音楽の年代的に本当にいろいろと覚悟をしないといけない。

細野晴臣さん、まじで長生きしてください。

  • Hello, Welcome to Bubbletown's Happy Zoo (instant show)

アルバムを切り開く重厚なギターサウンドと、動物と形容詞を並べ続けるトリッキーな歌詞がバチバチにかっこいい。

Pixiesの成分を感じるのはもちろん、こういったハードさも見せてくれる多彩さがピロウズの魅力だなと思う。

粋な歌詞が多いピロウズだけれど、こういった互換やメロディ重視の歌詞の書き方も山中さわおの魅力的な側面じゃないだろうか。
HiGEなどがフォロワーについているのも納得できる目立たぬ名曲。

  • アナザーモーニング

歌謡的な歌物の良さがまっすぐ届くいい曲。

一番の歌いだしからサビまですべての歌詞が完璧で心を鷲掴みにされる。

歌詞中に登場する単語のチョイスが慎重でノスタルジックな空気を見事に組み上げていると思う。

そして真鍋吉明の泣くようなギターソロ。このコンパクトさでエモーショナルに仕上げてくれるのがかっこいい。
ピロウズがちょこちょこやる飛び道具的な演出としてリコーダーの音がちょろっとはいるのも良い。

  • ONE LIFE(album mix)

まんまoasisの曲。サウンドもコード進行も無茶苦茶oasis。

けれどもここまであからさまに影響を受けている曲というのもあってか、歌詞の載せ方やサビのメロディにピロウズらしさをしっかりと感じられる曲。

『Please Mr.Lostman』を経て、結果以外に宿る確信が強く描かれる決意のような一曲。

「日常の闇にくるまり 自由に縛られて」という歌詞はピロウズ屈指の名フレーズだと思う。

  • THAT HOUSE

アコースティックなノリが心地いいバラード。

僕とキミの鏡合わせの構図はピロウズがよく使う手法の一つで、この時期に強くみられる"いつかの自分への手紙"のような世界観が出ていると思う。

「すこしずつ削られる丘の上で暮らしたい」という仄暗い絵本のような描写の仕方もさわお節がきいている。

  • like a lovesong (back to back)(album version)

リスナーへの贈り物のような曲。ライブでのコール&レスポンスも楽しい。

捻くれものの孤独に手を伸ばそうとする山中さわおのキザな優しさが歌詞に出ていてかっこいい。

ベースラインの唸り方もこの曲の大きな魅力。ギターがシンプルな分、優雅に動き回るベースがこの曲を飾り付けてくれる。

  • Nowhere

シューゲイザーなイントロが開幕鳴り響くバラード。歌詞がとびきりにいい。

映画的なシーンの描写やストーリーテラーのような歌詞の展開が多いピロウズだが、この曲は抽象的な描写がほとんど。

「安らぎに似た退屈な生活は 日増しになんだか優しくしてくれるけど」というサビにかけての歌詞は「ONE LIFE」でも語られたような、平穏に蝕まれる焦燥をよく映し出してくれる。

  • ハイブリッド レインボウ

ピロウズの真の代表曲。

イントロのフレーズの奇妙さでしょっぱなから心をつかんでくる。

"ハイブリッドレインボウ"という象徴的な造語が今後このバンドのランドマークになっていく。

オクターブだけのギターソロがこんなにもかっこいいことがあるのかと、ギターを始めてから再び感動したのをよく覚えている。

フラストレーションを爆発させながらも「明日を持っている」というささやかな決意に着地するサビのアツさったらない。

  • Blues Drive Monster

私の青春のメインテーマがこの曲でした。

音楽がくれる感動や衝動がここにすべてある。演奏自体もシンプルなパワーポップだが、各パートがどっしりと構えているこの感じがたまらない。

余談ですがアニメ『FLCL(フリクリ)』でこの曲が流れるシーン、大好きです。
そして漫画『惑星のさみだれ』でブルースドライブモンスターが砕けるシーン、大好きです。

  • パトリシア(album version)

ピロウズ史上最高のラブソング。

この世のいろんな曲で"キミ"への描写がされているけれど、私はこの曲の"キミ"が一番かわいいと思っています。次点で奥田民生の「マシマロ」の"キミ"が好きです。

歌詞に出てくるパトリシアというのはゴダールの『勝手にしやがれ』に登場するヒロイン。
そのあたりのチョイスも山中さわおらしさを感じられていい。こういったサブカル要素の入れ方もいやらしくないのがいいですよね。

  • Black Sheep

うつ病の日記。犯人の供述。

「パトリシア」の多幸感をすべてなかったことにする鬱曲。どうなってんだ。

アルバムにこんな極端な緩急をつけているのもピロウズの中では珍しいほうかもしれない。

ともかく意外といい曲。メロディと寄り添いながら響くアコギがいい。

  • LITTLE BUSTERS

リスナーのためのファンソング。

"子供たちは未来を歌う。望むのは小さな破壊者だ"と繰り返すこの曲が、音楽業界への遺書といわれる『Please Mr.Lostman』の後に生まれたことがなんて頼もしいだろうか。

「Blues Drive Monster」でも歌われた破壊者(バスターズ)というシンボルは、のちにピロウズのファン名称ともなっていく。

ピロウズとそのフォロワーが求めるのは指導者でもなく、ヒーローでもなく、ただただ望むのはこの日常の破壊者である。
その相手は「ONE LIFE」で語られた"自由で縛り付ける日常"であり、「Nowhere」で語られた"退屈に似た平穏な生活"でもある。

孤独と退屈に確信をしながらも、それを強く睨みつける態度を捨てない。それがピロウズがここまで歩き続けた原点だろう。

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