M-1グランプリ2001
最終決戦1組目
中川家
ネタ
剛
「こうやって生きてたらね、イライラすること多いんですよ」
礼二
「確かに多いですね」
剛
「ちょっとしたことでね。この間のもそうですよ」
礼二
「なに」
剛
「夜中コンビニ行ったら、店員の態度!」
「お釣りを置くときのあの態度、怒ってまうでホンマ」
礼二
「ああ、確かにな」
剛
「ピシャン!って」
(机に小銭を叩きつける)
礼二
「ピシャン?」
剛
「ほんで腹立つから俺も…」
「あ、ちゃうわ…」(バツが悪そうに俯く)
礼二
「何をいうてんの?お前落ち着いて喋ったらええねん」
剛
「ちゃう、これちゃうわ、これ友達の話や」
礼二
「なんで関係あらへんやつ?なんでそんな話しとんねん」
剛
「あーあー!歯医者行った時!」
礼二
「歯医者行った時ね」
剛
「歯医者行った時、痛かったら手ぇあげてくれ言いよんねん」
礼二
「ああ、言いますね」
剛
「手ぇあげたらあげたで訳分からんこと言いよんねん」
礼二
「何?わけわからんこと」
剛
「こう、治療してるやろ?」
-剛、礼二の口に向けて機材を入れるような仕草
-それに応じて礼二も歯医者の患者を演じる
剛
「ウィーーーン!」
礼二
「あ、はいはいはい(手をあげる)」
剛
「あ、分かってます(礼二の手を押さえて下そうとする)」
二人
「分かってますて」
剛
「なんやねんあれ」
礼二
「そんなんええねん別に」
剛
「最初な、水のうがいも俺分かれへんかってん。説明受けてないから」
礼二
「何がやねん」
剛
「あれ水飲むやろ?なあ」
礼二
「うん」
剛
「そんで置いたらまた水出てくんねん」
「早よ飲まなと思ってまた…また早よ飲まな…」(コップの水を飲み続ける)
礼二
「何しに行ってんねんそれ」
「歯医者に水飲みに行ってんちゃうねん」
剛
「でもホンマ腹立つこと多いよ」
礼二
「そんな腹立ってる場合ちゃうよ」
「でもこの前ね、この時期なんかそうやな。忘年会とか行ったりしたら、すぐ次行かれへんがな」
「帰ろう思ってもいかれへん。そういうのがイライラしてまうねんな」
剛
「多いね」
礼二
「でも断り方とかようやってるやん。大人のおっさんらが」
剛
「おっさんが?」
礼二
「ようやってるやん」
「『今日なんやねんな、もう一軒行こうや』とか言うたら『今日ちょっとすみません、これが(小指を立てる)』とか」
剛
「うん」
礼二
「これのこれがこれで」(小指、妊婦、鬼のジェスチャー)
剛
「なんやそれ」
礼二
「わかる?」
剛
「なんそれ?」
礼二
「『なんやそれ』やないぞ。おっさんかお前は」
「これよ」(小指を立てる)
剛
「奥さんが?」
礼二
「そうそう」
(妊婦のジェスチャー)
剛
「太ってて」
礼二
(鬼のジェスチャー)
剛
「2階で寝てます」
礼二
「かまへんやないか別に」
剛
「ちゃうの?」
礼二
「俺太ってるけどマンションの11階住んどるわアホ」
剛
「俺も誘われる機会多いねん」
礼二
「まあ確かに僕らの世界でも多いですよね」
剛
「でも『これが(小指を立てる)』の"これ"がおらんから出来ひんやん」
礼二
「まあ確かに。それはなんか理由作るしかない」
剛
「理由はあんねんで。帰らなあかん理由は」
礼二
「なんやねん、言うてみいな」
剛
「家で猫飼うてんのよ」
礼二
「猫飼うてんの?ほうほう」
剛
「猫に毎晩6時に餌やらなあかんねん」
「帰りますわって言われへんから、今度から身振り手振りでそれやって帰るようにしたらしたらええねん」
礼二
「なるほどな。ほないっぺん僕が先輩として誘いますわ」
剛
「誘ってみて」
礼二
