漫才

[M-1グランプリ2001]麒麟 -ネタ書き起こし/審査/振り返り-

2023年1月9日

M-1グランプリ2001

7組目

麒麟

ネタ

田村
「はいよろしくお願いします麒麟です」

川島
「(低い声で)麒麟です」
「ぼくが川島明と言います。よろしくお願いします」
「そして隣で玄米みたいな顔をしているのが田村裕くんです」

-川島、田村の顔を両手で縁取る

田村
「誰が玄米やねん」

川島
「チャーリーブラウン引っ張って伸ばしたような顔」

田村
「どんな顔やねん俺、力強く引っ張りすぎやわ」

川島
「まあそんな二人を合わせて麒麟と言います。よろしくお願いします〜」
「ピースピース!」(三本指を立てる)

田村
「ピース1本多い!」

川島
「いやでも早いものでね、もう一年が終わろうとしていますよ」

田村
「時間が経つのは早くてあっという間でなんか寂しいですね…」

川島
「ほんまですねぇ〜」(ゆらゆらと踊りながら)

田村
「なんやその動き!」

川島
「まあ寂しいですよね。ぼくはこの季節いっつも思うんです」

田村
「まあでもこの季節は景色が綺麗ですからね!」

川島
「確かに景色綺麗やね」
「こう、ひらひらと舞い落ちる雪とね」

田村
「ああ綺麗やね」

川島
「イリュージョンに彩られた街とかね」

田村
「ロマンチックやね」

川島
「ヤンキーの夫婦はペアルックとかね」

田村
「それ関係ないやろ!」

川島
「あちゃ〜」
「まあでも寂しいもんですね、恋人同士で出かけたらそういう景色も綺麗やなと僕は思うんですけどね」

田村
「いやそんなことないですよ、一人でも十分綺麗ですよ」

川島
「二人の方がそりゃいいでしょう」

田村
「いやいや一人でも十分楽しめますよ。こんなふうに」

-田村、センターマイクから離れ一人芝居を始める

田村
「冬の星空が綺麗だね…」(両手を広げる)
「でも、僕の方が綺麗だよ」

川島
「どうしたん?」

田村
「お台場のクリスマスツリーがとってもロマンチックだ」(逆側を見て両手を広げる)
「僕、三度の飯よりロマンチックが大好きです」

川島
「どうしたん?」

田村
「あれ?雪が降ってきたよ」(正面を向いて両手を広げる)
「サンタクロースからの贈り物だね!」
「ばんざーい!ばんざーい!よっしゃ〜!」

-田村、足踏みをしながら舞台を駆け回る

田村
「恋人はサンタクロース♪」
「背の高いサンタクロース♪」

川島
「(田村の足元を指差し)落ちるで」

田村
「つむじ風追い越し〜♪」
「よーし!一人で雪合戦するぞ〜!」

-田村、一人で雪を投げたり受けたりしてはしゃぐ

田村
「ってね、一人でも楽しめますよ」

川島
「ていうかお前の顔、サンマの苦いところそっくりやな」

田村
「どこ見てんねん!」
「人が似る部分ちゃうやろあれ!」

川島
「コスプレしてんのか?」

田村
「するか!そんなんするわけないやろ」

川島
「まあだから、一人で出かけたらそういう風になるからね」
「恋人いいひん人は部屋に閉じこもっておくべきですよ」

田村
「部屋閉じこもんのも嫌やろ」

川島
「本とか読んどいたらいいじゃないですか」

田村
「暗いやんかそれも」

川島
「しゃあない、一人やからね」
「だから本とか小説とか読んだら意外と面白くて結構夢中になったりするもんですよ」

田村
「確かにね、小説とか面白いですけどね」

川島
「そうでしょ?だから漫才にもね、小説の要素を取り入れたらもっと漫才わかりやすくなると思うんです」

田村
「漫才がわかりやすくなる?」
「それじゃあちょっとやってみましょうか?」

-二人が俯きセンターマイクに向かって改める

田村
「麒麟といいますよろしくお願いします」

川島
「僕は川島明といいます。よろしくお願いします」(左手を上に挙げる)
「(ナレーション風に)私は、自己紹介をした。すると、客席から大歓声が起こる」

田村
「いや起きてないよ」

川島
「(ナレーション)そして右から左、左から右へウェーブが起こる」

田村
「いやしてないやん」(客席を指差す)

