思弁逃避行

[#09]サラダをめぐる待ち時間 -思弁逃避行-

2022年12月30日

ピザ屋のベンチで注文したピザが出来上がるのを待っていたときの話である。

暇つぶしにと思ってメニューを眺めていると、サイドメニューに妙なものをみつけた。

「焼肉屋さんのチョレギサラダ」

おわかりいただけるだろうか。
何か、こう、ムズムズする。色々と腑に落ちない。

まず、ここはピザ屋だ。焼肉屋さんなどではない。
だというのにもかかわらず焼肉屋さんのサラダを出すとはなにごとか。
勝手に持ってきちゃったのか。
だめだよ。すぐに返してやるべきだ。

そしてもう一つ。
焼肉屋さんのサラダってそんなに特徴的だっただろうか。
例えば、これならまだわかる。

「うどん屋さんのカレー」

わかる。うどん屋さんのカレーは、いわゆるインド由来のスパイスを多用したカレーではない。和風だしのまろやかなカレーだ。
それは紛うことなく、うどん屋さんだからこそ存在するカレーだ。

しかし、焼肉屋さんのサラダはどうだ。
焼肉屋さんでサラダを食べて、やはり焼肉屋さんのチョレギサラダは違うね、このサラダが食べたくてついつい焼肉屋さんに来てしまう、などど考えたことはあるだろうか。私は断じてない。
もしもそんな輩がいるのならば、調子に乗るなとこめかみを殴ってやりたい。

「焼肉屋さんのカレー」

むしろこの方が牛の旨みがたっぷり入っていて美味そうじゃないか。
質はいいけどお出しするには微妙な切れ端のお肉などが有効に活用されています感がすごい。
それなのにこの店はなぜかサラダをチョイスし「お待たせしました!」と言わんばかりの堂々とした態度でメニューに取り込んでいる。
謎だ。謎のサラダだ。

何ならもうチョレギという響きもなんだかおちょくられているような気がしてくる。

そもそもチョレギとはなんなのか。諸説あるようだが意味は以下の通りである。

「野菜をちぎって作ったサラダ」

おい、意味が被っているじゃないか。

それではチョレギサラダは「野菜をちぎって作ったサラダのサラダ」という意味になってしまう。
ならばチョレギを省くべきだ。「焼肉屋さんのサラダ」でいい。
いや違う。ここはピザ屋じゃないか。「ピザ屋のサラダ」でいい。
いやそんなことは知っている。「サラダ」でいい。

不意に店員に呼ばれる。ピザができたらしい。
何だか頭の中がすっかり焼肉の気分になってしまっている気もするが、ようやくピザを食べられる。

デリバリーピザの店は店頭まで足を運んで持ち帰ると格段に安い。
私はピザを受け取り、料金を支払い店を出る。

帰り道、今私の右手にぶら下がっているのは「デリバリーピザ屋さんの持ち帰りピザ」であることに気づいた。
これは「ピザ」であることは間違いないが、そう考えると随分とへんてこなピザだ。

家に着いたら簡単なチョレギを作ってこのへんてこなピザと一緒に食べよう。
いや、やっぱり変だな。「サラダ」でいい。

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