漫才

[M-1グランプリ2001]フットボールアワー -ネタ書き起こし/審査/振り返り

2022年12月9日

M-1グランプリ2001

2組目

フットボールアワー

ネタ

後藤
「すんませんみんな、こんなブサイク連れてきて」

岩尾
「今日たまたまや」

後藤
「いつもや!」

岩尾
「たまたま今日こんなんなだけや。ほんまやで」

後藤
「何を言うとんねんお前」
「お客さんわろてるていうことはそう思ってるっていうことやねん」

岩尾
「そう?」

後藤
「ほんまブサイクやで」

岩尾
「何がそんなあかん?」

後藤
「まずそのヒゲやめて」

岩尾
「ヒゲ?」

後藤
「その青〜いの」

岩尾
「青いのはええやんか」

後藤
「いやあかんよ」

岩尾
「だって青い空、青い海、そして青いヒゲやで」(両手で自分のヒゲを指差す)

後藤
「やかましいわ!」

岩尾
「恋人たちが戯れる」

後藤
「戯れるか!」

岩尾
「(ヒゲを指さして)別名『渚』って呼ばれとる」

後藤
「何を良いようにいうとんねん」

岩尾
「おしゃれでしょ?」

後藤
「あかんわ。お前はな、しゃべんのも遅いのよ」


「んなことないよ。俺な、早口言葉な、速いで」

後藤
「いやそれ言うのも遅いねんお前は」

岩尾
「速いで」

後藤
「ほんならちょっと早口言葉いうてみ」

岩尾
「え〜生麦〜生米〜生卵!」

後藤
「遅い!」

岩尾
「速いよ」

後藤
「なんやねんそれ」

岩尾
「俺これ一歳の時から言うてて」

後藤
「いや早いけどやなお前」
「早いの意味が違うねん。早口言葉いうんは言いにくい言葉をスラスラ言うことや」

岩尾
「あ、言いにくいこと?」

後藤
「そうそう」

岩尾
「(早口で)お前本当は父さんの子じゃないんだ、お前本当は父さんの子じゃないんだ、お前本当は…」

後藤
(遮るように)「言いにくいけど!」

「言いにくいの意味が違うやろ!」

岩尾
「いや"言いにくい"っていうから」

後藤
「『父さんの子じゃないんだ』ってなんやねん!」
「ほな"赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ"言うてみ」

岩尾
「(早口で)赤Tシャツ短パン、青Tシャツ短パン…」

後藤
「パジャマや言うてんねん!」

岩尾
「俺パジャマ着て寝えへんねん」

後藤
「知らんがな!お前の寝る時の格好は」
「ほな"隣の客はよく柿食う客だ"」

岩尾
「隣の客はよく昔俺が抱いた女だ」

後藤
「なんの話やねん」

岩尾
「だからちょっと気まずい…」

後藤
「いや気まずいけど隣にき来とったら」

岩尾
「あまり顔を合わせたくないっていう…」

後藤
「ちょっと待てよ。何を訳のわからんんことばっかり言うとんのや」

岩尾
「なんでよ」

後藤
「あかんよそんなもん」

岩尾
「俺ちっちゃい頃この早口言葉ずっと言うてたんやで」

後藤
「そんな早口言葉いうてたんか?どんな子供やねん」

岩尾
「いや俺はね、子供ん時から大人っぽい子供やったね」

後藤
「は?」

岩尾
「うん、大人っぽい幼稚園に行ってたからね」

後藤
「大人っぽい幼稚園てどんなやの」

岩尾
「あのね、幼稚園鞄がセカンドバッグや」(バッグを抱える動作)

後藤
「いややなおい」(同じように抱える動作)

