展示

石のオークション縮めて『イシオク!』を開催して-直感的価値と価格的価値について-

先日、京都の七条大橋の麓でオークションを開催した。

しかしそのオークションで取り扱ったのは、美術品や骨董品、ましてやブランド品でもなんでもない。

石ころである。

だたの石ころのみを取り扱うオークション、イシオクを開催した。

デザイン:斎藤悠麻(hoge)

今回のこの企画は、普段活動拠点にしているyugeというオルタナティブスペースのサテライトイベントとして計画された。

事の起こりは奈良で開催するアートイベント『MindTrail 2023』にyugeが参加することになったところだ。

会場の下北山村にhoge(yugeの制作チーム)の4人で訪れた際、担当会場付近の河原に立ち寄った。
田舎の綺麗な川に足を踏み入れる興奮もあったが、それよりも気づけばメンバーは石で水切りをしたり、変わった柄の石を見つけたりと足元に転がる石ころたちに視線を向けていた。

思えば私も小さい頃は外出するたびにお気に入りの石を拾っては家に持ち帰ったりしていた。

出先で遭遇した石ころには、そこでしか出会えない偶然性だけではなく、他に一つとないその形の愛嬌、そしてその形(そしてその場所)に至った未知の文脈で溢れている。

石ころを拾うことって何やらとても尊い行為なんじゃないだろうか。

そんなところから掘り進めていき、誰かの心の琴線にふれ、拾い上げられた石の価値を象っていくためのイベント「イシオク」へと辿りついた。

イベント概要

【開催場所】
京都 七条大橋付近河原

【開催日時】
2023年8月2日 17時〜

◉石オークションとは

石オークション(縮めてイシオク)は、それぞれの感性でマーベラスだと感じる石を持ち寄り、集まった人々で値付け、落札できる場です。

何処かで拾った石、ふと目に止まった石、今足元にある石…etc.
どんな石でもあなたが魅力を感じた石を是非ご出品ください。

参加者のその石の魅力に共感した誰かが、その価値を競い合っていくかも知れません。
もしかすると、他の人には共感されない魅力で、値段はつかないかも知れません。

◉WS概要

参加者には河川敷で石を拾い、それに名前を付け、オークションに出品してもらいます。

石オークションに出品する石には出品者が拾ってきた場所と、出品者が石に付けた名前、そして落札者の落札理由が記録されます。

本WSはただの石の価値を見つめて、その価値を提示する事で、参加者で共犯的に価値を築き上げて共有し、残していく為の活動です。

イシオクの様子

hogeメンバーは、ちょうど鴨川沿いに日影が落ち始める頃に七条大橋に到着した。

会場にはイシオクのポスター、そしてオークション会場としての展示台を設置。

そして参加者には落石書という書類を記入してもらうため、それらも会場に持ち込んだ。

"落石書"という物騒な名前だが、落札した石の情報を記録するための用紙である。

メンバーはオークショニア(よくある値段を復唱したりハンマーを叩いたりしている人)としての司会進行、そして出品された石を厳重に扱うガードマン、アーカイブを撮影するカメラマン、落札者として現場が滞るのを防ぐ参加者に分かれて動いた。

石ころをオークションにかける。
そしてそれに現金を出して落札する。

この馬鹿馬鹿しさに意味を上塗りする為に、メンバーはあくまで馬鹿真面目に振る舞わないといけない。
仰々しいコントをやっているような状態に近い。

現場には次第に参加者が集まり、持ち込んだ石を見せびらかしたり、張り合うようにその場で石を拾い始めた。

全ての石には落石書で以下の情報が残される。

・石を拾った人
・石を拾った場所
・石につけた名前
・石を落札した人
・石が落札された値段

どこにあった石が、誰によって拾われ、名前を付けられ、価格をつけられて誰かの手に渡る。

ただの石ころを目の前に、オークショニアは「まずは1円から」と唱える。

「2円!」
「5円!」
「他はないでしょうか、現在5円です」
「…8円!」
「8円出ました。いかがでしょう〇〇で拾われた石、名前は『××』8円で決まりますよ」
「10円!」
「10円出ました!他ないですか『××』10円が付きました。いかがでしょうか」
「……」
「では『××』10円で落札です!」

