高校時代に音楽が好きになり、自分の小遣いで中古のCDを買うようになった。
好きなバンドを見つけてアルバムを集め、新譜をCD屋で買うようになった。
当時はサブスクサービスなどもなかったため、CDラックやiPod nanoに自分の好きな音楽が集まっていくのが嬉しかったのをよく覚えている。
そしておんなじアルバムをアホみたいに聴きまくっていた。
自分たちの親世代で言うと、「擦り切れるんじゃないかと思うくらい同じレコードを聞いた」みたいな感じだろうか。
部屋では何回もコンポにCDを差し込んで、歌詞カードを開いたし、外ではiPodの再生ボタンをしこたまタップした。
今は私もサブスクを使い、色々な音楽に気軽にアクセスするようになった。
無茶苦茶便利である。
本に載っている古い名盤や、CDが廃盤になってしまったアルバムも実際に聴くことができる。
しかし選択肢が増えすぎてちょっと齧ったような聞き方をしてしまったり、逆にその選択肢がサブスクの範囲内に限られてしまうという、無意識下で消極的な取捨選択をしてしまっている気もする。
まあサブスクを使いながらCDを楽しむことだって当然できるので、自分にとって不自由のない手段をその都度選びながら、良いトコ取りで文化と触れ合うことが一番楽しい。
そんな中で、昔のあの一つのアルバムをあきれるくらいに聞き続けるという行為の久しさを思い出した。
そして軽い遊びのような感じで自分の私生活に企画を持ち出した。
「一週間、勝手に一人でヘビロテしまくってみるか…」
ちょっと久しぶりに嫌というほど同じアルバムを聴いてみよう。
前から聴いていた音楽や、今まで聴いていなかった音楽を自分に擦りまくってみよう。
「そうそう、このアルバムいいよね〜」とか言いながら最近あんまりしっかり聴いていなかったり、移動中に流しで聴いていてアルバムの最初の3、4曲くらいしか聞かずに停止ボタンを押すことも多い。
「あのミュージシャン、なんか好きじゃないねんな〜」と言いながらも、YouTubeやSNSで流れてくるタイアップ曲しか聞いたことがなかったりする。アルバム単位だとどういった作品作りをするのだろうか。
そんなわけで勝手にヘビロテ、はじめます。
今回選んだのは大好きだったけれども最近聴いていなかったアルバム。
スーパーカー
『Futurama』
スーパーカーとは
1997年から2005年の間に活動していた日本のロックバンド。
青森県で結成し結成後の2年でデビューを果たす。
初期のシューゲイザーサウンドに独特な青さが光る歌詞を載せた音楽性はいまだに多くのミュージシャンに影響を与えている。
また、後期にかけてはシンセサイザーを取り入れエレクトロサウンドとの融合を果たし、ハウスミュージックのジャンルからも評価を得る。
同時代にはくるり、ナンバーガール、中村一義などが活動していた。
解散後、中村弘二とフルカワミキは、田渕ひさ子(ex.ナンバーガール)、牛尾憲介(ex.電気グルーヴ)と共にLAMAというバンドを結成し活動。
メンバー
・中村弘二
ボーカル、ギター、シンセサイザー担当。
通称「ナカコー」
基本的にスーパーカーの曲はナカコーが作曲している。
・いしわたり淳治
ギター担当。
通称「ジュンジ」
作詞を担当。
・フルカワミキ
ボーカル、ベース担当。
・田沢公大
ドラム担当。
アルバム『Futurama』とは
今回ヘビロテする『Futurama』はスーパーカーの3枚目のアルバムだ。
1stの『スリーアウトチェンジ』はシューゲイザーやノイズポップの傾向が強く、The Jesus and Mary Chainからの影響が顕著に出ている。
アルバムのレコーディングはほとんど一発録りのため、アルバム通してのライブ感がある仕上がりになっている。
2ndの『JUMP UP』から電子音の導入が見え始め、アルバムの開幕から終幕までずっとレコードノイズが薄くかかっているなど、サウンド面へのこだわりがコンセプトとしても自立していく。
その後企画盤として『OOkeah!!』と『OOYeah!!』が発売されるが、これは過去に制作していた曲のストック分を発表するような印象が強い。
おそらく『JUMP UP』で電子音を取り入れた曲作りに傾倒していったナカコーが、次のアルバムのために制作した曲と過去の曲を混ぜたくなかったからではないか、と私は勝手に思っている。
そしてそれらのアルバムを経て2000年に発表されたのが3rdの『Futurama』である。
それ以前の作品は曲によっては笑ってしまうくらいジザメリの影響がモロに出ているような雰囲気の曲が多かったが、スーパーカーはこのアルバムで完全に自立したと言えるだろう。
この記念碑的な作品をあらためて聴きまくっていく。
『Futurama』の収録曲
- Changes
- PLAYSTAR VISTA
- Baby Once More
- White Surf style 5.
