展示

コニシムツキ個展『騒がしい輪郭』について振り返る

2022年11月27日

フライヤーデザイン:溝辺千華

このサイトでは観に行った展示などについても投稿していこうと思っているのだが、ここのところ美術から距離をとっていたこともあり、随分と展示をみに出かけていない。

というよりも外出していない。

なので自己紹介も含めて自分が過去に開催した展示について振り返りたいと思う。

『騒がしい輪郭』展示概要

開催期間:2019年12月8日-15日
開廊時間:13:30-20:00
出展作家:コニシムツキ

言葉とは、概念から要素を限定し本質の輪郭のみを残して削る鑿(のみ)に等しい。

林檎を手にとり、「この林檎は」と言葉にしてしまえば、例えそれが果物だろうがお土産だろうが今日のおやつだろうが、言葉の上では林檎でしかなくなってしまう。

そして彫刻とは、マテリアルによってモチーフの持つ本質的な輪郭を捕まえようとする行為と言えるだろう。

この作品は言葉という強引な鑿を、街で聴こえた他人の会話という曖昧なマテリアルに当てることで、現実と非現実の混在した輪郭を削りだすという試みだ。

現実のようなものの欠片を張り詰めたハリボテの虚無は、その余白から命を受けて、もう一つの現実として自立するだろう。

これは彫刻である。

展示ステートメントより

この展示は当時京都の下鴨にあったオルタナティブスペースyugeにて開催された、筆者コニシムツキの展示である。

他人の会話を素材として扱い、彫刻作品を作るというコンセプトの作品シリーズを展示。

コピー用紙を使用した簡素な形式の作品を彫刻として自立させられるかという実験が中心になっている。

会場では初日にパフォーマンスとして会話劇を上演。

その他の日付では他分野の作家などとのトークイベントを開催。

会場風景

展示タイトル

この展示は人通りの多い交差点で盗み聴きした他人の会話から、その内容や会話をしている対象同士の関係性などを作家が勝手に想像し人物像を作り上げていくというシリーズが中心になる。

雑踏の会話を素材に浮かび上がってくる虚構と妄想の人物像というイメージでタイトルを『騒がしい輪郭』とした。

また英題の『Polterkontur』はポルターガイストをもじったもの。
(何もないのに椅子やタンスなどの物がガタガタと動く怪奇現象を意味するポルターガイストは直訳すると"騒がしい幽霊")

展示作品

印字された他人の会話の余白に、その時間と場所や人物像、関係性を偏見と想像で書き込み埋めていくというシリーズは、参考資料としてその場所のGoogleマップや近辺の店舗情報などもプリントアウトされ張り出されている。

「実態に存在した会話」という一欠片の現実から、それ以外の全てを虚構で埋めることで、鑑賞者の想像上で人物像が自立するならば、それは彫刻ではないか、という屁理屈のような作品になる。

他のシリーズは、実際に聞いた会話を元に、その台詞へ辿り着く以前の会話を勝手に書き上げることで、実際に発話された際の言葉の意味を上塗りするという趣旨の戯曲気味た文章だ。

会話の相手との文脈ありきで発話される会話は、その文脈をでっちあげられることで、発話した対象の人物像がまるっきり変わってくる。

先ほどの作品が「リアリティを持って会話の主を想像する作品」だとしたら、この作品は「フィクションを持って会話の主を作り替える作品」になるだろう。

会場でパフォーマンスとして演じられた会話劇は、11月7日に町で収集した他人の会話のみを素材に、それらを継ぎ接ぎして作られたものだ。

舞台経験者のミワチヒロ氏に協力してもらい、二人での会話劇として意味があるような内容なチグハグなやり取りを続けるもの。

その時の映像がこちら。

振り返って

形の持たない彫刻作品を作れないか、言葉を使って作品を作れないか、と悶々としていた時期に「まずは作るべし」と動き回って制作した作品だった。

今見ると作品自体のコンセプトはそれなりに納得しているものの、物自体のアウトプットの方法であったり、展示として出すやり方をもっと練りたいものだなと思う。

仰々しいコンセプトでありながら、できる限りそもそもの「他人の会話という素材の面白み」を鑑賞者に拾ってもらえるように内容自体はコメディ的な側面が強かったことも良い面と難しい面があって手を焼いた。

悪ふざけのような内容だからこそ、物自体に威厳を持たせられるような大袈裟さや丁寧さがもっと必要なのかもしれないと反省をあげるとキリがない。

美術作品の制作自体は随分と時間が空いてしまったが、「構想がまとまったら次の作品を制作しよう…」と思いながら時間だけがどんどん過ぎている今を思うと、この時のとりあえず制作してみるかという精神は見習うべきだと思った。

次の展示の機会があれば、是非どこかで足を運んでもらえると幸いである。

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