カン!とハンマーがなった瞬間、川の流れに身を任せて転がってきて石が、人の意志によって貨幣の流れに乗る。

こんなやりとりが20回近く行われ、イシオクには多くの魅力的な石が集まり、また誰かの手に渡っていった。

落札イベント後には参加者同士で石と現金の交換が行われる。

「これいい石ですね」
「手放したく無くなってきました」
「うちにしっかりと飾ります」

そんな会話をしながら小銭と石が手渡されていった。

誰かがなんとなく「いいな」と思ったものが、現金という数値で可視化されるのもオークションという形式の面白いところでもある。
(様々な要素的意味で)大き過ぎるものを扱い、(様々な要素的意味で)大きい力を持つ人だけが参加するオークションでは、すっかり埋もれてしまった心地よさがそこにあったことは確かだ。

アーカイブ

オークションイベントの終了後、出品してもらった石のみを展示する『イシオク!アーカイブ展』をyugeにて開催した。

デザイン:斎藤悠麻(hoge)

会場にあるのはただの石だけ。

白い壁に飾られるとなんでもそれらしく見えてしまうという魔法がアートスペースにはあるが、それにしたって石ころ過ぎる。

けれどもこの石はどれも、誰かが「良い」と思い、また他の誰かが身銭を切ってでも「良い」と共感した石だ。

わざわざそれらの石を展示するのは、その石の文脈を確かなものとして自立させるためかもしれない。

価格も提示されていると、その石にはその価値があるというのが最もな気がしてくるし、逆に「なんでこんなものに」と思うかもしれない。
それらの「(それ以前の)石の価値を疑う」という時間が発生させられたら、それ以上に嬉しいことはない。

振り返り

yugeで普段展示されているのは、作家によって制作された作品だ。

けれども今回は作家であろうがなかろうが、ただ石を拾ってきた人であれば誰でも参加ができる。

その人が今そこでしか巡り会うことの無かった石を、自分の意思で拾いあげて名前をつけた。
その行為自体にも作品制作と通づる価値があるのではないか。

レディメイド(既製品)であろうが、それらの取捨選択に宿る意思や意図が作品を作品たらしめると語られてから、100年以上経つ現代美術。

この試みは、すでにその枠で考え続けている製作者の為のワークショップというよりも、ものが持つ文脈や火花のような感情の機微への価値を見つめようとする、鑑賞者(もしくは文化へ干渉する参加者)の為のトレーニングに近いものかもしれない。

◉告知

そんな試みをしていたhogeだが、今回のイシオクは一つの企画に向けた布石だった。

『MIND TRAIL2023』にyugeが参加し、出張企画を行います。

yugeは下北山村エリアの旧南都銀行跡地を担当して企画/展示をしています。

デザイン:斎藤悠麻(hoge)

yugeの制作チームhogeによる企てで銀行跡地をジャックして『石疎通センター』を2ヶ月立ち上げます。

こちらのイベントでhogeは、作家達によって産み落とされた価値と、鑑賞者が拾い上げた価値の交換を試みます。
作品展示と、価値の交換所としての動きに是非ご参加下さい。

参加作家はコニシムツキ、斎藤 悠麻、中口 環太、平井 里奈、福岡 想、プライベートユニオン、松原 元、miharu、横山 充。

作品展示だけではなく、展示作品と河原の石を交換出来る場所としても稼働します。
是非この2ヶ月だけ現れる『石疎通センター』までお越しください。

作品を作ること、石を拾うこと、価格をつけること、貨幣構造に無かった価値を参入させること。

それらをこの未だに住民同士の物々交換や、無人販売所が成立している下北山村で考えていきたいと思います。

ぜひ興味を持っていただいた方はお越しいただき、この企てに参加していただけると光栄です。

マインドトレイル詳細

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