木工芸を学んでいた高校時代、身体に触れる道具はいい物を使うべきだと先生からよく言われた。
毎日座る椅子、握り心地のいい筆記具、足にぴったりの靴、寝方にあった枕。
そんな具合に、いつも触れるものは身体や好みに合わせた方がいい。
何を持って"いい"とするかはそれぞれかもしれないが、自身がそれに納得していることが大事だ。
ジャイロツェペリもそう言っていた。
そんな中で今回紹介したいのはPC用のキーボードだ。
仕事をしていた時や、このブログを書く時、くだらない物事の検索も全てこのキーボードで入力してきた。
今はもうペンを握ることよりもキーボードを叩いている時間の方が圧倒的に長い。
対談記事のメモや、作家からの作品解説を聞くときも、ノートとペンを持っているよりも、膝の上にキーボードを置いていた方がメモが取れる。
そんな信頼と愛着のキーボード。HHKBを紹介したい。
HHKBとは?
HHKB、正式名称「Happy Hacking Keyboard」
PFU株式会社という、元 富士通の子会社が出しているハイエンドキーボードのことだ。
「理想のキーボード」というものを追求して作られた商品で、非常にフォロワーも多い商品になる。
必要最低限かつ、快適な使い心地を突き詰めたプロダクトはいつだって魅力的だ。
特に痺れるのはこの商品コンセプトをまとめたテキストだ。
アメリカ西部のカウボーイたちは、馬が死ぬと馬はそこに残していくが、どんなに砂漠を歩こうとも、鞍は自分で担いで往く。
馬は消耗品であり、鞍は自分の体に馴染んだインタフェースだからだ。
いまやパソコンは消耗品であり、キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースであることを忘れてはいけない。東京大学 名誉教授 和田英一
https://happyhackingkb.com/jp/
僕ら、カウボーイと同じらしいですよ。
無茶苦茶嬉しいじゃないか。
現代社会において身体に馴染むキーボードを選び使い続けることは、鞍を使い継ぐカウボーイやキャラバンと等しいのだ。
なんて粋なコンセプトだろうか。
これを読んでしまうと、お気に入りの道具を使い続けるという格別変わったことでもない行為も、めっぽう格好良く思えてくる。
そんなロマンに応えるようにHHKBのキーボードは、打ち心地、打ちやすさ、順応性の高さ、プロダクトとしての堅実さを持ち合わせている。
その「理想のキーボード」と豪語する商品がどんなものなのか、詳細を紹介していこう。
HHKBの特徴
静電容量無接点スイッチによる軽いタッチ
訳のわからない呪文のようだが、要は寿命が長く壊れづらい構造で、それによるスコスコ/フニフニとした軽い打鍵感があると思ってもらえば大丈夫だ。
通常ならばざっくりとキーボードはキャップの内部にはキースイッチというものがあり、それが押し込まれることで電極が反応し、タイプされる。
しかしこのHHKBで採用されているのは電極同士が直接触れ合わずに反応するシステムのため、摩耗による劣化が従来のものより圧倒的に少ないのだ。
そして大きいのがキーを底まで押し込まなくても入力が反応するので、軽いタッチでタイピングができるのだ。
例えば、MacBookなどについている薄型のキーボードを使っている人で、タイピングに結構疲れてしまうという人はいないだろうか。
私はまさにこの"指で板を叩き続けるような打鍵感"に疲労感を感じてしまったタイプだ。
深めのストロークのキーボードだが、底まで押し込む必要のないHHKBは、軽いタッチ感と同時にキーの跳ね返りを感じることができて非常に打ちやすく感じる。
反応速度やタッチの軽さを特化したキーボードは他にもあるかもしれないが、この打ちやすさは意外と他に見ない。
この静電容量無接点スイッチのキーボードはコストがかかるため安価なキーボードにはあまり搭載されないが、なんとセブンイレブンのATMのテンキーは静電容量無接点のキースイッチである。
なんでなんだセブンイレブン。
「セブンイレブンのATMのテンキーってなんか押し心地いいよな」
そう思ったことがある人がどれくらいいるかは分からないが、もしあなたがその中に含まれるのであれば、HHKBは特におすすめだ。
この打鍵感にハマると抜け出せない!
