漫才

[M-1グランプリ2002]おぎやはぎ-ネタ書き起こし/審査/振り返り-

2023年8月2日

M-1グランプリ2002

7組目

おぎやはぎ

ネタ

小木
「はい、小木です」

矢作
「はい、矢作です」

二人
「おぎやはぎです」

小木
「決まりますね、これ」

矢作
「決まるのよ」

小木
「ちょっと突然なんですけどね」

矢作
「何?」

小木
「俺ね、結婚詐欺師になろうと思ってんのよ」

矢作
「あ、そう」
「まあ俺はお前がやりたいと思っていることは、なるべくやらせてやりてえと思ってるからな」
「でも結婚詐欺師?」

小木
「そこ頼むわ。俺やりたいの、ほんとに!マジでなりたいの!」

矢作
「まあお前にそう頼まれたら俺弱えからなぁ」
「うん、じゃあいっちょやるか」

小木
「いつも悪いな」

矢作
「いいよいいよいいよ!」
「じゃあまずパーティ会場ね。ねるとんパーティーとかに結婚詐欺師はよく現れるのよ。ほら、独身女性が多いでしょ」

小木
「なるほど」

矢作
「じゃあ俺が女やってやっから、引っ掛けるところからやってみ?」

小木
「おっけい」

-二人、パーティ会場で手持ち無沙汰な感じで立つ
-小木が矢作に近づく

小木
「あの〜…貯金額のほう教えてもらいたいんですけど…」

矢作
「まずい、まずいよ」

小木
「まずいって言うけど、俺としては知っておきたいでしょ?」
「お金のない人騙してもしょうがないでしょ」

矢作
「そうそう、そこはお前間違ってないんだよ」
「もうちょっとほら、聞き方考えろってこと」

-小木、無言で納得の表情

矢作
「ごめんね?やり直し」

-小木が矢作に近づく

小木
「あれ?いくらくらい貯金ありましたっけ?」

矢作
「違う違う!それ聞き方の問題じゃねえんだよ」
「『いくらぐらい貯金ありましたっけ?』っつったら俺が『え?500マンですけど』って釣られて言うと思った?」

小木
「うん、思った」

矢作
「あ、思っちゃったんだ」
「じゃあお前、作戦だったのね」

小木
「はい」

矢作
「悪いな、お前の作戦否定しちゃったみたいで」

小木
「良い良い!俺なんか良いよ!」

矢作
「多分間違ってっから」
「あのまずさ、こっちはパーティだから着飾って来てるから。まず褒めよ!」
「女性は褒められて悪い気しないから」

小木
「あ〜聞いたことある」

矢作
「そうだろ?」

小木
「素敵なドレスですね〜」

-矢作、照れる

小木
「そのドレスも、あなたのような美しい方に着てもらえると、さぞかし嬉しいんでしょうね」

矢作
「お上手ですね」

小木
「で貯金額の方は」

矢作
「まだ早い。まだ早いんだよ」

小木
「マジで?」

矢作
「マジだよお前」
「別に褒めたら聞いていいみたいなシステムはねえんだよ」

小木
「ないの?」

矢作
「うん、やめよう。一回お金のことは忘れよう」
「一旦普通の会話をして、仲良くなろう」

小木
「普通って?」

矢作
「だから『お仕事何されているんですか?』とかさ」
「仕事によっては相手がいくら稼いでるかとかもちょっと予想つくしね」

小木
「なるほどね、はいはい…」
「え〜…お仕事は何されているんですか?」

矢作
「私は父親が会社を経営していまして、そこで経理とかを担当してるんです」

小木
「社長令嬢なんですか!」

矢作
「ん、まあそうですね」

小木
「てことは、会社のお金を自由にできると私は認識してよろしいんですね?」

矢作
「まずいな、認識しちゃダメだ」

小木
「でも一応確認はしておきたいでしょ?」

矢作
「うん、だからそこはしめしめと思ってりゃ良いんだよ」

小木
「なるほどね」

矢作
「だから『どおりで品があると』とか」

小木
「あ、どおりで品があると思いましたよ〜」

-矢作、照れる

矢作
「え、ちなみに何されている方なんですか?」

小木
「僕ですか?僕は予備校で、休み時間に黒板を消す仕事をしています」

矢作
「もうちょっと良い仕事しようか」
「休み時間黒板消してても、あんまりこっち(手でお金のジェスチャー)持ってなさそうでしょ?」

小木
「あ、こっち(お金ジェスチャー)ないとダメなの?俺」

矢作
「なきゃダメよ!お前は持ってるって騙すんだから。見え張っちゃって良いから!」

小木
「なるほどね、はいはい」

矢作
「何されてる方なんですか?」

小木
「一応巨人で四番打たせてもらってます」

矢作
「度が過ぎる。度が過ぎるんだよ」

小木
「じゃあ何番だったら」

矢作
