漫画

週刊連載で仕掛ける壮大な舞台装置 -『アンデッドアンラック』作:戸塚慶文 について-

2023年2月16日

現在週刊少年ジャンプで連載中の作品『アンデッドアンラック』がいま最高に面白い。

この漫画は2020年8号から連載を開始し、同年の「次にくるマンガ大賞2020」にて一位に選ばれ、注目を浴びたりしている。

現在単行本が15巻まで出ているが、物語が大きく動き、週刊連載でも大盛り上がりだ。

ジャンプでの連載といえば、読者アンケートの人気に影響を受ける掲載順や、打ち切り作品が急ハンドルで終了する事など、生き残りがシビアなイメージがある。
連載開始時に賞で注目を浴びたとしても、そんな中でも2~3年も連載が続くというのはやはりすごいことだ。

そして本作の何がすごいかというと、この既刊15巻まででラスボス戦まで駆け抜け、現在物語の最初まで時系列がループし始めたのだ。

意味がよくわからないかもしれないが、本作はループものだ。
そして主人公が観測するループ一周分を15巻を使って描かれ、現在やっと二周目に入ったのだ。

ループものでこんなに1周目に時間を使う???

私は衝撃だった。
ループものといえば、二周目以降が本番で、そこから何度もループを繰り返す中で少しずつ攻略していくという、メンタルの耐久レースのようなシナリオがメジャーだと思っていたので、15巻分も物語を描いてから主人公が二周目に入るなんてことがあるとは思っていなかった。

そして現在、主人公は一周目で見てきたものを全て救おうと動いている。
敗れた味方、敵対した相手をも救い、手を焼いた敵に最善の手を尽くし、強いアイテムを集めまくる。
ゲームでいう"強くてニューゲーム"を使って、RTA(ゲームの最速クリアを目指す競技)のような立ち回りで二周目の世界で大活躍中だ。

これまであった登場人物たちの辛い過去や、様々な事情によって起きた裏切りや敵対、それを全て回収していくループを切り開いている。

この興奮を今からでも追いかけて欲しくてたまらないので、今回は本作を紹介していく。
最後の見出しまで物語のネタバレを極力避けて書くので、未読の人はこの記事をきっかけに本作に手を伸ばしていただけると嬉しい。

あらすじ

死を覚悟した風子の前に現れたのは、不死の体を持つ謎の男。

触れた者に不運を呼ぶ風子の力によって死ぬため、風子と行動を共にすることを決めたアンデッドのアンディ

だが、二人にある組織からの追手が迫って—!?

https://shonenjumpplus.com/episode/13933686331707131076

主人公の風子は、自分の大切なひとが皆不運な事故で亡くなってしまうという特殊な体質の持ち主だった。

その力を呪い、自殺をしようとしていたところに現れたのは、不死の男。通称アンディ。

この世界には"否定者"と呼ばれる、この世の理を否定する能力者がいて、風子は"不運"を持つ否定者、アンディは"不死"をもつ否定者だった。

死にたくても死ねないアンディは、風子の不運の能力でなら"最高の死"を得られると予感し、行動を共にする。

そんな中で登場する組織ユニオン。その組織は否定能力者集団で、この世の理を改竄するUMAと戦い、世界の滅亡を防ごうとするものだった。

人を不幸にする自身の"不運"で人を救えることに希望を見出した風子は、アンディとともにユニオンでの任務をこなしていくが…

すゝめ

少年漫画といえば能力バトル!と言っていいくらい、確立されたジャンルだと言えるだろう。

そんな中で本作は、「否定者」という能力が登場する。
それぞれが「不死」「不運」「不可侵」「不治」「不変」など、何かしらの世界のルールを否定する能力を持っている設定だ。

もちろん「不死」であれば、自身の死を否定するので、何が起きようと再生してしまう。
「不治」による攻撃は能力を解除するまで治すことができない。
「不可侵」による防御は絶対に本体に届くことがない。

こんな具合に、能力者全員が非常にピーキーな能力を持っているのが面白い。

そして能力発動時には、バカデカいフォントで能力名が出るのも無茶苦茶かっこいい。

画面にドカーンと

UNBREAKABLE -不壊-

とか出る。

ハンターハンターの念能力のような、ルビをふった能力名もかっこいいのだけど、こういった能力名が能力そのものである潔さは中々久しい気がする。
この無骨さがたまんなくカッコいい。

そしてこの否定者たちが戦うのは、この世の理から生まれたUMAと呼ばれる怪物たち。
物を燃やす「バーン」、物を腐らせる「スポイル」といったものから、秋を司る「オータム」など様々な概念が敵として登場する。
この敵たちを討伐しながら報酬を得ることで、終末に待ち受ける"神"との対決まで地球を守り、そして世界を終わらせようとしている"神"を倒せるのか…?