とろけるような打ち心地でHHKB中毒に!
…だなんて持ち上げるレビューがネットには溢れているが、それほど期待するような魔法のようなキーボードではないことをはっきり書いておこう。
私もこのキーボードの打鍵感は好きだが、惹かれている魅力は打鍵感だけではなく、キー配列や本体サイズ、見た目なども大いにある。
結局キーボードの打鍵感は人によって好みもあると思うので、"刺さる人には刺さる"という具合だろうか。
しかしながら、この打ちやすさはその辺の適当なキーボードなんかよりも圧倒的に快適であることは間違い無いだろう。
ショートカットに配慮したキー配列
HHKBは、日本語配列と英字配列があり、親しんでいる方を選ぶことができる。
(私は英字配列のキーボードの方が慣れていたため、そちらを使っている)
しかしHHKBのキー配列は日本語、英字という分類だけではなく、独自の配列が見られる。
一番わかりやすいのはコントロールキーの位置だ。
このAの横にコントロールキーがあるのがミソだ。
母音の「A」を打つつもりがタイプミスでCapsキーを押してしまい、大文字のアルファベットが打ち出されたことはないだろうか。
まじで腹立つよね。
なんで「A」の隣にお前がいるんだよ、と思う。
HHKBはここにコントロールキーがあるため、誤ってCapsキーを押すことがない上に、ショートカット入力が非常にしやすい。
私は文章をPCで書くときに、よく使うコントロールキーのショートカットがあるのでこれは大変嬉しい。
文の先頭にカーソルを移動する「Ctrl+A」
文末にカーソルを移動する「Ctrl+E」
カーソルの左側の文字を消す「Ctrl+H」
カーソルの右側の文字を消す「Ctrl+D」
カーソルを一文字分右に移動する「Ctrl+F」
カーソルを一文字分左に戻す「Ctrl+B」
このあたりのショートカットがAのキーの横にあることで、小指を使ってパッと使える。
普段あまりコントロールキーを使わない人も、このショートカットを使うようになると無茶苦茶快適なのでぜひ使ってみてほしい。
案外バックスペースキーやカーソルキーってホームポジションから遠いところにあるんだなと感じると思う。
独自の配置と言われると構えてしまうかもしれないが、文字を打つ際のキー配列は他のものとなんら変わらない。
記号やショートカット、ファンクションキーなどの使い勝手がほんの一部違うだけなので、「慣れるのに時間がかかる」というには大袈裟なくらいだろう。
キーの傾斜と本体の角度調整
HHKBのキーボードは、キーキャップに傾斜がかかっている。
通常のキーボードは真横から見ても真っ平だろうが、HHKBは指の配置に合わせて上部は傾斜が急に、下部は傾斜が緩やかに球を描くような設計になっている。
これのおかげで、キーボードのホームポジションからほとんど手の位置を動かさずにタイピングしやすくなっているのだ。
細かいとことだと、キーの一つ一つも平らではなく、軽く指がフィットするような柔らかい凹みがある。
この辺りがキーボードに手を置いたときの"収まりの良さ"のような感覚をくれる。
また、これはどのキーボードもほとんど備え付けている機能ではあるが、本体裏についている折りたたみの足を広げることで、好みの傾斜で使用することもできる。
キーストロークが深いキーボードを使い慣れていない時は、平たいキーボードより手首が持ち上がることに疲れを感じるかもしれないが、そのあたりはこの本体の脚の調整と、キーキャップの傾斜がそれを助けてくれる。
これらで調整しても気になる場合は、他のキーボード同様パームレストを使えばさらに快適に使えるだろう。
サイズ感と見た目が最高
これは完全に好みの話だが、デスク上をライトグレーのトーンで統一したい欲望がある私にとってはこれは最高だ。
PCのキーボードは大体真っ黒のものが多い。
キーボードに限らず、PC周辺機器はなぜかほとんど黒い。
みんなそんなに真っ黒で揃えたいですか…?
