漫才

[M-1グランプリ2001]チュートリアル -ネタ書き起こし/審査/振り返り

2022年12月13日

M-1グランプリ2001

3組目

チュートリアル

ネタ

徳井
「すみませんね(福田を見ながら)顔面テッカテカですけども」

福田
「ええがなお前別に」
「そんなことよりね、最近昔話が懐かしいなぁと思いまして」

徳井
「そうですか」

福田
「ちっちゃい頃お母さんによく読んでもらったじゃないですか」

徳井
「読んでもろたね」

福田
「僕なんか『シンデレラ』読んでもらったりね」

徳井
「僕なんかな『京都湯けむり殺人事件』ね」

福田
「寝づらいな!」

徳井
(上下を分けながら)「(子供役)お母さん事件いつ起こるの?」
「(母親役)もうすぐな、このOLのミユキさんっていう人が鈍器のようなものでね、殴られるよ」

福田
「怖すぎるやろ!」

徳井
「(子供役)鈍器で?!」

福田
「なんで興奮してんねん」

徳井
「(子供役)鈍器?!つぼ?!つぼ?!」

福田
「いや何でもええがな!鈍器の種類は何でもええがな」

徳井
「俺鈍器大好きっ子やったんよ」

福田
「どんなガキやねん!」
「いや他にね、僕が読んでもらったのは『赤ずきんちゃん』とかね」

徳井
「『赤ずきんちゃん』な。俺好きなシーンがあるわけや」
「赤ずきんちゃんが空港に走り込んでくるわけや」

福田
「え?」

-徳井、空港に走り込む赤ずきんちゃんを演じる
-駆け込む動作

徳井
「(息切れ)はあ、はあ、はあ…」
「(固唾をのむ)ちょっと待って…」
「もしも、こんな私でよかったら…一緒にニューヨークについて行くわ」

-徳井、上下を分けるように振り返る

徳井
「(男役)…赤ずきんちゃん…!」

福田
「ちょっと待てお前!おい!」(徳井の腕を引く)