- Star Fall
- Flava
- SHIBUYA Morning
- Easy Way Out
- Everybody On News
- Karma
- FAIRWAY
- ReSTARTER
- A.O.S.A.
- New Young City
- Blue Subrhyme
- I'm Nothing
1日目
『Futurama』は元々好きなアルバムで、スーパーカーというバンドの入り口にもなったアルバムでもある。
宮藤官九郎監督の映画『ピンポン』で作中の音楽にスーパーカーが使用されていて、それがえらくカッコよかったので聞きはじめた流れだった気がする。
スーパーカーといえば1stの青いジャケでお馴染み『スリーアウトチェンジ』という人も多いかもしれないが、やっぱり最初に聞いたアルバムは思い入れが深い。
中でも一番好きなのはその映画の名シーンで流れる「Baby Once More」だ。
ローテンポでひたすら同じビートとギターフレーズ、コーラスがリピートされるような構成で、ボーカルは入っているもの、ほとんどインスト曲に近い感覚の曲だ。
ボーカルは「Ah Ah Ah~♪」と「ベイビベイビ、ベイビ、ワンスモーア」を繰り返すだけ。
にも関わらず、この曲の歌詞カードには、このボーカルとは一切関係ない文章が載っている。
ベイビー、今度はよりかからないで愛そう
か、かっこいい〜〜〜〜!!!!
今思うと無茶苦茶くさいのだけれども、これに気づいた学生時代はたまらんくらいに痺れた。
のちにアンビエントに傾倒して現代音楽方面へ進んでいくナカコーと、のちにJ-POP/J-ROCK界で作詞家やサウンドプロデューサーとして活躍していくいしわたり淳治が共にしたバンドなのだということを改めて感じる。
2日目
サブスクによって好きな曲だけを聴くという選択肢が取りやすくなった今だけれども、私はやっぱり音楽を聴くときはアルバム単位で聴きたい。
音楽にがっつりハマりはじめる時にその入り口になったのが、the pillowsだったりASIAN KUNG-FU GENERATIONだったりしたので、そのおかげもあるかもしれない。
それぞれ『funny bunny』であったり『リライト』などの有名曲があるが、その曲だけではなくアルバム内での曲の繋ぎ方への凝り方が共に全面に出ているので「アルバムで聴くのはこんなにかっこいいのか!」という感動も教えてもらった気がする。
話は戻って『Futurama』も同じくアルバムの構成が凝っている。
曲同士の流れがシームレスに繋がっている楽曲が多くて、メドレーのようにアルバムを通して聴きたくなるような完成度が『Futurama』にはある。
3日目
このアルバムではナカコーががっつりシンセサイザーを導入したことで、これ以前のアルバムから比べてグッと音の構成が空間的になっている。
1stの『スリーアウトチェンジ』は夏っぽいイメージがあるが、2ndの『JUMP UP』では空のようなイメージ、そして3rdの『Futurama』はもっとはるか上空へと向かうようなイメージだ。
ギターで塗りつぶすような曲が多い初期に比べて、このアルバムからは余白のある音の使い方がされはじめ、カッコいい。
このアルバムをひたすら聴くのも3日目に入ることで、だんだん曲の展開や流れをはっきりと覚えるようになってきた。
ツイートでも書いているように、この状態になると「この次にこういう音が来るんだよな」と待ち構えて、その音が来た時に快感のようなものを得られるような楽しみ方が生まれてくる。
学生時代に擦りまくったアルバムとかはほとんどそんな感覚だったな、と懐かしい気持ちになった。
特に「Everybody on news」はしっかりどんな曲かわかっているはずだったけれども、イントロの段階でギロの音が入ってきていることに気づいたときは驚いた。
今まで何度も聴いていたのに全然気にしていなかった。
これに気づくと面白いのが、間奏のところではボンガのような民族系の打楽器が入っていることにも納得する。
そしてラストのサビのところで入ってくるシタール(風のギターか?)がインド音楽のような幻妖なフレーズを唸らせていることにも気づく。
この曲って民族音楽的な要素も取り込んでいたんだな。
いや、曲中にずっと繰り返されてる「テテン、テテン、テテテテン♪」というメロディもバイオリンのような音で入っているし、民族音楽というよりももっと多国籍なイメージなのかもしれない。
