M-1グランプリ2001
トップバッター
中川家
ネタ
礼二
「最近巷では危険なことが多いですから、みなさん気ぃつけてくださいよ」
剛
「気ぃつけてくださいホンマに」
礼二
「特にね電車なんか乗ってますとホームですわ。駅員さんがよく言うてますやん」
(モノマネで)「駆け込み乗車はおやめください」
剛
「駆け込み乗車…」
礼二
「何をやるん。勝手にやらんでええ」
剛
「やらせてくれ俺にも」
礼二
「俺が喋ってんねやから」
「まあ駆け込み乗車おやめくださいってな、あれ駆け込み乗車してそのまま電車乗れたらいいですよ」
「これがまたのられへんかった時が恥ずかしいんですよ。乗ろう思って乗られへんかった時ね」
剛
「大体おおいね、ああいうのは」
礼二
「やっぱり年配のサラリーマンの方が多いですわ。なんか頭の毛もハゲ散らかしたような方ね」
剛
「ハゲたのにまた散らかすの」
礼二
「ええやないか。そこ前言わんでええねん別にお前は」
「そういう方がね、乗ろう思って乗られへんかった時、あれ恥ずかしいね」
-礼二、おもむろにセンターマイクを離れ、乗車を再現しようとする
-剛も電車内側の人を演じる立ち位置になり吊り革に捕まっている様子
剛
「(電車の走行音)ズズンズズン、ズズンズズン…」
礼二
「なんで走ってんのや」(急いでセンターマイクに戻る)
剛
「いや乗られへんかったんやん」(礼二を指差して)
礼二
「違う、おかしいがな。乗ろう思って…」
剛
「乗られへんかったんやろ?」
礼二
「違う、それやったら『乗らんどこう』と思うだけやんか」
剛
「乗られへんかったんやろ?」
「乗られへんかってん」(礼二を宥めるようにポンポン叩く)
礼二
「何をムキになって言うてんねん」
剛
「乗られへんかったんやろ?!」(礼二の顔へ指をさす)
礼二
「うるさいなもう!」(剛の指をはたき落とす)
-黙って仕切り直す二人
-先ほどの車内/車外のポジションに戻る
-礼二が位置に着くや否や
剛
「(扉の開閉音)プルルッ、プシュ〜」
礼二
「早い!」(急いでセンターマイクに戻る)
剛
「(強く呆れながら)うるさい」
礼二
「うるさいじゃないねん。乗ろう思って乗られへんかってん」
剛
「乗られへんかったやん!」
礼二
「それやったら『次の電車にしよう』思うやんか」
剛
「(それやん!と頷きながら)うん!乗られへんかった!」
礼二
「『乗られへんかった』ちゃうねん。乗ろう思って乗られへん言うとんねんから」
-黙って仕切り直す二人
-先ほどの車内/車外のポジションに戻る
剛
「(開閉音)プルルルルルーーーー」
-礼二、それに合わせて扉に小走りで駆け込む
剛
「プシュ〜」(目前で扉を閉める)
-礼二、空を仰ぎながら勢いを緩めて乗ろうとしてなかったかのように振る舞う
剛
「プシ、プシュ〜」(一瞬開閉する)
-礼二、一瞬乗ろうと試みるが間に合わずまた取り繕う
-剛、反対側の扉を再現し
剛
「プシュ〜(その扉から下車する)」
礼二
「小田急新宿駅か!」
剛
「マゥン〜〜〜〜〜〜」
礼二
「電車の音はええねん」
「新型の音はもっと、マゥンヴィ〜シィ〜や」
-剛、礼二の再現にそっかそっかと無言で頷く
礼二
「何を言うとんのやお前は。分からんことすな」
剛
「危険なこと多いですよ」
礼二
「まあ多いですよね」
「家なんかにおってもそうですよね。危険な映像いうのが流れてきますからね」
剛
「最近よう流すな危険な映像いうて」
礼二
「年に2回くらい…」
剛
「決定的瞬間!」
礼二
「俺が言うねんそれも全部」
「決定的瞬間ね、スクープ99とかでやってます」
剛
「今度2002や」