徳井
「(男役)ダメだ赤ずきんちゃん、お父さんの家を手伝うんだ」

福田
「いや違うがな!『赤ずきんちゃん』の何のシーンやねん」

徳井
「赤ずきんちゃんの彼氏がニューヨークに転勤になるシーンやないか」

福田
「彼氏って誰やねん!」

徳井
「黒ずきん君やないか!」

福田
「出てくるか!」

徳井
「お前黒ずきん君知らんのか」

福田
「知らんよそんなやつ」

徳井
「赤ずきんちゃんの前の彼氏の青ずきん君の友達の黄色ずきん君の英会話学校が一緒の人やないか」

福田
「ややこしいな!」
「全員ずきん被っとるやないか」

徳井
「そんなワールドやねん。しょうがない」


「どんなワールドやねん!」

徳井
「そんなワールドや」

福田
「いやそんでもね、僕が中でも一番好きやったんは『桃太郎』の話ね」

徳井
「あれはあかんわ」

福田
「何がやねん」

徳井
「長い!」
「なんやおばあが桃拾って家に持って帰って、ほんで桃は包丁で割って桃太郎が出てきて、成長すんの待って、犬と猿と雉と集めて、もう、あ〜長い!」

福田
「んな長いことない」

徳井
「もっと21世紀スピーディにいかんとあかんやろ」

福田
「ほなどうすんねんお前」

徳井
「だからやな、川上から大きな桃がドンブラコドンブラコ流れてきました」

福田
「うんうん」

徳井
「ふと見るとその桃には既に割れやすいように切れ目が入っていて」

福田
「え?」

徳井
「なんやったら流されてるショックでもう半開きになっていました」

福田
「いややんそんな桃」

徳井
「そのままお婆さんが軽くポンと叩くと、ワンタッチでパカっと開いて、中に桃太郎と犬と猿と雉がもう入っていました」


「全部入ってもうとるやないか」

徳井
「すぐにでも鬼退治にいけます」
「鬼退治セット」

福田
「ちょっと待てお前」
「何や『鬼退治セット』て。どんなセットやねん」

徳井
「セット内容言おか?」
「まず犬がポメラニアン」

福田
「えらいかわいいなおい!」

徳井
「で猿がリスザルや」

福田
「かわいすぎて役立たへんやん」

徳井
「で雉が剥製や」

福田
「邪魔やん!」
「剥製の雉、無茶苦茶邪魔やないか」

徳井
(剥製を抱える動作)「剥製をこう、持って…」

福田
「持っていくの?!」

徳井
「たまにガン!落とすねん」
(拾う動作)「うわ、首とれた」
(拾った物を覗き込んで)「ちゃっちい作りやなぁ」

福田
「違うがな!」
「持っていっても邪魔なるやん」

徳井
「それが邪魔やったらやな、剥製の下に車輪4つつけて、ロープつけてコロコロ引っ張っていく」

-徳井、トランクを引いて行くような動作で剥製を引いて歩く

徳井
「すみません通ります」

福田
「通りますやない」
「そんなん犬はいるわ猿はいるわ剥製の雉コロコロ〜って連れたやつ、完全にアホやがなそんなもん」

徳井
「だから鬼を引かせるやないか。鬼を精神的に引かすねん」
「(鬼役)うわっ、あいつはあかん!あれはあかんわ」(首を傾げながら半笑い)

福田
「いや違うがな」

徳井
「(鬼役)ええわもうあれは、ちょっと絶対おかしい」(頭を指差しながら)
「みんな村行くなよ!雉コロコロのやるおるぞ!」

福田
「何ちゅうあだ名や!」

徳井
「雉コロリストおる!」

福田
「何をいうとんねん!」
「ええ話や言うてんの!」

徳井
「ほなもうストーリー変えよう」
「もっとドラマティックに展開しよう。恋愛要素も入れて」

福田
「恋愛の要素?」

徳井
「だから桃太郎君が成長しはんねん。一人前の男や」
「ほんなら彼女の一人も出来るわな」

福田
「彼女できんのかいな」

徳井
「そやねん。そしたらある日桃太郎君がその彼女にな、自分は桃太郎やから鬼退治にいかなあかんのやと告げに行くわけよ」

福田
「ほうほう」

徳井
「近所の寺の境内かなんかで待ち合わせすんねん。気分はオープンカフェや」

福田
「またちゃうやろ」

徳井
「待ってはんねん」
(座りながら腕時計を見る)「ハナちゃん遅いな…」

福田
「ハナちゃん?」

徳井
(遠くに見つけ手をふる)「あ!ハナちゃん、こっちこっち!」
(上下を分けてハナちゃん役)「桃っち!」

福田
「ださっ!」
「桃っち?ダサいあだ名つけられてるやん」

徳井
「(ハナ役)何?急に話って」
「(桃役)ああ…実は…実は俺…!」
「(ハナ役)ストップ!」(手を前に出す)

福田
「頭大丈夫かお前」

徳井
「(ハナ役)…まさか、鬼退治にいくなんて、言わないよね…?」

福田
「言わな話にならへんがな」

徳井
「(桃役)実はそうなんだ」
「(ハナ役)桃っちよく考えて。相手鬼なんだよ?桃っちもしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ?ねえ、桃っちが死んだら私どうしたらいいの?」
「(桃役)そんなこと言われても…俺、桃太郎だから」

福田
「そらせやろ」


「(桃役)いかんせん俺、桃太郎だから!」

福田
「『いかんせん』はおかしいやん」

-徳井、ハナ役でショックを受けて顔をまごまごさせる

福田
「気持ちわる」

徳井
「(ハナ役)桃っちは私と鬼退治どっちが大事なの?」
「(桃役)そんなこと、言わないでくれよ…」
「(ハナ役)…な〜んてね!」

福田
「ごっつ腹立つ!こんなやつ!」

徳井
「(ハナ役)ちょっと困らせてみたかったんだ。私が止めてもどうせ行くんでしょ、鬼退治」

福田
「そらそうやろ」

徳井
「(ハナ役)桃っちの夢だもんね」

福田
「夢とかやないやろ」

徳井
「(ハナ役)そのために鬼退治専門学校行ったんだもんね」

福田
「どこいってんねん!生徒一人しかおらんやろそんなもん」

徳井
「(ハナ役)行っておいでよ!私、ずっと待ってるから!ずっと、待ってるから!」
「(桃役)ハナちゃん…!ありがとう!」(ハナを抱き寄せようとする)
「(ハナ役)あっ!キスはダメよ!」

