アニメ

the pillowsの長編MVだなんて言わせない -『FLCL(フリクリ)』について-

2023年2月1日

『FLCL(フリクリ)』というアニメ作品がある。

最近だと漫画『チェンソーマン』にて作者がインタビューで「邪悪なフリクリ、ポップなアバラ」をイメージして描いたと語ったことでも記憶に新しい作品だ。
作中で登場する「easy revenge」と書かれたタバコのシーンなどはあからさまなほどにフリクリのオマージュだ。

アニメでもそのタバコを吸うシーンが丁寧に描写され、フリクリへの敬意を感じる素敵なものを感じられた。

そのシーンを見て改めてフリクリについて思い返してみようと思った次第だ。

アニメ『フリクリ』は、2000年に発表されたOVA作品にも関わらずカルト的な人気があり、海外での知名度も高い。

そしてその期待に応えるように2018年に新作映画として『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』が制作されたが、これについてはもう何も語ることは無い。
全然無かったことにしても良い。つまりそういうことだ。

そんなこんなでフリクリはなぜこうも魅力的な作品なのかということを紹介していきたいと思う。

フリクリとは?

上述もしたとおり、『フリクリ』とは2000年に制作されたOVAである。

制作は、当時『新世紀エヴァンゲリオン』や『彼氏彼女の事情』を担当していたガイナックス。
そしてキャラクターデザインも『エヴァ』と同じ貞本義行だ。
監督は『エヴァ』で副監督を務め、現在は庵野秀明に見込まれ株式会社カラーに移籍している鶴巻和哉。

これだけでエヴァ好きの人には気になる作品だろう。

大きな特徴としては、意味不明な世界観にのせたジュブナイルストーリー、急に挟まる実験的な演出、そして作中の音楽をほぼ全てロックバンドのthe pillowsが担当しているというあたりだ。

全6話のコンパクトな作品ではあるが、勢いのままにテンポよく進む展開に、無駄に良い作画に絡まるロックミュージック、そして思春期の成長をギュッと詰め込んだ満足感の高い作品であることは間違いない。

曖昧な存在がほぼ曖昧なまま進んでいく本作だが、そのややこしさや不明瞭さを蹴り飛ばして進んでいく痛快さもあるので、いざ見始めたらあっという間に視聴し終わってしまう。

そしてthe pillowsのサウンドトラックをリピートしまくる事になるだろう。

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わからないものがわからないまま進み、わからないまま終わるシナリオ

地方都市・疎瀬(まばせ)に住む小学生のナンダバ・ナオ太は、ある日、謎の女が乗ったべスパに轢かれてしまう。

“すごいことなんて何もない”はずだったナオ太の周囲が、その日からあり得ないことだらけになる。

ナオ太の頭から角が生え、さらにはロボットが出現。

元凶の女・ハル子はケロリとした顔でナオ太の家に家政婦として登場。

この女、いったい何者なのか?・・・

©1999 I.G / GAINAX / KGI

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超ざっくり本筋を説明すると、日常に退屈するちょっとませた少年が、突如介入してきたヒロイン ハル子に振り回されながら、自身のコンプレックスに触れて成長をしていくという話。

しかしこの作品にはよくわからない固有名詞が多い。

「メディカルメカニカ」「フラタニティ」「アトムスク」「N.O.」

この辺はざっくりと作中の立ち位置については説明されているが、何をしているのかや、それ自体の説明はほとんど無いに等しい。

それによってメタファー的な意味付けがファン達によって解釈/考察され続けているのも、いまだに人気な理由の一つだ。

そういったよくわからない存在に対して、主人公やハル子が武器として使うのはギターやベースという楽器だ。
クラッシュの名盤『ロンドンコーリング』なさがらのビジュアルで、敵のロボットをベースでぶん殴る。

The Clash『London Calling

ハル子のベースにはなぜかチェーンソーのようなエンジンスターターもついている。
これも含めてよくわからないが、とにかく見た目がかっこいい。
それがとんでもなく丁寧かつかっこい作画でテンポよくビュンビュンと進んでいく。