4日目
スーパーカーの初期の歌詞といえば、もう恥ずかしくて正面からは読めたもんではない。
それはそれで魅力的なのだけれども、このいしわたり淳治の歌詞もこのアルバムあたりを境にどんどんと変化をしていっているのが感じられる。
アルバムの一曲目が『Changes』なのだから当然かもしれない。
抽象的な文章や、意味のわからないような造語で歌詞か組み込まれるようになっている。
個人的には後期の歌詞の方が私は好きだ。
もちろん初期の頃から漂う"未来に消極的で気だるげな若者像"を描いてはいる歌詞は『FAIRWAY』あたりでも健在だ。
臭さは抜けきらないけれども、やっぱり「"安心はどこか退屈に似ていた" そんな『なぜ』に撃たれていた」みたいな歌詞は魅力的だと思う。
私は音楽は歌詞も含めて好きになれるかが結構大きな要素として関わってくるので、臭くてダサいけど「かっこいい」と思えるかどうかは大事だ。
けれどスーパーカーといえば「いい曲に言葉はいらない」と切り捨てたナカコーと、作詞に魂を燃やしていたジュンジの決裂が解散の原因とも言われるバンドでもある。
解散は悲しいことだけども、このナカコーの理念からか歌い方にあまり歌詞の意味性を感じないのもスーパーカーの魅力の一つだと思う。
「腹から声出せ」と言われそうな脱力感のあるボーカルだけれども、この歌い方のおかげで日本語の"一文字一音"のマス目詰めのような発声とは違う味が出ている。
だからこそ、聴いているときに主張しすぎない歌詞をこうやって改めて見たり聞き取ったりするのが楽しい。
5日目
あらためてこのアルバムの一番の盛り上がりは「FAIRWAY」だと実感する。
以前のシングル曲のようなギターが塗りつぶしていくようなアプローチではなく、打ち込みのドラムでソリッドに締まったビートに、覆い被さるようなシンセのモジュレーション、そして一歩引いたところにギターがいる。
そしてこの曲が終わってからは歌モノというよりも、音で聞かせるような展開の曲が畳み掛けてアルバムを閉じていく。
3日目にアルバムが進むごとに上空へ浮かび上がるようなイメージがあると書いていたけれども、まさに「ReSTATER」で大気圏を突き破るような感覚がある。
そして抜群にかっこいいのが、「Blue Subrhyme」のうねるような音の渦で、リバーブや逆巻きのディレイを深くかけまくったナカコーのボーカルだ。
何を歌っているのかさっぱりわからない。ほとんど声も楽器として作用している。
歌詞を見てみたらこれだ。
ルームバタフライ、案内の花の褪せない一瞬に終わりを
狂うためと平穏のためのブルーサブライム、幻想のクラブドーム
灰色クライムフルニューウェーブ +MEEeEEEE
ほんまに歌ってる??????
よくよく聞いてみればそれ的な発音をしているので、これは一応歌っている歌詞ではあるようだ。
6日目
「一週間も一つのアルバムを聴き続けたら、気づきはあるだろうけれど嫌になるだろうな」という予想のもと、少し苦行のような気持ちでヘビロテを始めたけれども、以外にも全くしんどくない。
流石にサンボマスターとかでこの企画をやっていたら嫌になっていたかもしれない。
いや、それだけじゃなくても同じスーパーカーでも『スリーアウトチェンジ』をリピートし続けていたら少しは飽きが出ていたかもしれないと思う。
私は『JUMP UP』にハマって繰り返して聞いていた頃があったけれども、あのアルバムは全体的にゆったりとしていて、バラード調の曲にAlva notoがやりそうなミニマルなノイズが散りばめられている曲が多い。その心地よさが意識に程よく差し込んでくるので繰り返し聞くことができた。
『Futurama』はこの次に発表される4thの『HIGHVISON』よりも、ずっと音に空白が多い。
そして面白いのは最後に発表される『ANSWER』ではテクノサウンドからまたバンドサウンドに回帰して、常に音が動き回る『HIGHVISION』から一転、ミニマルなサウンドに収束していった。
ナカコーが影響を公言していたCorneliusやブライアンイーノもそうだったように、オルタナティブサウンドを抜けた先にはアンビエントやアフロビートの快楽が待っているのかもしれない。
7日目
このアルバムの曲は印象的なフレーズの繰り返しがとても多い。