真っ黒だけでもかっこ良くないし、何よりつまんなくないですか。
ほとんど白とかグレーの展開がないことに対するぼやきだが、切実な願いでもある。
そんな中でHHKBはむちゃくちゃ可愛い。
このレトロで事務感あふれる見た目がすごくいい。
私にとってキーボードは良い意味で「文字を早く入力できる道具」でしかないので、七色に光る必要もない。
机に置きっぱなしでも邪魔にならず、見た目がよく、当然使いやすい。それに応えてくれるのが嬉しいのだ。
HHKBのシリーズ展開
HHKBの素敵なところをあげていったが、評判と値段に対して見た目と特徴が地味に感じるかもしれない。
ただ、キーボードに本当に必要な要素だけを残して、ひたすらに使い心地とシンプルさに投資をしているキーボードは他に類を見ない。
しかしそんなHHKBも尖ったシリーズラインナップがある。
まずは今回私が紹介している、一番シンプルなモデル。
- HHKB Professional Classic
これは有線接続で、デスクトップやデスクに据え置きで使う際にぴったりなモデルだ。
バッテリーなどは内蔵していないので、本当に置きっぱなしにしておく際にお勧め。
- HHKB Professional HYBRID Type-S
これは乾電池を使うことで、有線でも無線でも使用が可能なモデルだ。
気軽に外に持ち出したり、無線でPCだけじゃなくタブレット端末やスマホに繋ぐこともできるのが便利だ。
今時なぜバッテリーじゃなくて乾電池なのか?と思うかもしれないが、バッテリーには寿命があるため、より長く確実に本体を使うために乾電池を採用したようだ。
このモデルはClassicよりもさらにキータッチが柔らかく、静音性が高い。まさに最高レベルのモデルと言えるだろう。
実はこのモデルも私は使っているので、それもまたいつか紹介したいと思う。
そして、これはどのシリーズにもあくまでカラバリとしてあるのだが、なんと無刻印モデルというものがある。
- HHKB 無刻印モデル
文字通り、キーキャップにアルファベットや数字、記号などの一切の刻印がない。
完全にキーボードの配置を記憶している人だけが、見た目のかっこよさのためだけに使うモデルだ。
急に尖るなよ。
絶対不便だ。
あれだけ快適な使い心地を追求してきていたのに、むちゃくちゃ不便なキーボードを出している。
文字のタイピングなどは慣れたら問題ないかもしれないが、数字や記号、ショートカットの際の入力はまごつきそうで仕方ない。
けれどかっこいいから良い。
そういうブランドなのだ。
一応HHKBはこの無刻印以外にも、カラバリは3色展開している。
私が紹介したものは「白」という分類になるが、実際はライトグレーだ。
他に「雪」というカラーがあるが、そちらは見事に真っ白。キー刻印のデザインが少しミニマルなものに更新されている。
そして「墨」というカラー。これはほぼ黒色の、深いグレーだ。刻印も黒なので、少し見づらいかもしれないが、黒が好きな人はこれ一択だろう。
まとめ
高価なキーボードなので、馬鹿馬鹿しく思う人もいるかもしれないが、割と快適なキーボード探しは沼だ。
キーボードはデスクの顔という話を聞いたことがあるが、私も同感だ。
私は自分の自転車をカスタムする際に、自転車の顔であるサドル選びに結構時間をかけた。
それと同様に、デスクで一番存在感を放ち、かつ一番触る道具。それがキーボードだ。
仕事道具や制作活動の相棒ともなるキーボードやマウスには、気に入っているものを使うのが一番いい。
ぜひこれを機会にキーボードやマウスを気に入ったものに新調してみるのはいかがだろうか。
それでは。