福田
「何しとんのや!」

徳井
「(ハナ役)お婆さんがみてる!」

福田
「うそ?!」

-徳井、お婆さん役で物陰から険しい表情で除いている動作

福田
「おばあごっつ見てた!おばあごっつい見てるやん!」

徳井
「(おばあ役)おじいさん!おじいさん!桃太郎エロいで!」(後ろを向いて呼びかける)

福田
「『エロいで』やあらへんがな」

徳井
「(ハナ役)ねえ桃っち、だからキスは鬼退治のあとで」

福田
「いつまで続くねんこれ」

徳井
「(桃役)キスぐらいいいやろ!俺たち31だぜもう!おい!」

福田
「ちょっと待て!」

徳井
「(桃役)30いくつだ?脱げおい!」

福田
「ちょっと待ておい!どんだけ歳いってんねん」

徳井
「鬼退治行け言われて、明日行くわ、明日行くわって31なってもうたんや」

福田
「歳行き過ぎやろ」

徳井
「間を逃してん」

福田
「無茶苦茶やな!」

徳井
「ええねん、これいうてな、教訓教えんねん」

福田
「何のやねん!」

徳井
「今日できることは今日しましょう」

福田
「もうええわ!」

審査

各地の一般審査

札幌38点
大阪67点
福岡49点
合計 154点

会場審査員

西川きよし80点
青島 幸男75点
春風亭小朝75点
ラサール石井68点
鴻上 尚史75点
松本 人志50点
島田 紳助60点

総得点

637点

振り返り

チュートリアルも前回のフットボールアワー同様、のちに王者となるコンビだ。

しかし、もうこの2001年の段階で既にチュートリアルに対して私が抱いていた「妄想漫才」というスタイルが確立されている。

ツッコミの福田を置いてきぼりにしながら次々に展開されていく、徳井の妄想劇場。

徳井が無駄に演技力を見せてくるので、そのドラマっぷりに少し見入ってしまいそうになるのも面白い。
実際の映像も是非みて欲しいのだが、女の子役を演じている時の徳井は、心なしか可愛く見えて笑ってしまう。

徳井が展開する話は、仰々しいドラマ性が持つしゃらくささこそメインの面白さではあるが、「雉の剥製が意外とちゃっちい」「雉コロのヤバさに鬼も里の人もドン引きしてる」「カップルのあだ名がダサい」などのしょうもないディティールもあるあるネタのようなキャッチーな笑いがあるのも魅力だ。

また、本ネタで福田が持ち出す話題は「昔話」だが、他の有名なネタでも話題は「冷蔵庫を買った話」「自転車のチリンチリンが盗まれた話」などだ。
チュートリアルのネタは身近かつ何でもない話から、それを徳井の一人劇場で異様に膨らませていく。

形式としては"ボケが勝手に話をおかしな方向に膨らませていく"というのは漫才ではよくあるが、チュートリアルの場合はボケの暴走をあまりツッコミが中断させない。
そして逆に徳井も福田を完全に無視するわけでもなく、やり取りを挟みながら進行していく。
(ツッコミが逸れるたびに話を戻していくか、ボケ側がツッコミを完全無視して独走するスタイルが多い気がするので、このバランスは意外と珍しいのかもしれない)

福田がツッコミながら、観客とボケの間に立つような立ち位置で世界観を突いたり辛辣な感想を添えたりして笑いを誘ってくるので、後半あたりからは徳井劇場を福田と一緒になって見ているような感覚がしてくるのも、見入ってしまう要素の一つになっているのかもしれない。

個人的には徳井がさりげなく「鈍器大好きっ子」「雉コロリスト」「鬼退治専門学校」などの謎キーワードを放り込んでくるのも好きだ。
こういった初めて聞くようなキーワードも、徳井がさも当然かのように入れてくるので、”実際にはない話”が”我々が知らないだけで本当はある話”かのように聞こえてしまう。

このネタで優勝しても何もおかしくないと感じるほど、私はチュートリアルのこのネタが好きなのかもしれない。

何よりこのネタから学べる教訓は「鬼退治も納税も、今日できることは今日しましょう」だろう。

-漫才
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