こんな具合で話が進んでいくのだが、この作品のいいところは何より主人公の風子の存在だ。

風子は「不運」の能力(他対象強制発動)を持っている。
それぞれの能力にも発動条件が設定されているが、「不運」の場合は「身体に直接触れた相手」に発動する。
そしてその相手への好感度が高ければ高いほど、密着時間に比例するように大きな不運が訪れる。
これによって風子は自分を抱きしめてくれた家族を失ってしまっている。

そんな中、風子に触れられ、どんな不運が降りてこようとも絶対に死なないアンディが相棒になる。
次第に信頼関係も築き上げられることで好感度も上がり、より強力な不運を背負ったアンディを敵に特攻させることが出来る。

神との戦いを終わらせることで、否定者たちから能力を無くし、普通の人間になるために戦う風子。
そしてアンディも同じく、最高の死を求めて風子のために戦い続ける。

つまり風子は自身の身体ではあまり戦うことが出来ない。
風子はいつもアンディに引っ付いて、守ってもらいながら不運能力をアンディを介して敵にぶつける。

彼女は対立した能力者や、倒すべきUMAに対しても理解をしようと努める優しい性格だ。
相手を理解し、なぜ戦わないといけないのか?という疑問を持ちながら戦ってきた。
そしてそれを割り切るように諌める不死のアンディ。(なんせ彼は長生きのしすぎて達観している)

しかし、その敵味方の境のない"愛情"が二周目のループでの風子の「敵対した能力者も全員救って全員仲間にして全員で神を倒す!」という100%クリアRTAへと繋がっていく。

それぞれの否定者たちの辛い過去や対立の事情、それらが立て続けに降り注ぐ、辛い戦いが続いたからこそ、現在突入した二周目の話が面白くてたまらない。

15巻かけて描かれた能力者を全員仲間にして、ここまで戦ったUMAを倒し、ラスボス戦まで再び駆け上る!

今からでも間に合うので、ぜひ単行本で既刊を読み倒し、ジャンプを追って欲しいと思う。

レビュー【ネタバレあり】

ここからは具体的なシーンなどに触れていきます。
作品をまだ見ていない方にはおすすめしません。

本作を読んだ時、アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』を思い出した。

あれの終盤で「この物語、主人公ほむらだったんだ」と気付かされるようなあの感覚だ。

同じように本作のループが明かされた時に「これ主人公ジュイスだったんだ」となった。
全てを終わらせるために、ただ一人繰り返し戦い続けていた。

そして同時にビリーもこの物語の主人公のような立ち回りだ。
全てを終わらせるために、ただ一人で皆の能力を引き受けて戦おうとしていた。

しかし、この一周目でアンディに引っ付いて、泣いて喚いて、成長しながらも"優しさ"がずっと中心にあった風子が、二周目で逞しくなっているのに無茶苦茶感動してしまう。

単独では戦えなかった風子が戦えるようになる設定のさせ方もアツい。

そして二周目でアンディとすぐに会わずに、最適なロードマップに従ってRTAを始める逞しさも涙ぐましい。

どの能力者も、最悪のタイミングで最悪の能力として目覚めるという設定も中々珍しいのではないだろうか。
強い能力者も、その能力を皆呪って戦っている。
だからこそ、風子はそれを汲んで、皆を愛することができた。

これまで敵にさえも慈愛の心を持っていた風子だからこそ、この二周目での対否定者対決でも戦っていけるのだ。

一人で戦えるようになった風子のバトルも、なんだか"逆ラッキーマン"みたいで面白い。

不運を巻き起こす能力を使いこなして、ここからどうやって大団円を迎えるのか、非常に楽しみだ。

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