川島
「(ナレーション)そして沸き起こる、ターカーシ!ターカーシ!」
「(ナレーション)タカシコール」

田村
「誰もいうてないやんけ!」
「いやアキラやないかお前!間違えられてるやんけ!」

川島
「ほんでね、隣で玄米みたいな顔しているのが田村裕くんなんです」

田村
「誰が玄米やねん」

-川島が両手で田村の顔を縁取る

川島
「(ナレーション)私は田村の頭をおもむろにつかみ、まだ籾を取り除いただけの精米していない米に」(早口)

田村
「(川島の手をほどきながら)長いわ!説明が長い!」

川島
「そうですか?」

田村
「まあまあ、田村裕です。よろしくお願いします」

川島
「そんな二人合わせて麒麟と申します。よろしくお願いします」
「ピースピース!」(三本指を立てて)

田村
「ピース一本多いよ!」

川島
「(ナレーション)ちなみにこの三本の指は愛しさと切なさと心強さを」

田村
「ダサいな!」
「しっかり意味はあるけどちょっとダサいな」

川島
「まあ頑張っていきましょうよ」

田村
「頑張りましょうよ」

川島
「でも早いものでね、もう一年が終わろうとしてますね」

田村
「ああ、そうですね。時間が経つのはあっという間でなんか寂しいですね」

川島
「(ナレーション)そういうと彼はとても寂しそうな顔を浮かべた。僕はそんな彼を抱きしめようと思った」
「(ナレーション)でもちょっぴり勇気が出なくて…誤魔化した」
「ホンマですね!」(ゆらゆらと踊りながら)

田村
「それその動きやったん?」(踊りを真似して)
「それやったんかいなお前、全然誤魔化せてないよそれ」

川島
「まあ寂しいじゃないですか。いつも寂しく思ってしまうんですよね」

田村
「でもこの季節はね、景色が綺麗ですよ」

川島
「景色確かに綺麗ですね。空から舞い落ちる雪とかね」
「イリュージョンに彩られた街とかね」
「ヤンキーの夫婦はペアルック」

田村
「それ関係ないやろ」

川島
「(ナレーション)田村の左手が目の乳房を強く刺激する」

田村
「気持ち悪いわお前!」

川島
「(ナレーション)体が熱い!」

田村
「なんで体ほてってんねん!」

川島
「ターカーシ!」

田村
「いや起きてない!」
「(川島を指差し)アキラ!」
「起きてないよ一個もそんなん」

川島
「いやでもカップルでそういう景色見れたら楽しいと思いますけどね」

田村
「そんなことないですよ」

川島
「そうですか?」

田村
「一人でも十分楽しめますよ」

川島
「ああ、そう?」

-田村、センターマイクから離れ一人芝居を始める

田村
「冬の星空が綺麗だね…」(両手を広げる)
「でも、僕の方が綺麗だよ」

川島
「(ナレーション)僕は彼が何を言っているのか全く理解ができなかった」
「(ナレーション)ただ一つ、彼の後頭部はエノキタケに似ている。そう思った」
「(ナレーション)エノキから手足が生えているのだから、こいつは妖怪エノキ小僧に違いない」