ド派手な戦闘シーンにかっこいい音楽がかかって、最高!!!
…というシーンと、小学生のナオ太や、女子高生のマミ美が抱える退屈や憂鬱を描くシーンで揺れ動く。

結局彼らが「フラタニティ」や「アトムスク」に関して深く足を踏み入れることはほとんどない。
最終的には再び日常に戻る事になるわけだが、その「知らないし関係もない、何か得体の知れない大きなモノ」には結局彼らは何もできず、ただただその中で自身の内面を少し解いていくジュブナイルストーリーとしてまとまっているのも見事だ。

無駄に凝った実験的な演出

普遍性のあるジュブナイルに、アクセルベタ踏みのSF設定というのは今時珍しいわけではないが、フリクリの魅力にはその独特の演出もある。

途中で突然アニメの作画が、漫画のコマのような演出になるシーンがあったり、それに対して「これ手抜きって言われるけど結構手間かかるんだ」などといったメタ的なセリフを入れたりもしている。

あくまでアニメのワンシーン ©1999 I.G / GAINAX / KGI

またのちに触れるが、ロックバンドの曲を歌詞も載せて作中で流しまくるという演出も、今でこそ新海誠作品などではお馴染みの演出だが、当時は革命的なモノだっただろう。

アドリブ感あるやり取りや、パロディ、極端に強調されたパース、そう言った視る・聴く快楽が作中の至る所に敷き詰められている。

制作から20年以上たった今見てもそのシーンのかっこよさや演出の奇抜さは、新鮮であり続ける強さがある。

全編ピロウズの音楽を使用
「アニメ×ロックバンド」のパイオニア

本作は「the pillowsの長編MV」とも呼ばれるくらい、作中ではピロウズの曲がガンガン流れる。

最近だと新海誠監督が『君の名は』『天気の子』etc. にてRADWIMPSの曲を作中のここぞというところで使うのが話題になっていたのを思い出す。
しかし、この作品の特徴は全体の半分くらいはずっとピロウズが流れているのだ。

ボーカルをカットした曲を不穏な場面でのBGM的に流したり、戦闘中ではアップテンポなロックナンバーがそのまま爆音で流れたり、センチメンタルなシーンやエモーショナルなシーンではバラード曲がその温度感を調整してくれたりする。

フリクリを見る前にピロウズのファンになっていた私にとっては「ここでその曲が来るのか!!!」と大興奮したのもよく覚えている。

ピロウズファンからしても、あの選曲とその使われ方は満場一致で100点が取れるのではないだろうか。

それだけ色々なシーンに呼応できる楽曲を作っているピロウズもすごいのだが、この作品が持つ出鱈目さと繊細さを元々ピロウズが持っているとも言えるだろう。

アンニュイなシーンで流れる『ONE LIFE』
ハル子のテーマとも言える期待感が高まる『RUNNERS HIGH』
パンク感とスピード感の溢れる『Advice』
不穏さから切り裂くファズの波が盛り上げてくれる『STALKER』
戦闘シーンで流れる『Blues Drive Monster』
「クライマックスだぜ!」というハル子のセリフと共に爆音でかかる『LAST DINOSAUR』

全ての楽曲が全てのシーンに絡み合い、アドレナリンがドバドバ出てくる。

担当者が熱狂的なピロウズファンだったことは間違い無いだろう。
そしてこのアニメの影響でピロウズは海外での人気も手にする事になる。
ありがとうフリクリ。

まとめ

私がピロウズ大好きということもあって、後半は音楽サイコー!といったテンションで書いてしまったが、やはりフリクリはただの"長編MV"なんかではない。

90年代から大きなムーブメントとなったセカイ系の要素を持つ作品ではあるのだが、フリクリはなんだかセカイ系とは少し軸が違う魅力がある。
セカイ系といれば、主人公を中心とした小規模な人間関係が、世界の滅亡などの大きな事象に影響しあう物語の構造をよく指す。
しかし、フリクリの場合は彼らは世界の「大きなモノ」に接触はするものの、なす術なく置いてきぼりにされてしまう。
世界を救うわけでも、大きな旅に出るわけでもない。

大人のフリをしていた少年が、自身の"子供さ"を一歩理解し、それによって少しだけ大人になる、という「なんでもなさ」で終結するのがフリクリなのだ。

オリジナル作品でガイナックスがこんなに面白い作品を作っているということを知らなかった人は、どうにかフリクリを見てみてほしい。

すでにフリクリを知っている方に言いたいのは、やはり私たちは『劇場版フリクリ オルタナ/プログレ』を許してはならない、という声明である。

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