前の記事でオリバーピープルズの眼鏡を紹介したように、私は眼鏡が大好きである。
裸眼では手元の本も読むのが困難なほど目が悪い私は、眼鏡やコンタクトがなければろくに文化に触れることができない。
眼鏡は私を外と繋いでくれる、ありがたい道具なのだ。
前に紹介した眼鏡は、有名メーカーの定番モデルの『オマリー』だった。
しかし、今回紹介したいのは、少しトリッキーな眼鏡だ。
MARUYAMA MASAHIROというブランドが出す『2side』というモデル。
このブランドはミュージシャンの山口一郎(サカナクション)や、長岡亮介(東京事変/ペトロールズ/星野源サポート)などもかけているので、もしかすると音楽好きの眼鏡人(眼鏡人?)からは有名かもしれない。
『2side』は「非対称」をテーマに眼鏡のデザインを続けるブランドが出した、初期からあるモデルだ。
ぱっと見は普通の眼鏡のようだが、よくよく見るとなんだかおかしい。
奇抜すぎる眼鏡は気が引けるが、ちょっと面白いものにも興味がある人はぜひチェックしてみてほしい。
MARUYAMA MASAHIROの眼鏡
MARUYAMA MASAHIROは、2011年にデザイナーの丸山正浩によって立ち上げられたブランド。
大きな特徴として、左右非対称なデザインが多く、その奇抜さがありながら眼鏡として顔に馴染むバランス感覚が大きな魅力。
Unfinished Art / 未完成のアート
Beautiful Lines - A form born out of raising a question to perfection
美しいライン - 完璧さに疑問を投げかけることで生まれる造型
https://masahiromaruyama.jp/#/concept
この掲げられているコンセプトからも分かる通り、丸山正浩はシンメトリーなデザインが到達点であることに一石投じる。
このブランドのシリーズは有機的な曲線が多く、フリーハンドで描かれた線によって作られたものも多い。
モデルの名前も『dessin(デッサン)』『collage(コラージュ)』『doodle(らくがき)』『sculpt(彫刻)』など、美術に絡めたキーワードがよく使われる。
どれもが非対称で奇抜なデザインでありながら、素材の組み合わせや曲線の加工が"やり過ぎていない"かっこよさにしっかりと纏まっている。
ブランドのアイコンになっているのも、非対称を物語るような星と丸のマーク。
奇抜な眼鏡を出しているブランドと言えば他にも多く例が挙げられるだろう。
鉄塊のようなフレームを作る『RIGARDS』
ネオンのような華やかな色使いと曲線の『theo』
スチームパンクのような存在感が目立つ『less than human』
板材をそのまま繰り抜いたようなソリッド感の『Jacques Durand』
…etc.
どれも魅力的なメガネを作るブランドではあるが、あまりにもアイコニックな存在感を持つため、どうにも顔の薄い私などは眼鏡の方に印象が全部持って行かれてしまうので抵抗がある。
(逆に『Jacques Durand』を愛用する坂本龍一氏などはあの眼鏡を完璧に着こなしていて憧れる)
しかしそんな中でMARUYAMA MASAHIROの眼鏡は、その独特なデザインを持ちながらも、いざ顔にかけてみるとパッと見「何か違和感がある」くらいのフックに収まるのが見事だと思う。
だいぶ攻めたことをやっているのに、おおよその外郭はあくまでクラシックを地盤にして、細かい輪郭線や素材の使い方で鋭い個性を見せてくれる。
今や五千円でも買えてしまう眼鏡に、お金をかけてしまうのはほとんど自己満足だ。
しかしその所有欲を確かに埋めながら、顔に馴染む鋭い個性で突き刺してくれる。
それがMARUYAMA MASAHIROの眼鏡だ。
『2side』とは
『2side』はMARUYAMA MASAHIROから2014-2015のシーズンで登場したモデルだ。
写真でも分かるように左側のフレームの角がツンと立っているのが特徴的に目立っている。
しかしよくよく見てみれば、その角だけではない。
左右のレンズを繋ぐブリッジのところも、左側は直線で右側は曲線になっている。
そもそもレンズを囲むフレームの輪郭も、細かくカクカクしているのが分かるだろうか。
これこそまさに上述したように遠目で見た時にはクラシックなデザインに収まりながら、近くでは前衛的な手仕事が見えてくるフレームだ。
そんなフレーム構造なので、フロント部分と耳にかけるテンプルを繋ぐヨロイの位置も非対称だ。
左側は少し高い位置にあるが、右側は少し低い位置についている。
しかし、これがかけてみると綺麗にバランスが取れるようになっている。
そしてテンプルの先のモダンと呼ばれる耳に直接かかる樹脂パーツ。
ここの形も、左は丸まっているが、右側はやや角張っている。
あくまでかけ心地はよく、使っている本人はこの非対称さを感じることは一切ないのだが、こういった細かいところでも「非対称」というテーマを一貫している丁寧さがよく分かる。
尖り方を分かっている実験的なズラし
尖ったデザインのメガネを使いこなすのはやはり羨ましい。
先ほども書いたように、『Jacques Durand』の極厚切り出しフレームを見事に顔に馴染ませる坂本龍一や、『EFFECTOR』の骨太な太縁フレームを自身のアイコンまで昇華した宮川大助、『Opt Galle』の極端な小振りさと独特の曲線フレームをアイコン化した山里亮太などは本当に凄い。
最近だと経済学者の成田悠輔が『XIT』のポップアートのようなメガネをアイコン化しているのも印象的だ。
(『XIT』もまさに四角と丸の非対称フレームだが、これはかなりハードルが高い)
こういった尖ったメガネフレームは、顔をメガネで覚えてもられるメリットはあるが(芸能人は特に顕著だろう)、私のように眼鏡とコンタクトを気分で変えているただの一般人からすると、なかなか日常的に楽しみづらいところがある。
そんなところにこのブランドだ。
かなり攻めている実験的なコンセプトだが、海外ブランドのような煌びやかすぎるカラーリングというよりも、落ち着いたトーンなのも私としては好印象だ。
実際レッドやブルーのカラーモデルもあったりするが、どれも深い色をしていて大人っぽい。
奇抜な眼鏡はポップでキッチュな印象になりがちだが(それが魅力でもあるが)、このブランドはあくまでシックでモダンな方向性を一貫しているのだ。
古典を踏まえた上での実験的試み。
自身が跨ぐ"枠"を理解した上で、その"枠"を意図的に踏み越えるデザインこそ、このブランドの魅力だと言えるだろう。
まとめ
奇抜すぎる眼鏡をかけるのは気が引けるが、面白い眼鏡を持ってみたい。
そんなことをふんわりと考えていた人は、是非MARUYAMA MASAHIROの眼鏡をお勧めしたい。
眼鏡の印象が強すぎて服装が引っ張られすぎることもないが、ちょっとしたアクセントにもなってくれる。
そんな器用に尖った眼鏡を一つ持つと、どんどん眼鏡生活が楽しくなっていくだろう。
私はすっかりMARUYAMA MASAHIROにハマり、他のモデルのサングラスも一つ持っている。
それについてはまた記事を書きたいと思う。
それでは。