バンドサウンドならイントロに印象的なフレーズが取り入れられることがあったり、ギターソロで聴かせたりというアプローチが多いけれども、スーパーカーは所謂ギターソロといったギターソロはほとんど無いに等しい。
逆にがっつりテクノミュージックのように骨組みとなるフレーズがバキバキになり続けるというわけでもない。
数えても7、8個も無いようなフレーズがリピートしながら曲を展開していく。
5thアルバムの『ANSWER』には引き算の美学のような境地を感じるが、本作のミニマルさはそういった切り詰めていった空白ではなくて、淡い水彩画のような"最小の手数で足し算していく"かのような余裕がある。
ここから4thでは完璧に配置されたパズルのようなソリッドさに進化し、5thではそのソリッドな音を彫刻のように削り落としていくように進化していったのかもしれない。
まとめ / 全曲レビュー
一週間、聴き続けてしまった。
なんだかんだ言っていたけれども、結局思うところは「このアルバム、無茶苦茶かっこい〜〜〜〜!!!」というところだ。
今ではいろいろな音楽を知ることにも快楽があるけれども、「いろいろな音楽を知っていること」自体が目的化してしまうような、そんな虚栄心もなくひたすら好きな音楽を回し続けていた頃を思い出せたのは大きな収穫だと思う。
この一週間聴き続けていった上でのそれぞれの曲の印象を最後に少しづつ書いて終わろうと思う。
- Changes
遠くからギターのディレイが差し込んでくるやいなや、電子音のビートがアルバムの開幕を切り開くインスト曲。
バラードとミニマルノイズで構成されていた前作のアルバムからの進化を表明されるような構成でワクワクする。
曲が盛り上がってきたところでスッとフェイドアウトして、電話をかけるようなボタンの音と保留音で締められる。
- PLAYSTAR VISTA
そしてその保留音からテレフォンフィルターのかかったギターから曲が始まる。この繋ぎが洒落ている。
コードをシャラーンと繰り返し鳴らしながらボーカルがふんわりと入るのは前作からのイメージにも繋がるのだけれども、ボーカルのフレーズが終わると途端にギターの轟音と電子音がホームを走る電車のように駆け抜けていくのがカッコいい。
そしてまた電話の保留音がリフレインしていく。
この流れが圏外まで浮上していくような宇宙感を演出してくれている気がする。
- Baby Once More
そして私の大好きな曲。一週間聞いてもやっぱりずっと好きです。
ギターのフレーズが好きすぎて暇な時にずっとこれを弾いてしまう。
このミニマルさで飽きさせずに聴かせてくれるのはやはり凄い。
とは言いつつ、同じフレーズながら後半ではコーラスにフルカワミキが入ったり、ギターのバッキングが足されたり、スライドギターが差し込まれたりと展開は豊富だったりする。
- White Surf style 5.
このアルバムの中で一番アップテンポな曲。
以前からやっていたようなシューゲイザーサウンドだが、そこに以前には無い奇天烈な歌詞がのり、それを透明感のあるシンセが覆う。
階段上に登っていくボーカルのフレーズを追いかけるように、ギターを掻き鳴らしていくのがベラボーにかっこいい。
ラストのサビの「いいように 風色に」というフレーズでの突き抜けた感が爽快。
- Star Fall
そこから打って変わって電子音で構成された静かな曲へフェードインしていく。
歌い出しの「器用に」のところが前の曲の「いいように」と同じメロディで韻も踏んでいて、この曲の繋ぎ方もすごく洒落ている。
「ピュピピピーピピーピピーピーピー」というフレーズも印象的だけれども、こういう曲でのギターの入れ方もカッコよくて好きだ。
山本精一がROVOで弾いているギターのようで素敵。
- Flava
後期にも引き継がれていく浮遊感の強いバラード。
歌い出しの「愛 2枚の羽 せまいベッド」みたいな歌詞はやっぱりダサいのかカッコいいのかよくわからない絶妙なライン。
このアルバムは歌詞も同じフレーズの繰り返しがとても多い。
- SHIBUYA Morning
次のアルバムで全曲揃えられているのと同様の「カタカナ+英単語」のタイトル。
ほとんどの曲がシームレスに繋がれているので、この辺りは長いアウトロの後だと曲が変わっていることに気づけなかったりする。
前の曲が「ベッド」や「寝顔」という歌詞があるのもあって、都市の夜明けのイメージの曲に繋がるのが良い。
