漫才

[M-1グランプリ2001]おぎやはぎ -ネタ書き起こし/審査/振り返り

2022年12月27日

M-1グランプリ2001

5組目

おぎやはぎ

ネタ

小木
「はい小木で〜す」

矢作
「矢作です」

二人
「おぎやはぎです」

小木
「早速なんですけどね、俺ね、歌手になろうと思ってるわけよ」

矢作
「お〜いほいほいほいほい」

小木
「うん」

矢作
「無理だろお前」

小木
「なんでなんで?」

矢作
「歌が下手なんだからお前」

小木
「いや下手とか言ってもね、歌手なんて大抵歌下手なの」
「あんなのレコーディングの時に機材でいくらでもできんのよそんなの」

矢作
「あ〜そういう話は聞いたことあるね」
「実際ライブでは下手だった、みたいなね」

小木
「そうそう、だから俺でも絶対大丈夫なの」

矢作
「やってみる?」

小木
「うん」

矢作
「じゃあ俺、音楽プロデューサーやってやっからよ」

小木
「おう、分かった分かった」

矢作
「じゃあレコーディングやってみようか」

小木
「頼むわ」

矢作
「(急に業界人のような口調になり)はい小木さん!」

小木
「はい!」

矢作
「(P役で)じゃあね、例のサビの部分今日撮っちゃいますんで」
「『夢の中では言えたのに♪君の前では言えない♪who〜♪』のところ」

小木
「は〜い分かりました!」

矢作
「じゃあミックス流しま〜す!いきますよ」

-矢作、無言で小木に手を添えゴーサインを出す
-小木、ヘッドホンを抑えるような仕草

小木
「あっ夢のな〜かでは言えるのに〜♪」

矢作
「"あっ"が入ってんだ、"あっ"がお前」
「『あっ夢の』っつっちゃってんじゃん」

小木
「あ、そう」

矢作
「"あっ"を入れんなよ。"夢の"だよ」

小木
「あっ夢の♪」

矢作
「ほら入ってんじゃん」
「もう一回もう一回」

小木
「あっ夢の♪」

矢作
「さらにはっきり入ってるよお前」
「今のは流石に分かんだろ、入ってるの」

小木
「うん、今のは流石にわかる」

矢作
「そうだよな」
「わかんなよ、入れんなよ」

小木
「分かった分かった」

矢作
「"あ"じゃなくて"ゆ"だよ」

小木
「おっけーおっけーおっけー」

矢作
「(P役で)はい!小木さん!いきますよ撮り直し!」

小木
「はい!」

-矢作、無言で小木に手を添えゴーサインを出す
-小木、ヘッドホンを抑えるような仕草

小木
「ゆっ夢の中には♪」

矢作
「ちょっとちょっと」
「"あっ"を"ゆっ"に変えろって意味じゃねえよ」

小木
「あ、違うの」

矢作
「違うよ"ゆ"一個だよ。『夢の♪』だよ」

小木
「え〜…『夢の♪』」

矢作
「そうそうそう!」

小木
「『夢の♪』」

矢作
「そうそう!」
「(P役で)はい小木さん!撮り直していきますよ〜!」

小木
「はい!」

-矢作、無言で小木に手を添えゴーサインを出す
-小木、ヘッドホンを抑えるような仕草

小木
「夢の中では言えたのに〜♪」
「あっ君のまえでは♪」

矢作
「ああ〜!惜しい!」
「惜しいなぁお前」

小木
「何、惜しいって」

矢作
「最初言えたのに。『君の』の前に入っちゃってた」

小木
「入ってた?」

矢作
「『あっ君の♪』つってた」

小木
「言ってた?」

矢作
「ちょっと練習いってみ?」

小木
「あっ君の♪」

矢作
「ほらほら、入ってるね」
「もう一回いってみ」

小木
「あっ君の♪」

矢作
「さらに入ってるんだよ」
「今のは流石に分かんだろ」

小木
「今のはね分かる」

矢作
「だから分かるなよお前」

小木
「恥ずかしいくらい分かった」

矢作
「そうだよな」
「言うなって。"き"」

小木
「きっ君の♪」

矢作
「なんでなんで?」
「"あっ"を"きっ"に変えるんじゃないの。『君』」

小木
「君の♪」

矢作
「そう」
「夢の、君の」

小木
「夢の、君の」

矢作
「(P役で)はいいきますよ小木さん!」

小木
「オッケー!はい!」

-矢作、無言で小木に手を添えゴーサインを出す
-小木、ヘッドホンを抑えるような仕草

小木
「夢の中では言えたのに♪」
「君の前では♪ い〜え〜な〜い〜♪」
「(小さく)フゥ〜♪」

矢作
「ちょっと最後中途半端だな」
「言うんだったら言う、言わないんだったら言わないほうがいい」

小木
「ああそう」

矢作
「今の『フゥー』くらいだとレコーディング上お化けの声入ったみたいになっちゃうから」
「ダメだなお前」

小木
「何?ダメだって」
「お前さっきから文句言ってるけど、俺はね歌がそんな上手くないっつったでしょ?」
「俺の才能は詞なの。詞を書くことがすごい才能あんの俺」

矢作
「あ〜、そうなの?まあ確かに詞が良ければ売れたりするからな」

小木
「そう、だから今日書いてきたんだ詞をよ」

-小木、ポケットから紙を取り出し広げ始める

矢作
「あ〜、そうなの?」

小木
「ちょっと読んでいい?」

矢作
「いいよいいよ」

小木
「(朗読のように)『料金の高いボウリング場は客足が遠のくという話を聞いた』」
「『ターキーを出したものには、豪華賞品を進呈というサービスを行なったが、一度離れた客は容易に取り戻せやしないのさ』」