礼二
「そりゃわかっとるわ」
剛
「怖いぞ〜あれは。見るのも怖いのにな、聞くのも怖いんですあれ」
礼二
「確かにね、ああいうので一番多いのは川の事故ですよ」
剛
「川の事故ね。一番怖いわあれ」
礼二
「僕ああいうの実際見たことあるんですよ」
剛
「ええ!!!!」(突然大声で)
礼二
「ああ!びっくりした!」
剛
「見たことあるん!水難事故?」
礼二
「そう水難事故です」
剛
「川の事故?」
礼二
「そう川の事故。台風の次の日でね、僕犬飼うてるから河川敷散歩しよったんです」
剛
「犬!」
礼二
「犬が急に川の方見て吠えだしよるんです」
剛
「(犬の鳴き真似)ワンワンワンワン!」
礼二
「ええねんだからお前」
「ワンと吠えるからなんやろと思ってパッと見たんや」
-礼二の「ワンと吠えるから」に呼応してワンと鳴き真似する剛
-「パッと見たんや」に合わせてパッと客席を見る剛
礼二
「お前見んでええねん」
「お前こっから入ってくんな」(二人の間に爪先で線を引く)
「俺はパッと見たんや。ほんなら子供が溺れてるんですよ」
剛
「(溺れる真似)あぼぶぶぶ…」
礼二
「ええねんええねんそんなの」
剛
「(溺れる真似をしながら)助けて…ください…」
礼二
「『ください』やあらへんがな」
「これはやばいわ思ってとりあえず河岸まで行ったけど、川の流れも早いし、僕も入ったら死んでしまうからやね、とりあえず子供の流れと一緒に僕は岸からずっと応援してたんや」(並走している動き)
剛
「応援したんや」(急に落ち着き始める)
礼二
「大丈夫かー!」
剛
「大丈夫か?クロール行かれへんか?」
礼二
「誰やねんお前は!」
「お前関係あらへん。入ってくんな言うてんねんだから」(また二人の間に線を引く)
「ほんなら川の流れがうまいこといったんや」
「子供が川岸まで来て、僕が子供を抱き抱えてひと言いうてね」
-二人で子供を抱き上げる動き
剛
「びしょびしょやな(笑)」
礼二
「そんなこと言うかアホ!」
「濡れとるわびしょびしょに決まっとるわ」
剛
「あ!心臓マッサージ!」(礼二の抱えている位置に手を突っ込む)
礼二
「俺がすんねんそれは!」
「心臓マッサージをガーっとやったら、水をぴゅっと出したの」
「そんで『ああ、ああ…』って何か言いたそうにして」
「大丈夫か!落ち着けよ!大丈夫やからな」(子供に呼びかける)
剛
「(礼二に呼応するように)大丈夫か!とりあえずコップ一杯水飲んで」
礼二
「たらふく飲んどんねんもう」
剛
「(喉に手を当てて)スッとするわ」
礼二
「スッとせえへんわ!」
「これはやばいわと思ってね、救急車を呼ばなあかん」
剛
「(救急車のサイレン)ピーポーピーポー」
礼二
「早いねん来るのが!まだ呼んでへん」
「119や、(電話をかける)すみません救急車一台お願いします」
剛
「(サイレン)ピーポーピーポー」
礼二
「あっ!こっちです!こっちこっち!こっち!」
剛
「ピーポーピーポーワーオーワーオー」
礼二
「なんで通り過ぎんの!」
剛
「おっ!(膝を叩いて指を立てる)ドップラー効果や!」
礼二
「ドップラー効果やあらへん」
剛
「(電車のバック音)マウ〜〜ン」
礼二
「バックの音はええ!」
「ほんで僕は子供を抱き抱えて救急車に…」
-抱えた子供を運ぼうとする礼二
-礼二のその腕を掴んで一緒についてくる剛
礼二
「なんでお前が来んねん!」(剛を突き飛ばす)
「来んでええ言うてんのお前は!入ってくんな言うてんねん」
剛
「(救急車の戸を開ける音)バン!」
礼二
「そんなんもええねん救急隊員がやんねんから」
剛
「(担架を救急車に積もうとする)ゴーーー」