岩尾
(バッグから取り出す動作)「中、保険証入ってるわ」

後藤
「おっさんやないか」

岩尾
「それで毎日幼稚園に」

後藤
「なんで保険証持ち歩く必要あんの」

岩尾
「でな、幼稚園の学年わけ、名前付いて、なんかあったやろ」

後藤
「ああ、あったね」

岩尾
「お前んとこどんなんやった?」

後藤
「うちはね、年少、年中、年長、大きなるのを花に例えて、たんぽぽ、チューリップ、ひまわりとこう言ってたね」

岩尾
「うちは短パン、バミューダ、長ズボン」

後藤
「なんやねんそれ」
「長ズボンてなんやねん!」

岩尾
「はまち、ブリ、カンパチ」

後藤
「こら!なんで出世魚で言うねんお前」

岩尾
「カンパチ組の時の先生好きやったね」

後藤
「いや知らんがな!」

岩尾
「懐かしい〜」

後藤
「そんな女の子に縁がないんやから偉そうに言うな」

岩尾
「そんなことないよ。学生時代なんてモテモテやで」

後藤
「いや嘘つけお前。学生時代はお前みたいなタイプはモテへんねん。ちょっと悪い奴、ヤンキーとかがモテんのよ」

岩尾
「ああ、暴走族とかね」

後藤
「そうそうそう」

岩尾
「あんなんなんでモテるかよう分からんね」

後藤
「確かにね。暴走族ってね、あいつらうるさいやろ」

「夜中バイク乗ってね、(暴走族の真似)パラリロパラリロ♪」

岩尾
「(そのメロディに乗せて)夜中にごめんね♪」

後藤
「違う!」

岩尾
「(同じメロディで)ほんとは寂しい♪」

後藤
「なんでやねんお前!」

岩尾
「心の叫びやから…」

後藤
「そんなメッセージこもってないねん」

岩尾
「だからあんなんより絶対俺の方がモテるはずやで」

後藤
「いやどんだけモテるって言いたいのお前?」
「ほなどういう女の子がタイプやの」

岩尾
「やっぱりね、デパートで働くようなね、綺麗な子がいいな」

後藤
「おお、綺麗な女性、デパートの」

岩尾
「そうそう、エレベーターガールなんかいいよ」

後藤
「確かに綺麗ねああいう人ね」

岩尾
「僕エレベーターガールをマンションのエレベーターにもつけて欲しいなと思ってて」

後藤
「いやいや、マンションのエレベーターにつけてどうなるの?」

岩尾
(エレベーターガールを真似て)「4階でございます。401の田中さんのおじいちゃん、先ほどお亡くなりになりました」

後藤
「いや聞きたくないわアホ!」

岩尾
「(両手を合わせえて)上に参ります」

後藤
「怖いねん!なんやねんそれ」

岩尾
「違うって!あの子はただの幼馴染でなんでもないって!」
(頭を下げて)「誤解でございます」

後藤
「意味ちゃうやろ!ゴカイの意味が違うねんお前」
「何を訳のわからんことを…」

岩尾
「そんなんええやんか」

後藤
「違うがな、そんなエレベーターガール嫌でしょ」
「俺がデパートでええな思うのはね、館内アナウンスね。女性の綺麗な声でふわ〜っと…」

岩尾
「(アナウンスを真似て)京都からお越しの〜」

後藤
「気持ち悪い!」

岩尾
「てっちりをお持ちの〜」

後藤
「どんな客やねん」

-岩尾、両手にてっちりを抱えて戸惑う人の動作

後藤
「なんでてっちり持ってウロウロしてんの」
「おかしいやろ、もっとええ感じや」
「ピンポンパンポーン♪」

岩尾
「(アナウンスを真似て)赤のトレーナーに緑のスカートを履いて、黄色のマフラーを巻いて、水色の靴下を履いた女の子のお母さん」


「え?」

岩尾
「もう少し、コーディネートを考えてあげてください」

後藤
「言うたるなアホ!なんで放送でそんなこと言うねん!」

岩尾
「(アナウンスを真似て)ベージュのスーツに白のシャツを着て、赤のネクタイをお召しのお客様」

-後藤、ふと自分の衣装と一致していることに気づく動作

後藤
「俺やないか」

岩尾
「今日、デパートに同じ格好の方が5人います」

後藤
「恥ずかしいわアホ!服被るのが一番恥ずいねん、言うな!」

岩尾
「(アナウンスを真似て)私、最近日増しに強くなっております」

後藤
「どういうことやねん」

岩尾
「(メロディに合わせて)結 婚 願 望♪」

後藤
「知らんわアホ!変わってきとるやないか」

岩尾
「まさか…実の父親と…?!」
「(メロディに合わせて)近 親 相 姦♪」

後藤
「こら!何をいうとんねん!」

岩尾
「あ〜!んあ〜んあな〜!(目を瞑り舌を出しながら)」

後藤
「いや、ちょっと何?何をいうとんの?」

岩尾
「(メロディに合わせて)チン プン カン プン♪」

後藤
「わけわからんわ!」
「もうええわ」

審査

各地の一般審査

札幌62点
大阪83点
福岡46点
合計 191点

会場審査員

西川きよし90点
青島 幸男80点
春風亭小朝80点
ラサール石井82点
鴻上 尚史82点
松本 人志55点
島田 紳助66点
合計 726点

総得点

726点

振り返って

フットボールアワーはのちにM-1王者に輝くが、この年は中川家の次という(結果論だが)不利な順番も重なり優勝は逃している。

後藤のツッコミといえば「例えツッコミ」といったような印象がふんわりとあったのだが、このネタではあまりその気はない。

スピード感があってボケ数も多くテンポ良くというのが、漫才での一つの強いアプローチではあると思うが、2001年の段階でボケの岩尾は基本スローペースという温度差を仕込んでいるのは相当な度胸ではないだろうか。

構成としては前半は後藤が進行に対してズレた回答をする岩尾というやりとりが中心で、後半は岩尾がどんどん出してくるズレた提示に後藤が突っ込みまくるというやりとりが多い。
後半につれて岩尾もテンポを上げたり、最後の方ではまたテンポを落とし、逆に間をおいてボケるなど、漫才のスピード感を握っているのがまったりと喋る岩尾の方というのが意外で面白い。

また、岩尾は始終なよっとした喋り方と表情をしているが、反して後藤の方は「違う」「知らんがな」などのシンプルなツッコミでも声色を変えたりオーバーナ表情を見せたりしていて、自然とそこでメリハリのバランスが効いているのか、岩尾のスローペースが全くストレスに感じなかった。

むしろ気になったのは、最近の漫才ではほぼネタに題名が付けられるように、ネタごとにコンセプトのような一本道筋が通っているものが多いことに対して、このネタは話題がコロコロ変わりながら進んでいくというところだ。

このネタももちろん面白いのだが、個人的に私はフットボールアワーの「焼かんでええやん」というツッコミから派生していくあのネタが大好きだ。
一つの「〇〇せんでええやん」というツッコミを展開しながら岩尾の揚げ足取りな屁理屈が次々と飛んでくるという、まさに一本道筋が綺麗に立っているネタだ。
無茶苦茶面白いのでどこかで機会があればぜひみてほしい。

本ネタでも「意味が違う」というツッコミが何度か出てくるように、もしかすると後藤はツッコミフレーズからボケを考えたりするのだろうか?
(ざっくりYouTubeでも後藤の言いたいツッコミを言わせてあげるために他メンバーがボケまくる企画があったね)

この翌年に二位、その翌年に優勝を果たすフットボールアワー。
これは全ての芸人にも言えることだが、20年以上前からずっと面白かったと思うと感動だ。

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