矢作
「うん、ちょっといい?」

小木
「うん?」

矢作
「誰をターゲットにしてんの?」

小木
「いやこれはだから、ボウリング場の経営不振を訴えてるの俺は」

矢作
「狭いよ。狭い、ターゲットが」
「ボーリング場経営してる人しかわかんねえだろそんなの」

小木
「ああ〜…まあでも、次サビなの。サビ聴いて」

矢作
「う〜ん…」

小木
「(朗読調で)『16オンスじゃ重すぎる、14オンスじゃ軽すぎる』」
「『ちょうどいいオンスが見つからないのさ』『フゥ〜♪』」

矢作
「『フゥ〜♪』は決まりなんだ」

小木
「うん、そこはね」

矢作
「(歌詞カードを覗き込みながら)16オンスじゃ重すぎ14オンスじゃ軽すぎるんだろ?」
「これ15使えばいいじゃねえかよ。ちょうどいいオンス見つかっちゃったじゃねえか」

小木
「見つけないでそういうの」

矢作
「見つけないでっていうか見つかっちゃうもん」

小木
「まあでも俺がこれ詞書いたから、こっちのが気持ちが入るのよ俺、歌ってて」

矢作
「ああそう?」

小木
「だからこれでちょっとやろうよ」

矢作
「やってみる?」

-矢作、小木の歌詞カードを覗き込む

矢作
「16オンスじゃ重すぎる…」
「おっけーじゃあ『16オンスじゃ重すぎる♪』にする?」(『夢の中では♪』と同じメロディ)

小木
「いいねいいね。それで頼むわ」

矢作
「(P役で)はい!小木さん!いきますよ〜!」

小木
「はい!」

-矢作、無言で小木に手を添えゴーサインを出す
-小木、ヘッドホンを抑えるような仕草

小木
「あっ16オンスじゃ♪」

矢作
「"あっ"入った!」
「いい加減にしろ」

審査

各地の一般審査

札幌22点
大阪9点
福岡12点
合計43点

会場審査員

西川きよし77点
青島 幸男80点
春風亭小朝75点
ラサール石井82点
鴻上 尚史73点
松本 人志60点
島田 紳助50点

総得点

540点

振り返り

おぎやはぎのM1と言えば、この伝説的な一般審査の点数だ。

いつ見ても笑ってしまう。他も大概だけど大阪9点て。

果たしてこの時のおぎやはぎは面白くなかったのだろうか?

こうやってネタを見てみると、「おぎやはぎだな」という感覚がしっかりある。

のちに彼らのネタで定番になってくる矢作の「俺はお前のやりたいことは極力応えてやりたいと思っているから」というフレーズはまだないが、小木を甘やかすような力の抜けたツッコミはすでに健在だ。

この歌い出しで「あっ」が入ってしまうというやりとりを擦り続けるスタイルで決勝まで来ているのがカッコいい。

彼らの漫才は基本二人とも飄々としていて、小木の突拍子もないボケを矢作が優しく正していくというものだ。
ゆくゆく東京漫才と言われるほどの実力だが、おぎやはぎの真骨頂はあまりに自然に散りばめられたシニカルさだ。

冒頭でも「歌が下手でもミックスでなんとかなるから歌手になれる」というとんでもなく失礼なやりとりも、なんだか普通に過ごしてしまう。
矢作が再現する音楽プロデューサーの鼻につく偉そうな態度も、プロデューサーに対する舐めた感じを自然に組み込んでしまっている。

私が好きなおぎやはぎのネタ「結婚詐欺をしたい」では、小木が結婚詐欺をするために婚活会場で出会いを作れるか練習するというネタだ。
前提の倫理がぶっ壊れていてむちゃくちゃ面白い。そしてそれに矢作も加担するなよ。

バラエティでは矢作のそつない立ち回りが目立つが、やっぱり小木から出てくる"舐めた感じ"のボケがたまらない。

このネタでは急に登場する小木の歌詞がまた面白い。
ボーリング場の経営不振の歌詞を出そうなんてどうやったら思いつくんだ。

15オンスのくだりなどは特におぎやはぎらしい。
「15オンスでいいじゃねえか」
「そういうの見つけないでよ」
見つけないでよってなんだよ。

やはり小木の「理解はあるが常識がいまいちズレている奴」の空気感と、矢作の「常識はあるのに倫理が壊れている奴」のやり取りは、この生ぬるい温度感が一番だ。

-漫才
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