礼二
「ゴーーやあらへん、そのまま…」
剛
「(指を挟んで)あいててて!」
礼二
「訳のわからんことすな!」
「病院ですわ、病院行ったんや」
剛
「(ハンドルを握りながら)ウウ〜〜」
礼二
「お前が運転せんでええねん、俺の話に入ってくな」
「集中治療室、ICU」
剛
「ICU!」
礼二
「そう、電気がピッとついて治療が始まってるんですよ」
剛
「(扉を開いて)バン!」
礼二
「ええねん扉とかどうでも、細いことは」
剛
「(指で心電図を再現しながら)ピッピッピッ…」
礼二
「もうええねんそれ、細かい…」
剛
「ピーーーーーー」
礼二
「死んどるやないか!」
剛
「ピッ!」(復活する心電図)
礼二
「どないやねん。ピーピーピーやあらへんがなほんまに」
「ほんで僕はずっと願っとったんですわ。大丈夫かな大丈夫かな思って」
「ほんなら集中治療室の電気がパッと消えてね、お医者さんが出てきはったんです」
「心配やから聞くわけじゃないですか」
剛
「こんな感じや」
-剛が扉から出てくる医者を演じて歩いてくる
-礼二は子供の安否を聞こうと呼び止める
礼二
「先生!子供は大丈夫ですか?」
剛
「あ、私、耳鼻科担当で」(キリッと礼二をいなして通り過ぎていく)
礼二
「出てこんでええやろ」
「何しに出てくんねん耳鼻科担当でいうて」
剛
「すみませんどこでしたっけ?」
礼二
「『どこでしたっけ』あれへんがな、本館に決まっとるやろそんなもん」
「ほんでまあ後で警察と消防署から感謝状!」
「どうもありがとうございます」(お辞儀をして賞状を受け取ろうとする)
剛
「ありがとうございます」(礼二と一緒に受け取ろうとする)
礼二
「だから出てこんでええいうてんねん」
「いちいち出てくんな言うてんねん」
剛
「お前の話なんか一個だけ不思議あるぞ」
礼二
「なんやねんな」
剛
「犬どこいったん」
礼二
「もうええわ」
審査
各地の一般審査員の採点
札幌 | 65点 |
大阪 | 89点 |
福岡 | 79点 |
会場審査員の採点
西川きよし | 91点 |
青島 幸男 | 90点 |
春風亭小朝 | 90点 |
ラサール石井 | 90点 |
鴻上 尚史 | 85点 |
松本 人志 | 70点 |
島田 紳助 | 80点 |
総得点
829点
振り返ってみて
2022年現在から見ても全く変わらない中川家の面白さ。
有名なことだが、中川家はこれからトップバッターの一位を守り抜き、優勝を果たす。
シンプルでいつ見ても笑える普遍的なスタイルは、初代王者の名に相応しいと誰もが頷ける。
中川家といえば兄弟漫才師だが、そのチグハグな見た目の差もすでに少し面白い。
大人しそうな方と、キャッチーで覚えやすい見た目の方、という売れている漫才師によくある見た目だ。
彼らのネタは基本的に「ツッコミが進行する話にボケが介入してきてうまく進まない」という王道な形式が多い。
小ボケとして声帯模写や、細かすぎる要素の再現やモノマネを入れるので、あるあるとしての受け入れやすさも大きい。
しかし何より、兄の剛が執拗に介入して付け足す一言や声帯模写に、弟の礼二が時々乗っかったり本気で諌めているような空気に"兄弟感"を感じてしまうところが武器のように感じる。
ずっと素でボケ続けているかのような剛と、本当に話を進めたそうに振る舞う礼二のやり取りに挟まれる「お前こっから入ってくんな」という地面に線を引く子供っぽいくだりは特にその気が強い。
普段の二人の距離の絶妙さを醸し出すアドリブ感は、あるあるの小ネタとも相まって中川家の身近な感覚を、笑いと一緒に誘い出しているのかもしれない。