-田村、逆側を見て両手を広げる
-田村は川島のナレーションを無視してさっきのセリフを小声で続ける

川島
「(高い声で)デンデンデンデン♪オイラ妖怪エノキ小僧!人に迷惑をかけるちょっぴり天然パーマの妖怪なんだ」

-田村、正面を向いて両手を広げる

川島
「(高い声で)あれ、もしかして雨が降ってきたのか?」

-田村、先ほどと同じように飛び跳ねて喜ぶ

川島
「(高い声で)こりゃやばい、やばい、ヤバイよ〜!」

-田村、足踏みをしながら舞台を駆け回る

川島
「(足踏みに合わせ)天パが縮む♪ 天パが縮む♪ 天パが縮んでクルになる♪」
「(高い声で)このままでは危ない!早く晴れるためのおまじないをしよ〜!」

-田村、一人で雪を投げたり受けたりしてはしゃぐ

川島
「ドンダッタッタ♪ ドンダッタッタ♪ 晴れになれ♪」

田村
「なんやねんそれ!『晴れになれ♪』やあるか!エノキ小僧ってなんやねん!」

川島
「お前がエノキ小僧やんけ」

田村
「初めて聞いたわ」
「違うやん、俺が言うてんのはな、ケスキが綺麗やって言ってんねん」

川島
「慌てすぎて噛んでるやん」

-田村、両手で顔を隠す

川島
「(ナレーション)噛んだ。彼はこの大事な舞台で噛んでしまったのだ。しかし彼はギャグをやることでこの場をなんとか乗り切るのであった」
「(ナレーション)それではやってもらいましょう。よろしくお願いします」

田村
「僕の歌声メゾピアノ〜♪」

-ギャグを滑るのを眺め川島はゆっくりセンターマイクに戻る

川島
「(ナレーション)裏目に出た」

田村
「待てー!そらそうやろこんなもん!」

川島
「(ナレーション)しかし彼は手首を切る」

田村
「死ぬか!ギャグ滑って死ぬかお前!」

川島
「(ナレーション)一方その頃スリランカでは」

田村
「どこ行くねん話!どう展開していくねん!」

川島
「何がやねん」

田村
「漫才小説風にしてわかりにくくなってるやんけ」

川島
「わかりにくくするのも小説風じゃないですか」

田村
「もうええわ!」

川島
「(ナレーション)田村の左手が僕の」

田村
「もうええねん!」

審査

各地の一般審査

札幌54点
大阪82点
福岡63点
合計199点

会場審査員

西川きよし79点
青島 幸男75点
春風亭小朝65点
ラサール石井90点
鴻上 尚史83点
松本 人志75点
島田 紳助75点

総得点

741点

振り返り

当時は全くノーマークだった麒麟がダークホースとして登場。

紳助は「アメリカザリガニに完全に勝っていた。今日二番目に良かった」と言い、松本は「僕は一番好きです。これなんとかならないですか?」と誉めたほどだ。

麒麟が披露したのは今までの芸人たちのネタと違い、同じくだりを2周する伏線漫才だ。

フリとして潜伏させた1周目に時間を使う代わりに2周目で笑いをとり続けるというテクニックが効いた変化球でしっかり会場を沸かせている。

こういったネタは1周目のフリでもどうやって笑いを起こすかが難しそうだが、そこでは田村の異様な行動が"ボケ"として効いている。
そして川島の代名詞とも言える低い良い声でナレーションを入れて、2周目では田村をおもちゃのようにしてアテレコしていくところで爆発が起こる。

1周目では「一人ではしゃぐおかしい奴」として面白かった田村が、まさか2周目では「空を晴らそうとする妖怪エノキ小僧」として面白くなるとは誰が思っただろうか。

田村が噛んでしまった時も川島は顔色ひとつ変えずに、噛んでしまったことにナレーションを入れ、ひと笑い起こす。
その流れがあまりにも鮮やかで、もはや台本に入っているのではないかと思わせられるくらいだ。
現在川島は番組でMCを務めているが、こういった機転が効く点はダークホースとして世間に現れた時から持ち合わせていたのだろう。

またツッコミの動きも伏線に入れ、最後の「もうええわ」にもひとネタ仕込んで終わる。

麒麟はのちにもナレーションを入れ込む漫才でどんどん売れていくわけだが、そのシステムだけではなく、2周回す伏線漫才を持ってしてものM-1に爪痕を残していたのだった。

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