焼肉屋のシメはやはり卵スープに限る。
先日京都にある少し有名な焼肉店に行った。
当然肉は美味く、腹も膨れて大満足。
シメはもちろんお待ちかねの卵スープだ。
焼肉の後の卵スープの美味さは実感としては焼肉より美味い。
焼肉を食べれば食べるほど、後に控える卵スープの美味さが比例して上がっていくのだ。
もしかすると焼肉は、卵スープのための前座、もしくはチャージ時間でしか無いのかもしれない。
こういった美味さは他にも言える。
歩き疲れ、避難するように足を運んだ喫茶店で、最初に口にするお冷の味を、その後に飲むコーヒーが超えた試しがない。
精神面に訴えかける美味さは理屈を超えていく。
つまり何が言いたいのかというと、それだけ焼肉の後の卵スープは格別に美味いということなのだ。
さて、話は戻って焼肉屋。
そろそろ締めにとメニューを開いて「スープ」とある欄をみる。
どうやらこの店には卵スープとわかめスープがあるようだ。
わかめスープも美味いが私は断然卵スープ派だ。
早速店員を呼んで卵スープを注文すると、店員は申し訳なさそうに、もう卵スープはもう売り切れてしまったと答えた。
ショックだ。
焼肉屋で卵スープが切れることあるとは。
勝手に卵スープは無限だと思っていた。
この街には卵スープが湧いてくる水脈があり、その上にしか焼肉屋は存在しないと思っていた。
私は学んだ。卵スープは有限。限りがあるのだ。
気を取り直し、私は柔軟にわかめスープを注文した。
こういう時は切り替えが大切。なにもスープがないわけではないのだ。
すると店員はこう答えた。
「わかめスープに卵を入れる、というのも可能ですが如何でしょうか」
その時、一瞬意味が理解できなかった。
卵スープはもう無いが、わかめスープはある。
しかし、そのわかめスープに卵を入れることはできるのだそうだ。
では、そのわかめスープ(卵入り)からわかめを抜いたら、それは卵スープではないのだろうか。
訂正する。今考えても意味がわからない。
私はとっさに「あ、じゃあそれで」と答えてしまい、モヤモヤしながらわかめスープ(卵入り)を待つことになった。
そうだ、もしかすると卵スープに入っている「卵」と、これからわかめスープに入れてくれるという「卵」は別のものを指すのかもしれない。
いや、だとしたらあの状況で店員が代案のように提案してくるのはおかしい。
一体どういうことなのか。
しばらく頭を悩ませていると、わかめスープ(卵入り)が到着した。
それは「わかめスープに、卵スープの具が入ったもの」であり、紛うことなく「わかめスープ(卵入り)」だった。
しかし同時にこれは「卵スープ(わかめ入り)」でもある。
つまりそこには売り切れて注文できないはずの卵スープが存在してしまっているのだ。
説明が遅れたがこれは怖い話だ。
私は恐怖に震えながら、試しに「わかめスープ(卵入り)」からわかめを取り出してみた。
卵スープ(わかめ抜き)ができた。
これ卵スープじゃん。
この店にはもうないはずの、卵スープ…なにこの状況!!!
怖い怖い怖い!!!!!!
気がつくと私は恐怖のあまり店を飛び出し、ブルブル震えながら家路についていた。
もう何がなんなのかわからない。
早く家に帰って温かいものを飲んで落ち着こう。
確実に存在する、卵入りのスープを自分で作ろう。
純粋な、混じりっ気のないスープ(卵入り)を。