朝焼けから少しづつ始発の電車や人の動きが見えてくるような音の粒が展開されていく気持ちよさがある。
- Easy Way Out
『JUMP UP』に入ってそうなバラード曲。
サビ終わりに音の層がスッと弾いて、ギターのバッキングだけ残る展開とかでこのアルバムの余白の美学を感じられる。
そしてアウトロの「ピーピピー」という音からまたシームレスに次の曲へ。
- Everybody On News
記事でも書いていたが、イントロのギロの音、メインフレーズのバイオリン、サビで怪しく絡むシタール、間奏でソロを飾るパーカッションなど、多国籍な音が楽しいリズミカルな曲。
今回繰り返し聞くことで今まで気づかず聴こえていなかった面白い音がたくさん隠されていた曲だったので、ぜひじっくり聞いてみてほしい。
フルカワミキの「1234ー!」という合いの手が可愛らしい。
- Karma
キーは違うけれど「Star Fall」の時と同じようなギターのアルペジオから曲が始まる。
私はこういうでしゃばらずに印象を残してくるギターに弱い。
ナカコーがボーカルのメロディーで同じフレーズの繰り返しを多用するようになったからか、それに乗じるようにジュンジの歌詞も少しづつ言い回しを変えて言葉を繰り返すような作詞が増えていっているのがこの曲だと顕著にわかる。
それぞれがライティングをしているのに、曲の抽象度に合わせて歌詞も抽象化されていく相対的な関係が面白い。
- FAIRWAY
このアルバムの"サビ"だ。
ナカコーとフルカワミキが交互にボーカルを入れていく構成は初期の名曲「Lucky」を彷彿とさせる。
余計にその初期から曲も歌詞も洗練されていっているのがわかる。
青臭さは残るものの、「名曲は今も流れてるよ」「名曲が今をなだめてるよ」というサビのフレーズの展開にはシビれる。
- ReSTARTER
ここからアルバムの壮大なエンドロールを駆け抜けていくような展開が広がっていく。
ドライブ感のあるフルカワミキのベースが始終かっこいい曲だ。
この曲もROVOからの影響を強く感じさせられる宇宙感が強い音色がふんだんに盛り込まれている。
- A.O.S.A.
前の曲が大気圏に突入するような疾走感だったが、この曲に入るとそれを突き抜けて無重力空間に放り出されたようなイメージがある。
けれどもこの曲では意外とシンセサイザーは一歩引いた使い方をされていて、中心となるギターサウンドで浮遊感を演出してくる。
やってることはシンプルなのに曲の演出方法が一辺倒になっていないところが凄さかもしれない。
「ストーリー分と、ゆとり分の、よそ見分の、未来と運を」という歌詞で締めるのが無茶苦茶かっこいい。
- New Young City
ストリングスが入って壮大な空気感が漂うバラード。
「FAIRWAY」での前向きさはどこにいったのか思うくらいにくらい歌詞と曲調だ。
コーラスのように入っている「Ah~Ah~Ah~Ah~Ah~」というメロディに「ハハハハハ」という歌詞を当てているのが面白い曲。
ここに言葉ではなくて"空笑い"を入れるのって割と作詞としてなかなか無い発想じゃ無いだろうか。
- Blue Subrhyme
サイケな雰囲気でうねるようなシューゲイズサウンドがかっこいい隠れ名曲。
日本語を歌っているとは思えないホニャホニャとしたボーカルが功を奏して怪しさをこれ以上ないくらいに演出してくれている。
ボーカルいろいろなエフェクトが深くかかっているのも聞き応えがあって楽しい。
そのエフェクトもリバーブから、逆再生のディレイだったり、ファズだったりと展開していくので、曲中での"声の楽器化"が溶け込んでいくような魅力がある。
- I'm Nothing
最後の一曲はシンプルに締めくくる。
このAメロあたりのメロディラインはのちのサカナクションあたりにも影響を与えていそうな印象がある。
前の曲がサイケで怪しい曲調だったこともあり、澄み渡った空気感へと抜けていく気持ちよさがある。
いろいろな仕組みで曲を展開してきながらも、こういった単純なバラードでもしっかり聴かせてくれる。
いや、いいアルバムですね。本当に。
このヘビロテ、本当に苦行をするくらいの気持ちで始めたのだけれども、単純に好きな音楽をもっと好きになるだけだったので、定期的にやりたいと思う。
次はなんのアルバムを一週間聞き続けようか。