「打順の問題じゃねえんだ」
「やめよう、巨人の選手やめよう。選手名鑑とか結構売ってんだよ」

小木
「ああそうなの」

矢作
「社長でいい社長で」

小木
「あ、一応会社を経営しています」

矢作
「え!こんなに若いのに社長さんなんですか?」

小木
「まあそうですね〜」

矢作
「え、かっこいい〜」
「どんなものを扱っている会社なんですか?」

小木
「フード関係を全般に」

矢作
「すると食品関係?」

小木
「いや、こっち(首元に手をやって)のフードです」

矢作
「うそ」
「ここ(首元に手をやって)だけ?」

小木
「はい」

矢作
「儲かんないって。もうパーカーとして売ってるよ」
「アパレルとかでいいでしょ」

小木
「まあアパレル関係ですね。主にパーカーを」

矢作
「もういいじゃんパーカーは」
「まあいいや、アパレルね」
「へ〜!おしゃれ!アパレルの社長さんなんて!」

-小木、照れる

矢作
「え、会社ってどのあたりにあるんですか?」

小木
「新潟の佐渡島で」

矢作
「もうちょっと良いところでやろうか」
「あんまり新潟の佐渡島におしゃれなアパレル会社なさそうでしょ?」

小木
「あ〜なるほどね」
「えーと、新潟市内で」

矢作
「本当にちょっとだけだな」
「新潟離れよう」

小木
「はいはい」

矢作
「東京の青山とかおしゃれそうじゃんか」

小木
「なるほどね!え〜、洋服の青山で働いて」

矢作
「違う違う違う」
「洋服をつけると会社が変わっちゃうんだよ。お前の大好きなパーカーも置いてねえよ」

小木
「あ〜そうかそうか」

矢作
「青山って言い切っちゃっていいの」

小木
「青山でやっております」

矢作
「やっぱりおしゃれなところにあるんですね!」

小木
「そうですね、青山って街は、おしゃれな人以外受け付けない街ですからね〜」
「…では、私はこれで」(お辞儀をして立ち去る)

矢作
「ちょっとなになに?」
「お前今帰ったらただ自慢しにきただけの男だよ」

小木
「うん、てかさ、やっぱ俺には女は騙せねえよ」
「俺、女を騙すくらいだったら、女に騙されたい」

矢作
「小木の好感度も上がったところで、この辺でネタを下げさせていただきます」

審査

会場審査員

立川 談志80点
中田 カウス82点
島田 洋七85点
ラサール石井79点
大竹 まこと79点
松本 人志80点
島田 紳助76点

総得点

561点

振り返り

去年は伝説の「大阪 9点」を叩き出し、最下位になったおぎやはぎだったが、今年は四位に食い込む評価を得た。

確かに去年よりもシュールな空気感だけではない面白さが強くなっている。

前は「うまく歌えない」という空気感で笑わせる前半と「小木が書いてきた変な歌詞」というワードで笑わせる後半の展開で分かれた構成ではあったが、やはりうまくいかないヤキモキ感で笑わせるという地道なアプローチが濃く出ていた。

今回は小木が全ての会話をワンフレーズごとに間違え、その度矢作が軌道修正するという構成なので、相変わらずヤキモキさせるスピード感だが、毎回きちんと振りが効いていて、こまめに笑いが起きるようになっている。

そしてやっぱり小木の奇天烈なボケも無茶苦茶笑ってしまった。

「予備校で休み時間に黒板を消す仕事をしています」

どんなボケだよ。しかもそれに対する矢作のツッコミも「もうちょっと良い仕事しようか」なのでツボってしまった。
確かに良い仕事ではない。というかそんな仕事はない。

その後の会社の場所についてのくだりでは、矢作の「新潟の佐渡島におしゃれなアパレルはなさそう」という失礼な偏見も見ることができた。

おぎやはぎは、小木があまりにも狂人すぎて矢作が常識人に見えるが、よくよく聞いてみれば矢作も大概狂っているのが良い。

あとこの時期から謎の仲良しラリーがある。
親友が食い下がっても結婚詐欺の後押しはするなよ。

後半になったあたりでまた「そういえばなんでこんなに丁寧に結婚詐欺の指導してるんだよ」という面白さがじわじわやってくる。

私は矢作のこの「まずいね」と抑えるようなツッコミが大好きだ。
開口一発目はシンプルな否定型のワードで突っ込むのだけれど、そのワードがどれも柔らかい。

できる限り小木に寄り添いたいとは思っているが、どうにも見過ごせない…みたいな温度感だ。

こんなにボケ側が真剣に狂っていて、こんなにツッコミが寄り添って進行していく漫才はおぎやはぎだけかもしれない。

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