(酔った先輩を演じて)「おい!ちょっともう一軒行こうや!」
剛
「行きましょか!」
礼二
「断らんかアホ」
「『行きましょうか!』機嫌良う言うてる場合ちゃうねん」
剛
「行きましょうか言うて断わんのやないか」
礼二
「あ、断わんのかい」
剛
(断る後輩役に戻る)「いや今日ちょっとやっぱり無理ですわ」
礼二
「ええやん行こうや!」
剛
「ちょっと家で用事あるんですよ」
礼二
「なんやええやん行こうや」
剛
「うちのこれがね、これのこれなもんね」
(猫耳、猫ひげ、爪研ぎのジェスチャー)
礼二
「訳わからんわ!」
剛
「これやったら帰れるやろ?」
礼二
「帰れるかアホ!そんなもん」
剛
「帰られへんの?」
礼二
「おもろいからもうちょい居れ言われるわそんなもん」
剛
「あ、そうか」
礼二
「そうやがなホンマに」
「でも僕らの世界も付き合いが大変なんですよね」
「あともう一個大変やっていったら時間ルーズになったらあかんのですわ」
剛
「遅刻」
礼二
「遅刻はあかんのですけどね」
剛
「"とちる"」
礼二
「とちるとも言いますけどね」
剛
「これでえらい目あいましたね」
礼二
「僕もこれやってしまいましてね」
剛
「やったん?」
礼二
「東京に仕事がありまして、一人の仕事なんですよ」
「前の晩が遅かったんです」
剛
「遅かって」
礼二
「こう寝てて、ぱっと起きたんです」
剛
「野球終わってるやん」
礼二
「そんな問題ちゃうねん」
「ぱっと起きたら朝の10時ですわ」
剛
「うん」
礼二
「そんとき10時半のぞみ24号乗って東京いかなあかんかった」
剛
「あかんがな!」
礼二
「30分しかない」
剛
「プルルルルルルル!(電車のドアが閉まる警告音)」
礼二
「早い早い、まだ出てないねん」
「起きてこれはあかんわと思ってとりあえず歯磨いて」
剛
「歯磨く!」
-二人で歯を磨く仕草
剛
「(歯磨きでえずく)ヴォオエ」
礼二
「何してんのお前」
「顔も洗わなあかん!」
-二人で顔を洗う仕草
剛
「今日のバイトしんどかったね」
礼二
「どこの誰やねんお前は!」
「バイトもクソもあれへんねん」
「とりあえず戸締りもせなあかんと思って」
剛
「戸締り!」
礼二
「ガス切ってね」(元栓を閉める仕草)
剛
「つけて」(元栓を開ける)
礼二
「テレビ切ってね」(リモコンで消す仕草)
剛
「つけて」(リモコンでつける)
礼二
「電気切ってね」
剛
「ああ〜やっぱ家がええ」
礼二
「今から出ていかなあかんねんアホ」
「俺はこっから出なあかんねん」
剛
「ドア!」(礼二の前の玄関を開ける仕草)
礼二
「だからなんでおんねんお前は!」
「こっから入ってくんなってこっから」
(二人の間に足で線を引く)
「ブワー出ていって、エレベーターのとこまで走っていくねん」
剛
「エレベーター誰か乗ってるやろ」
「チーン(到着音)」
「(顔を上げて礼二との距離に驚く)わ、びっくりした」
礼二
「ええねんそんなん!違う違う!」
「エレベーター故障中やったの!ほんで非常階段ばーっと降りて」
剛
「非常階段」(膝に手をついて疲れてる仕草)
礼二
「なんで非常階段が疲れてんねん」
「非常階段はこういうマークや」
-二人で揃って非常口マークの走っているピクトグラムのマークを真似る
剛
「ああそうか」
礼二
「もうええがな」
「ブワー降りて、急いでるからもうマンションの前ですわ、右も左もみんと前飛び出したらトラックがグワー!っときて!」
剛
(トラック役を演じて)「ブ〜〜ン、キィ〜〜〜!」
礼二
「うわー!」
剛
「(窓を開けて)どこ見て遅刻してんねん」
礼二
「なんで知ってんねん!知ってる訳ないやろ」
剛
「荷台乗れへん?」
礼二
「なんで荷台乗らなあかんねん。引越しの手伝いかと思うわ」
剛
「送ったろか?」
礼二
「『送ったろか?』ちゃうねん」
「お前はどけ!」(剛をどかす)
「タクシー!タクシー!」
「ほんでバン!(ドアを閉める)って乗って」
剛
「バン!」(礼二の後ろでタクシーのドアを閉める)
礼二
「なんでお前も乗ってくんねんだから」
-剛、トランクを開ける仕草
礼二
「なんでトランク開けてんねん」
剛
「ああ、LPガス」
礼二
「LPガス?そんなとこ見るかアホ」
「とりあえず『急いでください運転手さん』言うてね」
剛
「言うて」
礼二
「ほんなら運転手もいらんこと言いよるんんですわ」
「『この車も羽ついてたらいいんですけど』やかましいわこっちはどんだけ急いでると思ってんねん」
剛
「ウィーーーン…ばさ…」(翼が生えてきて飛び始める仕草)
礼二
「ついてるかアホ!」
「ついてへんついてへん!黙って見とけ!」
「何度か裏道を通ってもらってね」
剛
「プルルルルルルル!(電車のドアが閉まる警告音)」
礼二
「早いねんて」
「で、新大阪ついて、パッと時計見たんですわ」
剛
「今日木曜日や」
礼二
「そんなとこ見ぃひんがな」
「10時27分!3分前ですわ!」
「これはあかん!急がなと思って走ってホーム駆け上がったら、ちょうど新幹線来たところですわ」
-剛、鼻の前を手で押さえて新幹線の顔の真似をしながら礼二の前を走り抜ける
礼二
「新幹線の真似はせんでええねん!」
「なんとか乗って、こう座ったんです」
-二人が座席に座る仕草
-二人が肘掛けの位置で肘を小突き合う
礼二
「肘掛けの取り合いなんかせえへんわそんなもん」
剛
「そんなんなかった?」
礼二
「どうでもええねん」
剛
「すみません、サンドイッチください」
「700円です」
「ハァ〜〜?!」
礼二
「どうでもええがな!」
「高いけど買うわ!まずいけどあれホンマに」
「ほんで食って寝て、パッと起きたんや」
剛
「野球終わってるやん」
礼二
「元戻っとるやん」
「やめさしてもらうわ」
振り返り
他の組のネタを色々と見た後に再び中川家のネタを見ると、やはりそのパフォーマンスの安定感にビビらされる。
ネタはもちろん無茶苦茶面白いし、この必要のないやり取りの多さがアドリブ感になっているのだろうか?
序盤であった「あ、ちゃうわこれ友だちの話や」と言うくだりは一体なんなんだ。
今時の漫才とかだと、後々その友達が回収されて「お前それさっきの小銭の話してた友達やんけ!」と伏線的な活躍をしそうな台詞に聞こえる。
しかし中川家は、「あ、この話ちゃうかったわ」と中断する、”関西人あるある”の一つとしてこの意味のないやり取りを取り入れているように感じる。
歯磨きでえずく、しんどいバイトの後の雰囲気、新幹線の売店が高い…などのあるあると並列して「関係ない友達の話をして中断する」があるような感じだろうか。
ツッコミが進行する話を、ボケが横から改変したり付け足したりすることで笑いを作る、と言う構造自体は多くの漫才で見る。
けれども中川家の場合は、ボケの介入が「面白おかしく改変する」ではなく「無駄に共感できるディティールをあるあるとして差し込む」という役割を果たすので、その介入が”面白い/面白くない”のジャッジではなく、"わかる!/あるある!"というリアクションを誘っている。
このあたりが中川家のネタが「老若男女の誰もが笑える漫才」たる所以なのかもしれない。
次は最後にまくったハリガネロックのネタ。
最終的に中川家が優勝することは知っているが、どういうネタで競り合ったのか楽しみだ。